紫の物語的解釈

漫画・ゲーム・アニメ等、さまざまなメディアにひそむ「物語」を抽出して解釈を加えてみようというブログです。

【るろうに剣心】弥彦の物語を追う[第三幕]

2011-04-02 18:40:35 | ○○の物語を追う
前回からの続き


  東京での生活



京都での死闘を終え、東京の神谷道場に戻ってきた剣心に大きな変化があった。
京都へ行く前までは、剣心自ら弥彦に稽古をつけることは決して無かった。
しかし、京都から帰ってきてからというもの、剣心は毎日のように弥彦に稽古をつけるようになったのだ。
それは、弥彦の「神谷活心流で強くなる」という目標に、剣心なりに協力しようという意志のあらわれであった。

まるで、流浪人の身であるゆえいつどこに流れるかわからない生活をしていた剣心が
神谷道場に腰を落ち着ける決心をしたかのようであった。

弥彦もそのことが嬉しく感じられ、喜んで剣心の稽古を受けた。



しかし、剣心に見込まれているとはいえ、弥彦はまだ十歳の少年である。
闘いの臭いのするような事柄に関して、剣心は左之助以外を極力巻き込まないようにしていた。

「左之には話しておくべきでござったな」
という剣心の言葉が、弥彦の胸に淀みのようなものを落とした。


  異変



ある夜、東京に轟音が響いた。
上野山より砲撃があり、牛鍋屋「赤べこ」が直撃を被ったのだという。
闘いの気配を感じ取った剣心と左之助はすぐに上野山に急行する。
弥彦も置いて行かれまいと二人のあとを追うが・・・



二人の速さはとてつもなく、弥彦はみるみる距離を離されてしまった。
いつか剣心達のような凄い男達と肩を並べることを夢見ていた弥彦にとって、
それは厳しい現実であった。

結局、その夜上野山で何があったのか弥彦にはわからず仕舞いだった。




焦った弥彦は、師である薫に神谷活心流奥義の伝授を願い出る。
しかし。



弥彦の焦りを見た薫に、「これ以上強くなるにはまだ危うい」と諭されてしまう。
「やみくもな強さを求めている限り、神谷活心流の奥義は教えられないし会得することも出来ない」
薫は弥彦にきっぱりと告げるのだった。



その言葉は弥彦に重くのしかかり、「剣心と肩を並べることのできない自分」を
さらに強く実感することとなった。

そして、弥彦が自らの無力を噛みしめることとなる決定的な出来事が起こる。



夜中、神谷道場の門を叩く者があった。
それは、かつて剣心が一度だけ薫たちと共に出稽古に赴いたことのある、
前川道場の門下生であった。
現在、前川道場が道場破りの襲撃を受けている最中なのだという。
これを聞いた剣心は、前川道場へ急行しようとする。
弥彦も同行を願い出るが、



剣心に激しく拒絶されてしまう。
いくら「十歳にしては強い」「剣心に見込まれている」とは言っても、
今、剣心が直面している問題に対しては全く力になれない自分。
弥彦は、そんな自分がたまらなく嫌だった。



「やっぱり奥義教えてくれねーか」
弥彦はあらためて薫に奥義の伝授を願い出る。
これは、やみくもに求める強さではない。
剣心が直面している問題に対して、今こそ力になりたい!
もう自分だけ弱いのは嫌だ!という、弥彦の切実な願いであった。

そこには、ただおぼろげに強さを求めていた今までの弥彦ではなく、
より具体的な強さを求めはじめた弥彦の姿があった。


  神谷活心流奥義



弥彦への神谷活心流奥義の伝授がはじまった。
それを見た剣心は、弥彦に奥義はまだ早いのではないかと指摘するが、
弥彦が「もう自分だけ弱いのは嫌だ」と、剣心の力になるために必死で成長しようと
していることを知ると、すべてを納得した。



剣心は成長を急ぐ弥彦を見て、弥彦なら自分のように道を踏み外しはしないだろうと悟った。
同時に、弥彦が今回の異変をしっかりと感じ取っていたことで、
今自分に何が起きているのかを皆に説明する決心がついた。

剣心は、神谷道場の庭に皆を集めて、自らの過去と今回の騒動の発端を語る・・・。


  剣心の過去



それは、壮絶な話であった。
幕末の頃、「人斬り抜刀斎」であった剣心。
弥彦はその事実は知ってはいたが、詳しい過去については一切知らなかった。
それが今、剣心の口から語られている。

