@サラ☆
赤ちゃんを育てながらも、フサコさんはやっぱり
習い事の一つもしたいものだと思いました。
〝自分だけの時間〟は生きていくうえで大切、
なくてはならない、と考えたのです。
★習い事を一つは続けたいフサコさん
夫の三津田氏がいかにやさしい人だったかというエピソードが、もう一つあります。
子育ても家事も、慣れないことばかりで大変でしたが、
とはいえフサコさんは、お母さまがそうしていたように、
自分も習い事をせめて一つくらいは続けたいと思いました。
家事や育児以外に、自分だけの世界を少しでも持っていたいと思ったのです。
そこで京城に戻りしばらくして生活が落ち着くと、
「仮名習字だけでも習いにいきたいのですけれど」と三津田氏に告げました。
仮名書道なら、家事の合間に字の練習することも可能です。
ずっと続けてきたお習字。
筆をもって半紙に字を書くときの呼吸や間合いは、気持ちをビシッとしてくれ、
心が澄み渡る瞬間です。
フサコさんにとっては同じ場所にいながら、現実から遊離する精神的な時間でした。
三津田氏は冨佐子さんの話を聞くと、
「いいんじゃないですか」と頷きました。
批判や堅苦しい意見は一切なしです。
それどころか、週に一度のお稽古のときには、
赤ちゃんを預かってくれました。
(女中さんに預けっぱなしにはせず、ちゃんと目を光らせて、あやしてもくれました。)
フサコさんは、どんなにうれしく思ったことでしょう!
いまでこそ、普通に見られる風景ですが、
当時としてはなかなか考えられないこと。
三津田氏はフレキシブルな考えの持ち主だったのでしょう。
それにフサコさんのことを心から大事に思っていましたから、
フサコさんと赤ちゃんのために1時間半ほど時間を割くことぐらい、
どおってことはなかったのです。
老女のフサコさんは当時を思い返し、こう言います。
「わがままかもしれないけれど、私は客観的に見て、
正しいと信じることしかしませんでした。
決してやりたい放題というわけではなかったのよ。
それにしてもね、私のわがままをいつも聞いてくれた、優しい夫でした」