救急病棟から一般病棟に移ったと連絡があり、母に面会に行った。
ベッドの母はますます老婆になっていた。
私の顏を見ると、わかっているのかいないのか。
義歯をはめていないため口元が陥没して、もぐもぐするだけ。
何か言おうとするのだけれど声が出ない。
1週間も寝たきりでいると、関節が拘縮して普通の人でも体が痛くなる。
ましてや高齢の母だから、かなりの痛みなのだろう。時々顔をしかめる。
何かが見えているようで、しきりに天井の一点を見つめている。

点滴を入れ替えに来た看護師さんに少し質問すると、てきぱきと答え、病室を出て行った。
とても若い可愛い看護師さん。
今の母の場所からずっと遠くにいる人だ。
超高齢化社会。
この世界で、母の存在は芥子粒以下でもはやどうでもよい命だろう。
でも、私にとってはただ一人の親だから、目の前で苦しんでいる姿は胸にこたえる。

人生のうちで大半の人が経験する病の試練。
でも、溌剌とした日々を取り戻すための試練と、終わりに向かって進む試練とでは、苦しみが違うような気がする。
今の母の顔を見ていると、近い将来の自分の姿を容易に想像することができる。
今を大切に。
母がそれを教えてくれようとしているのかもしれない。