プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

おいしいゴハン

2013-02-21 23:59:38 | SS





 これは悪いことなのか、いや、いいことには違いないんだろうけど、でも、なんてまことは声に出さずに悩んでいた。頭で考えればいいことだと重々わかっているのに、まことの機嫌はすこぶる悪かった。
 そんな自分に更に自己嫌悪して、ますます思考回路は負のスパイラルに陥っていく。

 せっかく一緒にご飯を食べているのに。今日のレシピは自分の中でもかなりの自信作だったのに。学校でみんなに振る舞ったときは、みんな笑顔でおいしいって言って褒めてくれたのに。

「・・・・・・なあ、レイ」
「なに?」
「・・・・・・・・・なんでもない」
「なによ?気持ち悪いわね」

 新しいレシピでも試してみるか、そう思って何の気もなしに思い立って、でもいざやりだしたら凝り性だからああでもないこうでもないと頭を抱えて、図書館から料理の本をいろいろ借りこんできていろいろ研究して、やっとたどり着いた自信作だった。
 別に褒めてもらうために作ったわけじゃないけど、なんて頭の中で言い訳しながらもまことは不機嫌だった。差し入れだよっていつもの笑顔でその自信作を持って来て、何食わぬ顔をしながら。でも、正直期待していたから。

「・・・・・・・・・・・・・はぁ」
「なによ?」
「なんでもないよ」
「なんなのよ?」

 黙々と、事務的な仕草で料理を口に運ぶレイの仕草はいつもと同じ。憎らしいほどいつも通りだった。
 無論いつも、ちゃんと料理を振る舞ったらお礼も言ってくれる。いただきますもごちそうさまもきちんと言ってくれる。口に合うかと尋ねたら興味のなさそうな声でではあるけど、ちゃんと、おいしいと言ってくれる。

 それでも充分うれしいはずだった。今まではうれしかった。今日もうれしいはずだった。
 
 それなのに。

「(なにも言ってくれないな)」

 今日はついそれ以上を期待してしまっていた。
 頭を抱えて研究を重ねてたどりついた味とは言わなかったし、気合を入れて作ってきたなんてことも言わなかった。言わないでも気づいてほしかった。一言でいいから、自分から、おいしいって言ってくれたら。

「・・・・・・・・・・・・・・はぁ」
「なんなのよさっきから。具合でも悪いの?」
「別に・・・なんでもないって言ってるだろ」

 別にレイが悪いわけではないのにいらいらしている自分に更にいらいらして、せっかくの自信作もなんだかおいしく感じない。持って行く前に味見をしたときは、食事の時間が待ちきれないくらいだったのに、今は口の中でもそもそと転がる感覚が妙に心地わるい。
 自然と寄る眉間。

「(みんなは言ってくれたのに)」

 学校でいつもの仲間に振る舞ったときは、美奈子とうさぎは口の周りを汚しながら取り合いをしてくれた。亜美も控えめながら顔をほころばせて、いつもより旺盛な食欲を見せてくれた。それがうれしかった。
 だから、レイにも食べてほしいと思った。褒めてもらうことを期待してなかったといえば嘘になるけど、食べてもらえたらうれしい、食べてもらう前は本気でそう思っていた。
 いつも無愛想で、ご飯のときだって一番無感動な人だって、それもよくわかっていたはずなのに。

 そんな風に頭でできるだけ理性的に考えたつもりで、それでもどうにも心持ちがうまくいかない。

「・・・ごちそうさま」

 そこでレイの声が聞こえて、まことははっと顔を上げる。気が付けば自分の皿はまだ半分近く残っているのに、レイの皿は空っぽになっていた。長いような、あっという間だったような食事時間。
 まことは殊更に顔をしかめる。

