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音盤日誌「一日一枚」#325 マイケル・シェンカー・グループ「神(帰ってきたフライング・アロウ)」(東芝EMI CP21-6052)

2022-10-05 05:24:00 | Weblog

2006年8月13日(日)



#325 マイケル・シェンカー・グループ「神(帰ってきたフライング・アロウ)」(東芝EMI CP21-6052)

AMGによるディスク・データ

日頃、ブルースばかり聴いていると、たまにまったく違うノリの音楽を聴きたくなる。ひたすらハードで、脳髄にガツン!と来るようなパワフルなヤツを。

ってことで、今日の一枚はこれ。

マイケル・シェンカー・グループのデビュー盤。80年リリース。ロジャー・グローヴァーによるプロデュース。

ドイツのハードロックバンド、スコーピオンズに、えらく若いのに凄腕のギタリストがいるらしいという情報が、ロック少年だった僕たちに伝わってきたのが72年ころ。それがマイケルだった。

兄ルドルフ率いるスコーピオンズを離れ、73年に英国のバンドUFOに加入。デビューヒットの「カモン・エヴリバディ」以降、パッとしなかったUFOを、その神業ともいえる鮮やかなギター・プレイで見事再生させる。まさに「救世主」であったのだ、マイケルは。

しかしながら、バンドでひとり異邦人だったマイケルは孤立しがちで、いろいろな精神的葛藤を抱えてしまい、5年ほどの在籍後、UFOを脱退。

しばらくの休養期間を経て、ついに本格活動再開!となったのが、このMSGなるグループというわけだ。

このアルバム発表時、マイケルは弱冠25才。だが、71年にプロデビューしてからすでに9年がたっており、そのプレイはもはや「王者の貫禄」さえ感じさせた。

コアなファンからは現人神のごとく崇められていたが、それも無理からぬことだったわな~。

事実、聴いてみればいい。たとえば「アームド・アンド・レディ」を。

このイントロ、リフ、そしてソロ。もう、ハードロック/へヴィーメタルの必修教科書とさえいえる、実に整然たるプレイ。一糸の乱れもない。

現在、第一線で活躍しているHR/HM系のギタリストで、彼の演奏に影響を受けなかった人間などひとりもいない。そう断言して間違いなかろう。

その太く、官能的で、しなやかなディストーション・トーンが、どれだけの数のロック少年たちを虜にしてきたことか。

あるいは「クライ・フォー・ザ・ネーションズ」「ヴィクティム・オブ・イリュージョン」「イントゥ・ジ・アリーナ」でもいい。

その正確無比なリズム感、そして頭に浮かんだフレーズをそのまま完璧に表現する高度のテクニック。ギタリストとして必要なすべてをもった男。神とよばれるゆえんである。

もちろん、マイケル個人だけでなく、それを支えるバックのメンバーのプレイも素晴らしい。

ヴォーカルのゲイリー・バーデン。MSGはマイケルが主役のバンドとはいえ、もちろん歌もののバンドである以上、シンガーは重要だ。彼の歌いぶりは、格別の個性は感じられないものの、声域、声量等、マイケルのプレイと比べてけっして聴き劣りはしない。及第点はクリアしている。

べースのモ・フォスター、キーボードのドン・エイリー、ドラムスのサイモン・フィリップス。彼らリズム隊も、表に派手に出てはこないが、正確で堅実なプレイぶりで◎。

リスナーの予想を絶対裏切らない「黄金分割」的な展開を見せる「イントゥ・ジ・アリーナ」とかを聴くと、「よっ!名人芸!」と大向こうから声を掛けてしまいたくなる。

現在、HR/HMは、いい意味でも悪い意味でも、歴史的な成長段階を終え、「伝統芸能」化しているような気がするが、そういうニュアンスでいえば、マイケルは、最初の「家元」なんだよなあ。

それまでは一種の実験音楽で、混沌とした状態だったHR/HMの世界を再構築し、造物主よろしく秩序を与え、音楽としてのかたちを整えたのが、マイケル。こうくれば、こう受ける、みたいな「型」が、彼のおかげで80年代以降、きちんと定着していくのだ。

やっぱり、彼は神だった、ということか(笑)。

それはともかく、このアルバム、歌とギターのそれぞれ占める割合が非常にバランスよい状態で、何度聴いてもあきるということがない。

そのへんは、バンド外の第三者であるロジャー・グローヴァーにプロデュースをまかせたことが功を奏したということかな。

マイケルのギターだけが浮き上がらず、ちゃんと「バンド」のサウンドとして成立しているのだ。

その後マイケルは、一時休止時期もあったものの、四半世紀以上にわたり着実に活動を続け、いまでは帝王の座をゆるぎないものとしている。

近年では、HR/HMだけでなく、ルーツ・ミュージック、ブルース・ロック的な方向性にも大いに興味を示して、「シェンカー=パティスン・サミット」なるユニットでも活動している。ブルース・ファンとしてはうれしい限りである。

25才にして、これだけのものを打ち立てた男である。今後も、つねに第一線でその才能ぶりを発揮していくに違いない。

<独断評価>★★★★☆


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