須賀敦子。研究者で翻訳家、エッセイスト。
書店で分厚い文庫の全集が出ているのを手にとって、あふれ出るような言葉の豊かさや、独特の空気感の文章に惹かれた。
とくに、ファデットというジョルジュ・サンドの書いた物語の主人公の名前を、見出しにみつけて、読んでみることにしました。
さて、読み進んでいくうちに、アントニオ・タブッキというイタリアの現代作家について書いた一文が出てきた。
『インド夜想曲』『逆さまゲーム』などの作者。(ちなみに、この二作とも、須賀敦子さんが翻訳したらしい)
といわれても、初めて聞いた名前なので、うーん。
でも、とても心を引かれた箇所があって、それは、「タブッキは記者の質問に答えて、自分の幼年時代の愛読書が『海底二万マイル』であったことに触れ、おさない彼にとってノーチラス号のネモ艦長こそは、だれよりも尊敬した偉大な英雄だった、そしてその考えはいまも変わらないといった意味のことを述べている。ネモ艦長はとりもなおさず《裏側》の世界をつかさどる、無敵で淋しい英雄なのだが、タブッキはヴェルヌが創造した、ほとんど自己完結的な海底世界、すなわち《裏側》の世界を、成長の過程で《文学》あるいは《虚構》の世界とすりかえ、そのうえで、自身この世界に君臨するネモ艦長その人になることを決意したと考えてよいだろう。」(須賀敦子全集弟4巻)というところ。
本好きの子ども時代を送った人はすべて、自分のなかにお気に入りの物語の世界があって、大人になっても、そこに心の拠りどころを見出している、というのがサラの持論。
「タブッキよ、あなたは『海底二万マイル』ですか」
という、まあ、完璧自分サイドの視点から、面白がっているわけです。
ちなみに、須賀さんがしきりに《裏側》と言っているのは、見えない世界、現実の裏側にあるイメージの世界という意味だと思います。
タブッキは1943年に中部イタリヤのピサで生まれました。
第二次世界大戦直後のイタリヤで、『海底二万マイル』の冒険世界に胸を躍らせる少年だった。タブッキは子ども時代、海底という独特の空間と、独特の性格をもつネモ艦長に夢中になっていた。
どんな作家なのかわからないけれど、『インド夜想曲』、ちょっと読んでみようか、なんて思いました。
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