NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#193 ウェスト・ロード・ブルーズバンド「BLUES POWER」(徳間ジャパン TKCA-71799)

2022-05-26 05:01:00 | Weblog

2003年11月9日(日)



#193 ウェスト・ロード・ブルーズバンド「BLUES POWER」(徳間ジャパン TKCA-71799)

ウェスト・ロード・ブルーズバンドの記念すべきデビュー盤。75年リリース。

このアルバムから、日本人によるブルースが本格的に始まった、そういっても過言ではない一枚である。

<筆者の私的ベスト4>

4位「AIN'T NOBODY'S BUSINESS IF I DO」

本作は基本的に本場のブルース曲のカヴァーばかりで占められている。それもモダン・ブルース系の曲もあれば、戦前から歌われているクラシックなブルースもあり、ヴァラエティに富んだ選曲となっている。

この曲は後者のタイプに属する一曲といえよう。

スローテンポでまったりと、ちょっとジャズィ。原曲(ベッシー・スミス)のイメージを壊さぬよう、いささか時代がかったアレンジになっている。

このモッタリとした曲、ホンマに20代なかばの若者たちがやっとるのかいな?といぶかしくなるくらい、老成した雰囲気がある。

当時のわが国のポップス・シーンが、フォークとハード・ロックにほぼ二分されていたことを考えると、恐るべき成熟度ですな。

WRBBのバンド・サウンドというよりは、ゲストの妹尾隆一郎(hca)、佐藤博(kb)らをフィーチャーした、「大人の音」という感じであります。

3位「FIRST TIME I MET THE BLUES」

一方こちらはモダン系を代表する一曲。

バディ・ガイの初期のナンバー(作者はリトル・ブラザー・モンゴメリー)のカヴァーである。

WRBBは、塩次伸二、山岸潤史(潤二)という、タイプの異なるふたりのギタリストを擁しているが、こちらは山岸をフィーチャー。

セミアコでBBふうの正統派スクゥィーズ・ギターが得意な塩次に対し、ストラトでよりロックっぽいアグレッシヴなプレイを聴かせる山岸だが、この28年前の初レコーディングから、相当完成度の高い、ハイ・レベルな演奏をしていたのがよくわかる。

やはり、何年にも及ぶライヴ活動で鍛え上げただけのことはあるね。

山岸のトリッキーでエッジのたったプレイの素晴らしさもさることながら、永井隆=ホトケ氏のややオーヴァーなヴォーカルもなかなかいい。

気合いが十二分に入っているといいますか、彼が執拗に連発する「アウ!」というシャウトを聴くだけで、総毛立つのであります。

ゲスト・プレイヤーの加勢に頼らず、ギター・バンドとしてのサウンドに徹しているのもいい。これが彼らの本来の音という気がする。

2位「TRAMP」

いうまでもなく、ローウェル・フルスンのヒット・チューン。

いかにも、ファンク系の音がお好きなホトケ氏らしい選曲だ。小堀正、松本照夫のリズム隊がノリノリで、なんともごキゲン。

短めだが山岸のギター・ソロもカッコいいし、佐藤博のオルガンもナイス。

このファンクなサウンドに、うまく乗っているのが、ホトケ氏のヴォーカル。

前出の「AIN'T NOBODY'S BUSINESS IF I DO」のようなバラードっぽい曲より出来がいい。

ここで筆者個人の意見をいわせてもらうと、ホトケ氏の声質は、正統派のブルース・チューンをじっくり、しっとり歌い上げるというよりは、こういう「ノリの良さ」で勝負する曲、聴き手をアジテートするような曲を歌うのに向いているような気がする。(ご本人の思惑は、また違うだろうけどね。)

かっちりとした音程で歌うよりは、ちょっと崩し気味、ラフなスタイルで歌うほうが、よりホトケ氏らしいように思うのだが、いかがであろうか。

1位「IT'S MY OWN FAULT(TREAT ME THE WAY YOU WANNA DO)」

B・B・キングをトリビュートしたナンバー。

当然、フィーチャーされるのは、塩次伸二のギター。これが実にパーフェクトな出来。

ホント、泣きといい、タメといい、寸分の隙もないプレイである。特にブレイクからの展開は、鳥肌モノ。歌心も十分感じられて、申し分ないプレイだ。

それに比べると、ホトケ氏の歌はちょっと分が悪いかな。まだ、表現が青いといいますか、オリジナルのもつ「人生の重み」のようなものを、表現し切っているとはいえない。

24、5才の青年に、一度目の結婚に失敗し、二度目の結婚も、連日の地方公演によるすれ違い生活のため、破局に瀕しているという男の歌をうたえったって、そりゃあ無理だという気がする。

器楽の場合は、早熟の天才もそんなに珍しくはないが、歌の場合は「こころ」を表現するものだけに、若者が不自然に背伸びして歌ってみたところで、聴き手をたやすく感動させられるものではない。

やはり、等身大の自分、あるがままの自分をその歌に込めて、うたうしかないのだ。

そういう意味で、この曲はちょっと荷が勝ち過ぎですな。

もちろん、50代となり、人生経験を積んだ現在のホトケ氏ならば、この曲を十分歌いこなせるはずだ。

ぜひ、彼に再度録音していただきたいナンバーである。

WRBBのファースト・レコーディングは、いまひとつホトケ氏のヴォーカルが前面に出て来ず、他のメンバーのほぼパーフェクトなサウンドの中に埋もれてしまった感があるものの、とてもデビュー盤とは思えない完成度の高さである。

いわゆるQ盤により、いまだに多くの人、さまざまな世代のリスナーに、聴き継がれているというのも納得が行く。

ジャパニーズ・ブルースの原点。一度は聴いておきたい一枚だ。

<独断評価>★★★★


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