NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#324 ワイルド・チェリー「WILD CHERRY」(EPIC EK 34195)

2022-10-04 05:31:00 | Weblog

2006年8月6日(日)



#324 ワイルド・チェリー「WILD CHERRY」(EPIC EK 34195)

AMGによるディスク・データ

白人バンド、ワイルド・チェリー のデビュー・アルバム。76年リリース。バンドのリーダー、ロバート・パリッシによるプロデュース。

このアルバムが出た当時、筆者は予備校生。そうかー、あれから30年もたってしまったのか~(溜息)。

デビュー・シングル「プレイ・ザット・ファンキー・ミュージック」が全米のみならず、日本でも大ヒット。今でも、昨日のことのように覚えている。AMもFMも、こぞってこの曲をパワー・プレイしていた。

その歌詞、「PLAY THAT FUNKY MUSIC, WHITE BOY」に衝撃を受けた人は、実に多かったはず。「ええっ、これ本当に白人が歌ってんの?」と。

白人音楽には、いわゆるブルー・アイド・ソウルなるジャンルが以前からあったけど、これほどコテコテのファンクな歌ものバンドは前例がなかったからである。

とにかく、「コテコテ」。この一言に尽きる。

ヒット曲「プレイ~」にせよ、その裏ヴァージョン的「I FEEL SACRIFICED」にせよ、「WHAT IN THE FUNK DO YOU SEE」にせよ、もう「ど」がつくくらいファンクの塊。歌いぶりも、濃ゆーいコーラスワークも、そしてもちろん、ひたすらねちっこいリズムも。

でも、よくよく考えてみれば、彼らが「白人」であることをのぞけば、フツー過ぎるぐらい、フツーの音でもある。ごく標準的なファンク・ミュージックといいますか。ただ、演奏しているのが、白人であるというのが、目新しいだけ。

たとえば、プリンスやレニー・クラヴィッツのように、人種と音楽ジャンルの壁などあっさりと乗り越えて、まったく新しいタイプの音楽を作り出した、みたいな「天才性」あるいは「変態性」は感じられない。

いかにも、職人肌のローカル・バンド、場末のライブ・ハウスで、こつこつと演奏し、腕を磨いてきた連中、という感じなのである。

そうはいっても、このアルバム、新人バンドのデビュー盤としては、出来すぎというぐらいよく出来ていると思う。

スライ・アンド・ファミリー・ストーンに強く影響を受けたという、バンドの立役者パリッシ(ボーカル、ギター、作曲他)は、もちろん他のファンク・アーティストにも通暁しており、ファンクの一番美味しい部分を、凝縮して聴かせてくれる。

黒人の作るファンクは、その本人の「個性」が前面に出ているのだが(例えていうなら、ウイスキーにおけるシングル・モルト)、ワイルド・チェリーは、ファンクのもつさまざまな要素を解析し、それらを自分たち流に再構成してみせた(ウイスキーでいえばブレンデッド・ウイスキー)、そういう感じがする。

黒人たちにおいては、ただただ肌で感じ、実践する音楽であるファンクを、異人種である彼らは、頭の中でいったん客体化してから、自分たちの音楽に変換しているのではなかろうか。

古くはシカゴ・ブルースを、ポール・バターフィールドやマイケル・ブルームフィールドが自家薬籠中のものとしていったように、彼らはファンクという黒人音楽を完全に理解し、吸収し、そして再構築していった「フロンティア」なのだ。

「プレイ~」の後、大きなヒットに恵まれず、「究極の一発屋」の代表みたいにいわれがちなワイルド・チェリーだが、歌唱にせよ、曲作りやアレンジにせよ、リ-ダー、パリッシの才能はけっこうハンパではなかったと思う。

たとえば、バラード・ナンバー「HOLD ON」を聴いてみるといい。パリッシは、われらが山下達郎と並んで、異人種ながら「ファンク」なるものを的確に把握している数少ないひとりであることが、はっきりとわかるはずだ。

ファンク万歳。そう叫びたくなるような一枚。30年の歳月など、ものともせぬナイスな一枚である。

<独断評価>★★★★☆


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