サラ☆の物語な毎日とハル文庫

「大人を魅了する“児童文学”~作家・上橋菜穂子の世界~」NHK特報首都圏についてのノート

2014年7月18日に放映されたNHK特報首都圏「大人を魅了する“児童文学”~作家・上橋菜穂子の世界~」は、上橋さんへのインタビューを中心に構成された興味深い番組だった。

少し時間がたってしまったけれど、ノートとしてまとめておきたい。

 

上橋さんが国際アンデルセン賞を受賞したのは、3月のこと。

「単純な勧善懲悪を描くのではなく、多様の価値観が息づくファンタジー」というところが評価されたようだ。

審査員長のマリア・ヘススさんは「いまも世界で多くの争いが起きています。私たちがどうすれば平和に共存できるのか、上橋さんは大切なメッセージを投げかけています」と語っている。

 

★私が書くのは「子どもにも大人にも届く物語」

子どもだけに届かせよう、という気持ちはない。

 

世界には、善悪では分けられない多様な価値観が存在する、というのが物語にこめられたメッセージである。

 

★善悪を描こうという気持ちは一切ないですね。

むしろ万華鏡のように一つの視点で見たことが別の視点になると違う。

もし一番怖いことがあるとしたら、固定することです。

ある一つの立場に止まってしまうことのほうが、私は怖いです。

「そのお立場は、動かしたら変わりますよ」と、いつも思ってしまう。

 

★本当に人間の世界って変わるんです。

どんどん変わっていくんですね。

で、多様に変わっていくなかで、一つの場所に固定していると、それに対応できなくなって金属疲労を起こしちゃったりするわけです。

 

★オーストラリアでアボリジニのフィールドワークをしていて、一人の女性と出会ったときのこと。

「他の人たちの文化がまちがっているなんて思う必要はない。

私たちは誰かを批判したくない。

みんな同じように地球上に生きているんだもの」というのを聞いた。

どうしたら人が気持ちが楽に暮らせるかなとまず考えて、そこから出てくる発言だった。

それは私にとっては、一つの人間の理想的なあり方、ここまでは行けるかもしれないと思える、とても現実的な理想のあり方に出会った気がしました。

 

(守り人シリーズより抜粋)

「私はよその国の神話だからといって、それを頭から否定するほどバカじゃない。

どこの国の人でも皆、気が遠くなるほど長い年月をかけて、この世の本当の姿と成り立ちを知ろうとしてきた。」

 

上橋さんは、新作『鹿の王』の執筆のため病院を訪ね、医療現場で実際に行われている治療法を自ら体験し、描写に活かそうとしていた。

★描写するときにシーンが頭の中に浮かんでないと、間違った描写になる。ゲラ、直さないといけないかも…

 

医学のほか、生物学、気象学、中世の旅の専門書など、さまざまな専門書を読み込み、物語にリアリティをもたせようとしている。

リアルへのこだわり。

 

★物語を書くときには、そこに人が住めるような、読んでる人間がそこに住んでしまうような、そういうものとして書きたいものだから、そういう意味でのリアリティと言えば、そうかもしれないですね。

 

★私ね、基本的には物語って絶対何かの役に立とうと思って書いちゃいけないと思ってるんです。

私にとって、物語の命はとにかく「面白い」こと。

ただ、もし、なにかそういう意味で読んでる人たちに力を与える部分があるとするならば、それは、ある困難な状況のなかを生きる人の姿を、私はかなり誠心誠意こういう状況のなかだったら、こういうふうにして生きたらこうなった、ということを書いているんですね。

人は皆、自分の人生しか生きられませんが、物語のなかで別の人がたどっていくその人生を生きることができるので。

それがそれこそ、食べるものの味から、ありとあらゆることがそこで暮らしているような、その人になったような気持ちで生きてくれたら、そのあと得る感覚というのが「もしかしたらこうするべきかもしれない」、あるいは「こうしてしまったら、こうなるかもしれない」ということに対する視点を与えることはあるかもしれない。

 

★私のなかにあるのは、ものすごく厳しい、現実の厳しさと哀しさとむなしさが一番最初にあります。

それがすごくあって、でもどこかに「何とかならないかな」という気持ちもあるわけです。

で、「こうであってほしい」という願いはあります。

多分ファンタジーと呼ばれるような物語というのは、「現実は厳しいんだよ」で終わる話ではないんですね。

その向こう側に「では、どうでありたいのか」という願いを多分思いながら書く物語だと思うんですよ。

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