マルチタスク

　リーマン水野と団地妻美奈子。



「･････････ただいま」
「おっかえりなさーい、亜美ちゃん！遅かったのね」
「･･･ただいま、美奈。いつも玄関まで迎えにきてくれてうれしいわ」
「そりゃー、遅くまで頑張ってる亜美ちゃんに早く会いたいしね」
「･･････ありがとう。私も、美奈がそう言ってくれるから頑張れるの」
「亜美ちゃん、疲れてるわねー。ごはんできてるわよ。お風呂もわいてるわよ」
「そうね･･･どっちにしようかしら」
「それともあたし？」
「え、なに？」
「だから、ごはんにする？お風呂にする？それともあたし？」
「その、あたし、というのは･･･」
「結婚までしといてそういうこと言わせるの？なら言うけど、愛のコミュニケーションよ。それとも、もっと直接的なこと言わせたい？あ、もしやそういうプレイ？」
「･･････うぅ」
「ちなみに順番は問わないから、亜美ちゃんの都合で動くわよ」
「･･･選択の余地があるのなら、疲れてるから、みっつは大変だからふたつまででいいかしら」
「ええっ、ごはん抜くのよくないわよ！あ、じゃあお風呂は朝にする？」
「だから、食事とお風呂はいただくけどもうひとつを辞退しようかと思って･･･」
「ええーっ！？」
「･･･そこ、驚くところ？栄養と衛生は生活の資本で」
「いや、生活にはそうかもしれないけど、人生には愛が一番大事じゃないの。疲れてる亜美ちゃんにあたしが癒しをあげようっていうのに･･･！」
「私は、美奈がここにいてくれるだけでうれしいの。それ以上なんて求めないわ」
「（社会に出てから口ばっかり達者になってきたわね･･･）」
「･･･とりあえず、先にお風呂いただいていいかしら」
「あ、うん。なら、いっしょに入りましょう、亜美ちゃん。実は待ってたのよ」
「･････････」
「･･･亜美ちゃん」
「･･･お風呂、いっしょ？」
「うん。背中流すし、なんならその他もろもろのオプションもつけてサービスするわよ」
「･･･えーと、そのオプションサービスって･･･もしかして別料金がいるやつ、とか」
「ど、ど、どこでそんなこと覚えてきたのよ！？最近帰りが遅くなったと思ったらどこでなにしてるのよ！？そういうサービスのある所に行ってるの！！？」
「職場で回される領収書にこういうのがいっぱい･･･こういうのをチェックしていたら定時に帰れない･･･オプションサービスってなんなの･･･経費で落ちない×〇△■☆◇×Θ§¶ΞΦ」
「･･････ああ、うん、亜美ちゃんが本気で疲れるのはわかった。とりあえずここはおうちだから仕事モードはオフにしてくれる？」
「･･･はっ、ごめんなさい。社内のことは口外してはいけないのに。忘れてくれる？」
「その言い回しが家庭人より社会人よねえ。やっぱり、オンオフの切り替えが下手な亜美ちゃんのために、あたしというラブアンドビューティーの癒しを受けてもらうわよ」
「ラブアンドビューティーって･･･ちなみにそれは」
「当然、プライスレスよ」
「あ、いえ、さすがにそれは心配してはいないけど･･･」
「亜美ちゃんはあたしがここにいるだけでいいって言うけど、あたしはここにいて家事してるだけなんて御免だわ」
「･･････それは、ごめんなさい。私が至らないばっかりに･･･」
「なら、今日こそ、愛の天罰、もとい、愛のホールインワンを決めましょう」
「･････････ちょっと、考えさせて」
「ええ！？考えさせてって、なに、この期に及んで頭使う必要ある！？」
「ちなみに、お夕飯はなにを作ってくれたのかしら」
「へ、あ、カレーだけど･･･あ、お腹は空いてるわよね。ごはん先にする？」
「いえ、順番は問わないとさっきあなたが言っていたから、同じすべてこなさなければならないのならば、お行儀が悪いけどマルチタスクで進ませてもらおうと思って･･･お風呂であなたをお皿にして食事を取れば業務はスムーズに･･･×〇△■☆◇×Θ§¶ΞΦ」
「ああもうあたしが悪かったわ･･･亜美ちゃんがそういう趣味なら否定しないけど、いくらあたしでも初体験が効率最優先がためにお風呂で女体盛りの皿になるなんて遠慮させて･･･よりによってカレーだと後でいろんなとこひりひりしそうだし」
「･･･はっ、やっぱりカレーはよくないわね･･････ならほかにどういう手段をとるべきか･･･効率化を考えたら×〇△■☆◇×Θ§¶ΞΦ」
「あたし亜美ちゃんに今一番必要なのは睡眠だと思う･･･本気で仕事が大変なのはわかったけど、とりあえず家で業務とか言われると凹むし仕事モードから抜けるためにまずなによりも栄養より衛生より愛よりなにより寝てほしいの･･･社会人でも家庭人でもなく人として･･･」






　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