媚薬

　knock knock





「はーい、どうぞー。マーキュリー？」
「ヴィーナス、遅くにごめんなさい。入るわね」
「いやあ、マーキュリーが遅くに来てくれるなんてうれしいわ。ふふ」
「ノックだけでよく私だってわかったのね」
「そりゃあこんな時間にあたしの部屋に来るのはあなたくらいよ」
「・・・日頃から定時内で仕事を回してくれれば、私も遅くにあなたの部屋に来ることもなくて助かるのだけど」
「いやまあそれもあるけど・・・そうじゃなくて、大人の時間じゃない？ねえ？その時間に来るのはあなただけってちょっとは、ねえ？」
「ねえ？の意味がわからないわ」
「うーん、知性の戦士なんだから言葉の意味を察さないとだめよ？それに、今日は、おしごとでこんな時間にあなたが来なきゃいけないようなことはしてないはずだけど」
「あ、ええ。仕事で来たんじゃないわ」
「ふふーん。なんの用かしら」
「仕事ではないけど、前にちらっと言ってたでしょう。媚薬を作ってほしいって。できたから持って来たの」
「ええっ、ほんとに作ってくれたの！？」
「私も、知識として興味はあったし。あなたが欲しいって言ってくれたから、いい機会だから作ってみたの」
「ま、マーキュリー・・・」
「じゃあ、置いていくわね。この小瓶ひとつで１回分、飲むタイプだから」
「えっ、置いていくって。なんで行くのよ。せっかくだから今から使いましょうよ」
「それは止めないけど、一応薬だからくれぐれも量は守ってね。じゃあ」
「えっなんで行っちゃうの？なんでそんな他人ごとなの？ふたりの問題でしょう。これ」
「だから私はあなたに頼まれた薬を持ってきて、あなたはそれを受け取った。これで私とあなたの問題は解決していると思うのだけど」
「・・・あたしが媚薬を受け取って、なにに使うか興味ないの？」
「そういうのはプライベートの問題だから。私は頼まれたものを持って来ただけよ」
「・・・あたしをこの薬をほかの誰かに使ったらどうするつもり？」
「自分に使うんじゃないの？他人に同意なく薬を飲ませるなんて、そう言うことをするのなら倫理的に問題があるし、第一処方が違ってくるから渡せないわ。てっきりヴィーナスが自分で使うかと・・・」
「いや確かに自分で使うけど！！そういう問題じゃないわ！！」
「ならいいけど・・・私の作ったもので、私の知らないところでそれで誰かが具合悪くなったりしたら、医療担当として私の沽券に係わるのよ」
「いやコケンってなに？この薬使って係わるのはあなたの股間でしょ」
「・・・・・・？」
「なに不思議そうな顔してるのよ！？ひとりで媚薬飲んでなにが楽しいのよ！相手がいないと意味ないでしょ！！あなたが！！」
「私はもう自分で散々ためしたからもういいわ」
「えっ」
「作ってる最中に。安全面を考慮するとほかの人で試すわけにはいかないし」
「ええっ、じゃあマーキュリー媚薬を飲んでたときが何度もあったってこと！？そんなおいしいシチュエーションなんで呼んでくれないのよ！？」
「完成品が出来ていないのにあなたを呼んでも意味ないでしょう」
「いやそーだけどっ・・・あたしのいないときに自分で試したってことは、ひとりで・・・その、興奮してたんでしょう・・・それともほかに誰かそばにいたの」
「いえ、意識はなかったの。自分を睡眠状態にして、そのときに薬を投与して、その間の脳波や体の状態を記録してそういう効果が出てるかや健康状態に変化がないのかっていうのを調べて。私用みたいなものだからひとりでしたわ」
「あっそういういかにも実験みたいな真似してたの・・・媚薬なのに・・・」
「さっきからなにが言いたいの？これからあなたが試すんでしょう。だから、どうぞって」
「だからひとりで飲んだって仕方ないでしょ！あたしが飲んで興奮するから責任とって相手してよ！」
「・・・え？」
「えってなによ！なんでそんな面倒なのよ！媚薬だけ渡して帰るとかほんと信じられない！ああもう違う意味で興奮して頭痛いわ」
「ちょ、ちょっと待ってヴィーナス。そんなプライベートなことに私が立ち会っていいの」
「だからどうしてあなたはこの薬をひとりで使う用だと思ってるわけ？どういう思考回路なのよ、それ」
「だって薬って普通ひとり用でしょう・・・いきなりそんなこと言われても、準備が出来てないわ」
「準備なんていらないわよ。お風呂とか別に気にしないから早くこっち来て」
「いえ、あなたが服用の場に立ち会わせてくれるなら、とりあえず実験用のデータ保存したいし、被験者として扱うにはいろいろ道具がいるからからせめて医務室で」
「マーキュリーって・・・媚薬でもあくまで新しく作った薬としか思ってないわけね・・・」





　


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊


　媚薬を自分で試すマーキュリーってシュールですね。