紫の物語的解釈

漫画・ゲーム・アニメ等、さまざまなメディアにひそむ「物語」を抽出して解釈を加えてみようというブログです。

【ハチミツとクローバー】花本修司の物語を追う[chapter.2]

2010-10-09 23:47:25 | ○○の物語を追う
前回からの続き


  はぐとの生活



修司のもとに、高校を卒業したはぐがやってきた。
はぐは故郷・長野を離れ、修司の住むマンションの別の階に居を構えた。
(といっても、実際はほとんど修司の部屋に住み着くことになる)

中学時代、祖母に圧迫され自由な創作が出来なくなり、その才能がしぼみかけていたはぐは
この浜田山美大に入学して修司と生活することにより、その才能を再び開花させることとなる。



修司ははぐの作り出すモノを見る度に驚いた。
はぐの作りだす何もかもが、今にも動き出しそうな迫力を持っていた。
「一度はぐの目で世界を見てみたい。どんな風に見えるんだろう」
とまで思うほどであった。

かつて美大生だった頃、どんなに目をこらしても自分には見えなかった世界。
果たせなかった夢と憧れ。
修司はそれを、はぐを使って果たすこともできる立場にあった。
しかし、それが本当にはぐの幸せに繋がるコトなのかどうか、
修司にとってはまだわからなかった。

原田の死により心を痛め、半分あの世に行ってしまっていたようだった修司であるが、
はぐとの生活を続けるにあたって、だんだんとこっち側の世界に戻って来つつあった。






ただ、いささか溺愛しすぎてるような感じもするが・・・。


  はぐと友だち



幼少の頃からそうであったが、はぐは人付き合いが苦手であった。
それに加え、はぐの持つ才能に嫉妬する者、期待する者、敬遠する者、
さまざまな人々の思念を一身に浴び、はぐはストレスで体調を崩すことが度々あった。



気の合う仲間たちが見つかるかもしれないと思って、はぐを浜田山美大に誘った修司であったが、
これには少し責任を感じるところもあった。
しかし、それをケアするのも自分の役目として振る舞った。



修司の懸念はしかし、じきに解決する。
はぐにも気の合う友だちが出来たのである。

 山田 あゆみ
 竹本 祐太
 森田 忍
 真山 巧

はぐと共によく行動することになる4人である。
山田あゆみと竹本祐太とは、特に仲良くなった。
友だちの存在は、はぐの創作にもプラスに影響することになり、
なによりも周囲の圧迫から来るストレスを跳ね返す恰好の材料となった。

これには修司も、「はぐをここに連れてきてよかった」と心から思えた。


  その後の理花



原田の死後、しばらく一緒に暮らしていたものの、このままではお互いのためにならないと
離れて暮らすことにした修司と理花であったが、友人としての付き合いは続いていた。
理花は相変わらず身体の調子は悪いようであったが、原田の後を追う真似はしないし、
原田デザインの仕事もこなし、表面上は普通に生活していた。



修司が理花のもとを離れるにあたって、教え子の真山を理花のもとに通わせていたが、
彼はしっかりと理花の役に立っているようで、安心もする。
しかし、修司には別の気がかりがあった。

真山が理花に惚れてしまったことである。
修司は、真山を他人のヘヴィな事情に深入りせずに器用に立ち回れる奴と見込んで
理花の手伝いにやったのだが、完全に裏目に出てしまった。
真山は理花の死んだ夫のことも知っており、全て承知で理花に惚れている。



修司は理花に「余計なコト言うよ」と前置きして、「真山じゃダメなの?」と聞くが
理花は首を横に振った。
修司はこうなった以上は真山に理花を救い出して欲しいとも思っている。


  しばらくのお別れ

春が来た。
4月になれば、はぐは二年生に進級する。
竹本は三年生に。山田は四年生に。真山は就職が決まり、
森田はたび重なる留年で八年生になることが決まっている。



そんな折、修司に恩師の徳大寺先生からフィールドワークの誘いが来た。
およそ一年近く、モンゴル・中国・京都を往復しながら調査旅行と研究を重ねることになる。

その間、はぐをどうするか。

はぐに世界を見せたいという気持ちもありながら、
体力的にキツく期間も長い調査旅行にはぐを連れていくことに不安もある。
しかし、マンションに一人はぐを残すのも、もちろん不安であった。



迷った末に、修司ははぐにフィールドワークのことを話し、「一緒に行かないか?」と誘う。
しかし、はぐから返ってきた答えは意外なものであった。




修司は驚いた。
そして情けないことに頭の中が一瞬、真っ白になった。

東京にはぐを連れ出し、精一杯大事にしようと決めていた修司。
でも本当はどこかで不安だった。本当に東京にひっぱり出してきて
よかったんだろうか。これがはぐのためになっているのだろうか、
ただの自分のエゴなのではないか、と。

でも、はぐはそんな修司の心配をよそに、着実に成長を遂げていた。
修司がアレコレ保護者目線の心配をする必要はなく、自分の考えをしっかりと持っていた。
それに、はぐを支えてくれるのは修司だけではなくなっていたのだ。

この一瞬、修司は保護者の視線とは別の視線ではぐを意識することになる。
でも、その意識の変化に修司はまだ気が付かない。



フィールドワーク出発の前日、はぐは修司のために四つ葉のクローバーを探してくれていた。
遠くに行く修司が病気やけがをしないようにお守り代わりに、と。
修司の夢が叶いますように、とお祈りを込めた四つ葉のクローバー。

でも、それは見つからなかった。
友だちみんなで晴天の土手を探したけれども、ひとつも見つかることはなかったのである。



修司に贈るものが見つからなかったと泣くはぐだったけれども、
修司はすでにはぐからたくさんのものをもらっていた。
原田が死んでから、半分あの世に行ったようになっていた修司を
こちら側に連れ戻してくれたのは間違いなくはぐだった。

長野の山村で行き場を失っていたはぐを東京に連れてくることで
はぐを広い世界へ解放した修司だったが、はぐを救うことで
いつのまにか自分も救われていた。
そのことを、最近になって気が付いた。

一年間。しばらくのお別れ。
翌日、修司はモンゴルへと旅立って行った。


 次回へ続く

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