ムーミンパパの気まぐれ日記

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赤頭巾ちゃん気をつけて

2013-02-04 | review
 ずいぶんとまた古い小説だなあと思われた方も多いだろうと思う。庄司薫の4部作の第一作で中央公論に初めて掲載されたのが昭和44(1969)年5月なので、既に40年以上前の作品なのだから、そう思われても仕方がない。ちなみに昭和44年に起きた出来事というのを調べてみると、本書にも出てくる東大紛争安田講堂攻防戦と東大入試の中止、アポロ11号による人類初の月面着陸などが起きている。ついでに言えば、フジテレビでサザエさんの放送が始まったのもこの年の10月である。そんな「赤頭巾ちゃん気をつけて」を最初に読んだのは高校生の頃で、当時某私立高校に通っていた私は、主人公である都立日比谷高校生の感性や考え方にずいぶんと共感して何回も読みふけったものだが、そんな思い出の小説を電子書籍版でダウンロードして久しぶりに読んでみた。

 主人公の薫くんは受験を予定していた東大の入試が中止になり、子供の頃から飼っていた愛犬のドンをなくした上に、家の中でスキー板を蹴飛ばして生爪を剥がしてしまうという踏んだり蹴ったりの状況に陥ってしまう。ここから幼馴染の由美や治療にあたった女医への性的好奇心など、自分自身の生き様や社会との関わり方などについて深く考え込んでいく。そんなところに小さな女の子との偶然の出会いが、薫くんの気持ちを変えていく。

 私のつたない読解力ではせいぜいがそんな感じでしかあらすじを表現できないのだが、文庫版になった当時の帯にはこう書いてある。
 「女の子にもマケズ、ゲバルトにもマケズ、男の子いかに生くべきか。さまよえる現代の若者を爽やかに描く新しい文学の登場!」
 ともあれ、芥川賞を受賞し、映画化までされた作品であり、主人公を作者と同名の「薫くん」と設定したり、主人公自身に若者の話言葉でストーリーを語らせる手法など、社会に大きな反響をもたらした小説であったことは間違いない。それにしても、久しぶりに読んでみて思うのだが、やはりこういう小説を読んで共感するためには、ある種の同時代性というものが必要不可欠だということである。現代小説(当時は、だが)だからこそ、東大紛争がもたらした影響とそれに対する市井の人々の反応や高度成長期が曲がり角にさしかかってきた社会の雰囲気といった大きな時代の潮流といったものが描かれているし、文中には流行歌の「ブルーライト・ヨコハマ」やプロレスラーのザ・デストロイヤーなども登場してくる。もちろん、そうした状況や言葉自体を知らなくても小説としての本質的な価値には影響がないのだが、それでも知っていればこそ分かる感覚というのもある。文学や芸術の世界では「時代と寝る」という言葉あるが、鑑賞者にとってもその感覚は重要な要素だなあと思わされる作品である。

 この作品を読んだ勢いで、赤白青黒の4部作(「赤頭巾ちゃん気をつけて」、「白鳥の歌なんか聞こえない」、「さよなら怪傑黒頭巾」、「ぼくの大好きな青髭」)を続けて読んでみた。自らの青春時代を少しほろ苦く思い出すとともに、あの頃は自分にも少しは純粋な部分もあったのだあと照れくさくなった。

 4部作とも昨年新潮文庫で新たに刊行されているので、興味をもたれた方はぜひお読みください。お薦めです。

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