「・・・おかわり、いる?」
「結構よ」

 さすがに笑顔は作れないまでも、いつまでもこんな気持ちを引きずりたくない。いつも通りを心がけようとまことはレイに声をかけるが、レイはにべもな返事を返して自分の皿を重ねはじめてまことに背を向けた。
 この状態で、一人で食事を続けろというのか。冷静に冷静にとずっと食事中自分に言い聞かせてきたはずなのに、さすがにまことの熱が上がった。

「・・・・・っ」

 それなのに、文句は出てこなかった。怒りが湧きあがってくるわけでもなかった。熱いのは目玉だけで、それとは裏腹に感情は冷水を浴びせられたみたいに冷めていく。これは―悲しい、とでも思っているのか。
 ここで泣いたら負けだ、と唇を噛んだ。第一レイが悪いわけでもないのに、最初は一緒にご飯を食べてくれるだけで、それこそ泣きたくなるくらいうれしかったはずなのに。どうしてただ食事を一緒に取っただけで、欲しい言葉がもらえなかっただけで、先に背を向けられただけで憤りなんか感じられるのか。自分の渦巻く感情に、知らずに拳に爪が食い込む。

「・・・まこと」

 そこでまことは顔をあげた。レイは背を向けたまま振り返りもしなかった。だけど、その背中は確かに何か憤りのようなものを感じていた。自分のことばかり考えていて、その様子にまことははじめて気づいた。
 だからなおさらに苛立った。

「・・・なんだよ」
「なにがあったか知らないけど」
「だから、なんだよ」

 知らずまことの言葉は棘が立つ。レイが怒っている理由さえ分からなかった。自分だって、レイが悪いわけではないけど、レイに憤っているのは確かだから。

「・・・どんなにおいしいご飯でも、あなたがそんなにぶすっとしてちゃ全然おいしくないでしょ」
「・・・はぁ?」
「いつもご飯おいしそうに食べてるのに・・・今日はなんなのよ?」

 やはりレイはこちらを向かない。背中に背負っているのは憤りだ。何故そう思われるのかやはりまことにはわからない。だって自分がレイにそう思っているのに。

 そもそも、いつもぶすっとして、義務感みたいに箸を動かして、やる気なさ気に口に運んで。
 そういう食事の仕方が嫌いだった。食べ物に感謝していないみたいな食べ方がいつも気に食わなかった。ほかの仲間みたいにおいしそうに食べる姿ができないのかと思っていた。
 
 それなのに、いつの間にか。そんな人が、少しでもうれしそうな顔をしてくれるのが、こちらから尋ねての返事でもおいしいと言ってくれるのが、なによりもうれしいと思えるようになってしまったから。

 まことは箸を握りしめる。さっきとは別の理由で熱くなった目玉から意識を逸らすように残りの食事を勢いよくかき込んで、水で押し流した。味も何もわからず飲んで、乱暴に皿を重ねてレイに並ぶ。食べ物が口に残ってるせいか心持がやっぱりうまくいかないせいか、ひどいふくれっ面のままだった。

 でも、まあ、やっとおいしいと言ってもらえたし。

「・・・今日は、まあ、勘弁してやるよ」
「・・・・・・だからなんなのよ?」
「別にいいだろ、どうでも。次こそは負かせてやる」
「・・・まあ、あなたがいいならいいけど。そんなぶすっとして食べるのやめて」
「あんたに言われたくないんだよ」

 まったく現金とは思うけれど、レイも少しは相手の表情に思うことがあるとわかったから。一緒に食事をとる理由が、少しは見出せたから。
 次こそ自分からおいしいと言う料理を作ってやる。まことは鼻を鳴らしてレイの隣をすり抜ける。そんなまことの様子を見て驚くレイの顔を見ずに、まことは流し台に急いだ。




                   **************************


 原作を見るに、レイちゃんってまこちゃんが一番嫌がりそうなものの食べ方するよな―と。それゆえに気になってたらいいと思います。

 最近更新少なくてすみません。生意気にもスランプとかいうやつです・・・
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