「あきらめる」=執着を手放す、踏ん切りをつける
『ともしびをかかげて』はカーネギー賞ほ受けており、ローズマリ・サトクリフの代表作のひとつです。
この本は、「守り人シリーズ」の作者、上橋菜穂子さんにとって運命の本であったと、あとがきに書かれています。(→「運命の本──『ともしびをかかげて』によせて」)
上橋さんは、この本は「重く、暗く、激しい物語だ」と述べています。
そして、こんな印象的な内容のことを書いているのです。
あとがきから引用します(岩波少年文庫)。
「子どもの頃(15、6歳の頃)、『ともしびをかかげて』を読んだとき、もっとも心に残ったのは、フラビアとネスの生きかただった。
何十年も経った今読み返してみても、やはり、私は、このふたりが好きだ。
残酷な運命によって、温かい家族の炉辺から強制的に引き離され、敵(あるいは異邦人)の妻にされ、子を産み、生きていかざるを得なかったふたりの女たち。
子どもの頃は、彼女らの『どんな状況の中でも暮らしていく』力の強さに打たれたのだけど、読み返してみてはじめて、彼女らの『どんな状況の中でも暮らしていく』強さが、実は『あきらめること』によって生まれていたことに気づき、あらためて、サトクリフの凄さを感じた。
『あきらめないこと』を大切なこととして描く物語は星の数ほどもある。
しかし、実際には『あきらめること』も同じこくらい大切なときがあるのだ。
あきらめるのは、辛いことだ。
大切なものを手放していく決心をするのは、容易いことではない。
それでも、どうしてもままならないことに、いつまでもこだわらず、それを手放してやることで、はじめて新しいものが見えはじめ、心が楽になることもあるはずで、それもまた、とても大切なことだろう」
作家の書く文章は、緊張感と説得力がありますねぇ。
『第九軍団のワシ』のことに触れたブログ記事で、マーカスとエスカについて同じようなことを書いたつもりだけど、捉え方の迫力と深さで、問題外で負けてます。
自分の存在理由だといってもいいほど、自分の心を占めていることにたいする執着を手放すこと。
「もういい!」とスパッと踏ん切りをつけることで、頭の中をぐるぐる回っている苦しさや憎しみ、悲しみ、激しい感情から解き放たれることもあるのだということでしょう。
そういう経験をしたことはありますか?
最近の「上橋菜穂子の世界」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
- ジブリノート(2)
- ハル文庫(100)
- 三津田さん(42)
- ロビンソン・クルーソー新聞(28)
- ミステリー(49)
- 物語の缶詰め(88)
- 鈴木ショウの物語眼鏡(21)
- 『赤毛のアン』のキーワードBOOK(10)
- 上橋菜穂子の世界(16)
- 森について(5)
- よかったら暇つぶしに(5)
- 星の王子さま&サン=テグジュペリ(8)
- 物語とは?──物語論(20)
- キャロル・オコンネル(8)
- MOSHIMO(5)
- 『秘密の花園』&バーネット(9)
- サラモード(189)
- メアリー・ポピンズの神話(12)
- ムーミン(8)
- クリスマス・ブック(13)
- 芝居は楽しい(27)
- 最近みた映画・ドラマ(27)
- 宝島(6)
- 猫の話(31)
- 赤毛のアンへの誘い(48)
- 年中行事 by井垣利英年中行事学(27)
- アーサー・ランサム(21)
- 小澤俊夫 昔話へのご招待(3)
- 若草物語☆オルコット(8)
バックナンバー
人気記事