この絵は『はてしない物語』に出てくる「コリアンダー氏の古書店」のイラスト画。
ミヒャエル・エンデの直筆によるもので、長野県の黒姫童話館に展示されている。
赤みがかった茶色一色の背景に、墨のペンで描かれた本棚の一冊一冊。
コリアンダー氏は本棚の向こう側にいて姿は見えず、ただタバコの白い煙がいびつな輪になって揺らいでいる。
エンデの父親はドイツでは有名なシュールレアリズムの画家だった。
母親も晩年に幾つもの絵を残している。
エンデ自身が2人から絵の才能を受け継いだというのは、当然だろう。
『はてしない物語』を映画化した『ネバーエンディング・ストーリー』にこの古書店が登場するけれど、エンデ自身が考えていたイメージはこんなふうだったのかと、興味深い。
さらに黒姫童話館のエンデ展示室で目を引くのは、『モモ』の表紙と裏表紙の一続きの絵。
エンデが描いた「モモの最初の表紙試案」だ。
濃いブルーを基調の色として、表紙には“時間の花”を持ってカメのカシオペアを抱えたモモが、正面を向いている全身の絵が描かれている。
星が瞬き、夜の闇に浮かぶ女の子。
裏表紙には、灰色の男たちが全員こちらを向いて、タバコをふかし、不気味さを漂わせている。一面顔、顔、顔……。
日本で出版されたモモの表紙では、モモは背中しか見せていない。
だからこうして、エンデ自身がイメージしたモモを見られるというのは、エンデファンとしては得がたい体験なのだ。
この絵は河出書房新社から出ている『エンデの贈り物』に掲載されている。
でも残念ながら、実物の絵の色の深みは、写真で表現するのはむずかしかったようだ。当然だけど、実物のほうが数倍もいい。