井沢満ブログ

後進に伝えたい技術論もないわけではなく、「井沢満の脚本講座」をたまに、後はのんびりよしなしごとを綴って行きます。

幻の第九

2018年10月20日 | 日記

昔、鎌倉に住んでいる頃、暮れの「第九」を聴きたくて
時間のない中、東京の会場に出かけたことがある。

ところが、給料のベースアップ闘争とかで指揮者、演奏者が
当夜の公演をボイコット。
指揮者は、険しい顔でタキシードで表の寒風の中、
佇んでいたので、ぎりぎりまで団体交渉していての
決裂で、中止は本当に突然であったのだろう。

遠路というほどでもないが、暮れの押し迫る中時間を
やりくりして馳せ参じた身には、演奏会会場前で
伝えられた「中止」はいささかこたえた。
今でも、その時の情景をくっきり思い出すぐらいだから。
東京へ向かう車中、脳裏にこうもあろうかと
鳴り響いていた交響曲が、ぷつりと途絶えた。

9千人を予定していた観客が7千人だからと、公演を
直前にキャンセルした歌い手さんの報道で
思い出したことだ。

その歌い手さんへの、批判ではない。
大きな星であり続けた人の矜持であろうし、
またファンの多くがもし納得しているのなら、
はたでとやかく言うこともないのだろう。

ただ1枚のチケットに託した一人ひとりの思いは
それぞれで、その1回の公演のために無理を押して遠路かけつけた
人もいるのだろうし、昔の自分の心情と重ね合わせてみると
気落ちしたその心の裡も解るので、余計なことを
書いた。

私個人のことを述べるなら、観客が一人でもやる。
ただ私が、その歌い手さんのように星であったことも
その誇りを抱いたこともないので、むろん同列に
並べるのは筋違いで、あくまでも自分なら
そうするというだけのことである。
拒否するのも心意気なら、やるのもきっと心意気。

暮れの第九は、中止に愕然としてから20年の後に、
別の会場で聴いた。しかし聴かずに終わった第九のほうが
強い思い出として残っている。

今年の年末もどこかで、第九が鳴り響くのだろうか。
第九と日本の年末とにいかなる関係があるのか
解らぬが、調べてはいない。


3 コメント

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食事会は、今日だったような・・・ 先生、楽しい時間をお過ごし下さい (美しい日本)
2018-10-20 02:05:09
井沢先生  こんばんは

中尾ミエさんのご意見をご紹介させていただきます(私も似たような事を思いました)。

中尾ミエが沢田研二を一喝「ぜいたく言ってんじゃないわよ。意地があるならもっと痩せろ」
https://www.hochi.co.jp/entertainment/20181019-OHT1T50106.html



“ 年末に第9 ” は諸説あるようですが、参考になりそうなものを貼らせていただきます。

特集 なぜ日本人は年末に第九を聴くのでしょうか
https://tower.jp/article/campaign/2014/12/04/01

年末にベートーヴェンの『第九』を演奏するのは日本だけってホント?
https://tenki.jp/suppl/m_yamamoto/2015/12/14/8481.html

実は日本だけ?年末にベートーヴェンの「第九」交響曲が流れる理由
https://precious.jp/articles/-/2796
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反原発? (芦屋川)
2018-10-20 10:50:25
井沢先生の、簡潔で美しい文章、声にして読むと、すがすがしささえ覚えます。いつもありがとうございます。

歌手の方が以前から行っていた反原発の署名活動を会場内でしようとしたところ、
政治的活動禁止という規則(契約)に反すると言われ、できなかったことに腹を立て、
コンサートをやめてしまったという噂もありますね。
マスコミ、TV局などがそのような報道はしていない様子なので、事実かどうかわかりません。
わからないままの噂を書きましてすみません。
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第九の演奏はいいですね (ひなぎく)
2018-10-20 11:13:47
井沢先生、こんにちは。いつもブログ楽しみにしています。
コメントは久しぶりです。
日本で第九が年末恒例となったのは、戦後貧しかったオーケストラのメンバーたちが今のままでは年を越せないということで、第九ならチケットも売れるだろうし、臨時収入を得るために演奏したから…という話を聞いたことがあります。
参考になりましたら、幸いです。
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