剣心は幕末の頃、自らの妻を斬殺していた。
これは不幸な事故であったが、以来、剣心は己の罪と向き合って生きるようになった。
今回の騒動は、剣心が斬殺した妻「雪代 巴」の弟「雪代 縁」が首謀し、
緋村抜刀斎に恨みを持つ者たちを集めて行っている復讐戦だったのだ。



この話は少なからず弥彦に衝撃を与えた。
剣心が十五歳で結婚していたことについても驚きを隠せない。
左之助から、「当時武士は十五歳で成人扱いだった」ということを聞き、
弥彦は「元服」という言葉を強く意識するようになった。



そして、なにより剣心の真の強さを知った思いがした。
剣心の強さは、飛天御剣流の強さだけではなく、死ぬより辛い心の痛みに耐えてきた
強さがあってこそのものなのだ。
今の自分のように「自分だけ弱いのはもう嫌だ」という半端な気持ちでは、その強さにはたどり着けない。

「俺は、本当の意味で強くなりたい」



「そして剣心の跡を継いで、この目に映る弱い人達や泣いている人達を守りたい」


今は絵空事のような夢だが、傍らで聞いていた左之助は「案外こいつなら叶えかねねェかもな」と
期待せずにはいられなかった。


  神谷道場決戦



雪代縁たち復讐者たちは、決戦の場に神谷道場を選んだ。
闘うことに迷いのあった剣心だったが、皆に己の過去を告白してからというもの、
大切な今を守るために闘うことを決意していた。



そして、弥彦もこの決戦に参加することとなる。
剣心からは、基本的には守りに専念すること。しかし、最悪の場合攻めに転ずることを
許可されていた。



闘う剣心の背中を見守る弥彦は、「いつか必ず俺もあそこへ!」と強く思う。
そして・・・



弥彦はついに、剣心に闘いの場を任される。
相手は「乙和瓢湖」。
緋村抜刀斎に友人を殺された恨みから復讐戦に参加した暗器使いであった。



剣心に闘いの場を任されたことで、剣心と肩を並べることができたと思いきや、
剣心は遥か前へと走っていた。
しかし、今はこの場を全力するのみ。
初めて任された、この闘いの場を!


  三度目の命懸けの闘い



乙和瓢湖は強かった。
全身に巧みに隠された暗器は弥彦の身体を深く傷つける。
剣心は弥彦に退くように指示するが、弥彦は決して退こうとはしなかった。



「守られてばかりいたらもう、これ以上強くなれない」

傷だらけで立ち上がる弥彦から不退転の覚悟を感じ取った剣心は、
あらためて弥彦に闘いの場を任せる。
しかし、剣心は闘いの続行を認めるにあたり、次の言葉を添えた。

「今ここで闘いの続行を認めてもしお主が死ねば、結果見殺し」
「拙者に二度と逆刃刀を手にする資格は無い・・・」
「今この時だけ拙者の不殺の信念をお主に預ける。闘え、そして勝て!」

この瞬間、弥彦の竹刀に剣心の信念が乗った。
それは、かつて燕を守るための決闘で、自分の命運と共に守るべき者の命運をも刀に乗せた時と
似た状況であった。
弥彦は自分の信念と共に、剣心の不殺の信念をも刀に乗せて決闘に臨む。



思えば、命懸けの闘いはこれで三度目。
一度目は、燕を守るために士族の男に決闘を挑んだとき。
二度目は、京都葵屋防衛戦にて、十本刀・飛翔の蝙也と対決したとき。
そして、三度目が今この場である。

まだ、たったの三度目!

決戦前夜に誓った「本当の意味で強くなりたい」という誓いを叶えるため――
遥か前を走る剣心の背中に追いつくため――
俺は勝つ!! そして闘い続ける!!!



神谷活心流奥義の防り「刃止め」が乙和の刀を止め、
神谷活心流奥義の防り「刃渡り」によって、乙和は完全に打ち倒された。
弥彦の完全な勝利であった。

勝利と同時に失血により弥彦は気を失ってしまうが、



その顔は少年の殻を突き破って成長した男の顔になっていた。
剣心は弥彦の勝利を褒めた。
剣心の不殺の信念も、弥彦によって守られたのである。


 次回へ続く

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