バーネットの『秘密の花園』は、1993年にハリウッドのワーナーブラザーズにより映画化され、ヒットしました。
制作総指揮はあのフランシス・フォード・コッポラ。
監督はポーランド出身の女性監督アニエスカ・ホランド。
煙るようなノース・ヨークシャー地方の景色が画面に広がり、見る人を魅了します。
イングランドのローズガーデンのナチュラルな美しさ。
春になると、画面上で草木が芽生え、生命が躍動し始めるのです。
そんな映像も素敵な映画ですが、注目したいのは、「わたしはメアリ・レノックス」と一人称でナレーションが語られるように、主人公は明確にメアリ・レノックスだということ。
だから、これはメアリ・レノックスの物語です。
物語の結末も、原作の本とは少し違います。
領主クレイヴンが息子のコリンと花園のところで会うのは一緒なのですが、自分が無視されたように感じてその場から走り去り、荒野の入り口で沈み込むメアリのところにクレイヴンがやってきます。
そして、「すべてはきみのおかげなんだね」
「ありがとう」とメアリにやさしく言葉をかけます。
最後のシーンは、コリンとクレイヴンの父子2人だけでなく、ちゃんとメアリもいっしょです。
3人でほんとうにうれしそうに館に向かって歩いてくるのです。
ねぇ、映画を作るスタッフの人たちも、原作の結末は「どうよ」と思ったに違いない。
だってねぇ、原作はまるで物語をコリンにのっとられたような終わり方だもの。
コリンが悪いわけではないけれど、「どうしてメアリの存在が影にかくれ、消えてしまっているの?」
とだれだって思うはず。
メアリの意地っ張りで、自己中心で、好奇心旺盛なタフさが、物語を引っ張っていくのです。
それに率直で、心がぐんぐん成長していくところ。
『秘密の花園』は再生の物語です。
春のなればまた命が芽吹き、景色が一変するように、人間だってその気になりさえすれば再生できる。
その秘密の鍵となるのがシークレット・ガーデンというわけです。
なんといっても、メアリの再生がコリンとクレイヴン氏を引っ張っていったのです。
だから、読者の共感はメアリに傾くはず。
だから、映画の結末のほうがよほど納得できます。
なぜバーネットが、ああいう終わり方を選択したのか、疑問に残ります。
その疑問は誰もが感じる。
映画がその疑問を違う結末という形で解決してくれています。
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