ローマン・ブリテン4部作の最後を飾る『辺境のオオカミ』です。
ブリテン(現代のイギリス)にもその勢力を伸ばし、領地としていたローマ帝国は、衰退の一途をたどり、この物語の主人公アレクシウス・フラビウス・アクイラの頃には、最後の息吹といってもよい時代でした。
紀元後343年、というのがアクイラの物語が語られる年です。
大昔ですよねぇ。
日本では、聖徳太子よりもずっとずっと前の話です。
しかし、サトクリフが語る人物群像は、まるで現代でも通用しそう。
歴史という舞台を借りて、現代人が物語をつづっているからかな。
サトクリフは、古い西部劇からヒントを得て、この物語を書き始めたそうです。
アメリカ騎兵隊の将校の一人が、若かったときに、誤った判断の結果、多くの部下をなくしたにもかかわらず、またもや、同じ判断をせざるを得ない皮肉な状況追い込まれる、というネタでした。
そこで、サトクリフは、このネタをもとにローマの軍隊の物語をつづることにしました。
アレクシウスは、氏族が砦を攻撃してきたとき、撤退を指示して、多くの戦死者を出しました。
怠るべきでない注意を怠ったために、敵の策略に引っかかり、判断を誤ってしまったのです。
おじが北ブリテン最高司令官であるため、18歳で軍団に入ったあと、着実に出世を遂げ、23歳になる少し前、22歳で、司令官につぐ地位についたアレクシウス。
経験不足だったのは否めません。
そこで査問会議にかけられます。
その結果は、当然のように左遷でした。
カステッルムの辺境守備隊。
ところが、カステッルムに移動したとたんに、アレクシウスはもって生まれたリーダーシップを発揮し始めます。
物語の面白さはここからです。
そして、やがて、ふたたび砦を氏族に攻撃される羽目に陥り、撤退するか、とどまるかの判断を下さざるを得なくなります。
皮肉な状況です。
初めて撤退を決断するよりも、何倍もの勇気がいるでしょう。
前回撤退したのは失敗で、そのために叱責と軽蔑という手ひどい痛手を受けたのです。
さて、こういう状況で撤退できるのか。
しかし、アレクシウスは撤退を決断。
手に汗を握る撤退劇が繰り広げられるのです。
描かれているのはリーダシップ。
勇気ある、しかも的確な、その決断しかありえないような決断をする力。
軍隊の物語。合戦のシーンも、撤退して逃げるシーンもすごい!
ほんとうに車椅子の女流作家が書いたのでしょうか?
結局、想像力は現実を大きく超える力があるのでしょう。
すばらしいです。
サトクリフのローマン・ブリテン物語。
きっとあの時代に、彼らが生きていたのは間違いないと思わせる迫力です。
物語上の人物群だけど、サラは、彼らは実際に生きて、死んでいったのだと信じます。
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