2003年11月16日(日)
#194 ザ・ヤードバーズ「RARE CONCERTS 1965-1968」(SABAM BT 9302)
「The Eric Clapton ULTIMATE Discography」によるディスク・データ
ヤードバーズは、オリジナル・アルバム以外にも各種コンピ盤、プライベート盤が膨大に出ているアーティストであるが、これもその一枚。
でも、ただのコンピではない。ヤーディーズ・ファンでなくとも、ぜひチェックして欲しいアルバムである。
というのも、この盤の前半は、「幻のアルバム」とよばれた「Live Yardbirds Featuring Jimmy Page」の音源そのものなのだから。
71年、エピックはヤードバーズの元メンバーたちに断りなく、68年3月ニューヨークでのライヴ録音をレコード化してしまう。
当時ZEPを率いて活躍していたジミー・ペイジは、これを不当として発売差し止めの訴訟を起こし、勝訴したため、この一枚は幻のアルバムとなってしまう。
市場に出た数少ない商品は、バカ高い値段で取引きされ、それをコピーした粗悪なブート盤が長らく出回ることになる。
だが、2000年についにムーアランド・セイントなるレーベルから正規盤として復活、このベルギー盤もその流れを汲んでリリースされたものである。
よって、山野楽器のような大きなCDショップならたいてい入手可能なので、ぜひ店頭でチェックしてみて欲しい。
<筆者の私的ベスト4>
4位「WHITE SUMMER」
「リトル・ゲームス」にも収録されている、ペイジの作品。
ZEPの初期のライヴでも、彼のソロにより、必ずといっていいほど演奏された定番ナンバー。(ZEP時代には、ファースト・アルバム収録の曲「BLACK MOUNTAIN SIDE」とつなげて演奏されていた。)
メイン・ギターのテレキャスターを、いわゆるDADGADチューニングを施したダンエレクトロに持ち替えて弾くわけだが、後年のZEPによるロング・ヴァージョンにくらべると、かなりシンプルな構成だ。「リトル・ゲームス」でのアレンジをほぼそのまま踏襲しているといえる。
ブリティッシュ・トラッド、あるいはインド音楽に強く影響を受けた、そのユニークな音世界。67~68年当時としては、最先端のサウンドだったと思う。
最近では、「ヘタ」という評価がほぼ定着(?)してしまった地味頁翁だが、その時期にこれだけ弾けるギタリストがどれだけいただろうと問いたい。
オリジネーターとは、実に辛いものだ。常に後続のものにコピーされ、それ以上のテクニックを開発されてしまう「踏み台」の宿命から逃れられないのだから。
そりゃ、後発組は、楽だわな。先人が示してくれたお手本はそのまま真似ればいいのだから。
だが、その先人がオリジナルを生み出すのにどれだけ苦労したかを、少しは想像しないといかんよね。
3位「DAZED AND CONFUSED」
発売当初は「I'M CONFUSED」とクレジットされていたナンバー。もちろん、ZEPの定番曲「DAZED AND CONFUSED(幻惑されて)」とまったく同一である。ペイジもこのときすでに、バイオリン・ボウによるプレイに挑戦している。
とはいえ、ヴォーカルがプラントでなく、レルフであるというだけで、ZEP版とは相当イメージが違う。
どうもこの曲のキーはレルフには合っていないという感じで、歌はかなり不安定。(元々、あまり歌のうまい人ではないけどね。)
歌がイマイチな分、彼は得意のハープで補ってはいるのですが。
とはいえ、この曲の最大の売りはペイジのギターであるのは間違いなく、テレキャスで弾いているとは到底思えないファットな音を聴かせてくれる。
一般にテレキャスはハード・ロックにもっとも不向きなギターだと考えられているが、チューンナップのやり方、そしてアンプとのマッチングによってはここまで迫力ある、一種鬼気迫るサウンドを出せるのである。これは発見だな。
演奏時間は6分強、後のZEPの、延々20分以上にも及ぶロング・ヴァージョンに比べるとごくごくコンパクトだが、なかなか迫力のある演奏だ。
ドラムスのジム・マッカーティも、ボンゾのような超人的テクニシャンでこそないものの、ハード・ロックのドラマーとしても十分通用するだけのパワーを持っていたことが判る。
まだ荒削りだが、気合い十分な「幻惑されて」。ZEPとはまた違った味わいで面白い。
2位「I'M A MAN」
ライヴのラストを飾る、ヤーディーズの十八番的ナンバー。ボ・ディドリーの作品。
ここでの主役はなんといっても、全編ハープを吹きまくるレルフだ。
本当に彼のハープはうまい。筆者もハープ吹きのはしくれなわけだが、彼のプレイはお手本であり、目標でもある。
それに、彼の観客を引っ張るステージングにもなかなかのものがある。ヤーディーズはどちらかといえば男受けするタイプのバンドだと思うが、そんな中で、女性ファン獲得に貢献していたのがレルフなのだ。
この曲でも彼はかなり女性客をあおって、失神寸前の熱演で、黄色い歓声を浴びている。
それにペイジのサイケデリック・ギター、さらにはバイオリン奏法によるプレイも絡み、ライヴ会場の興奮は最高潮となる。演奏時間は11分半にも及ぶ。とにかく全編、「熱い」のひとこと!
ヤーディーズの見事なショーマンシップを知るには、この一曲を聴くのが一番だという気がするね。
1位「THE TRAIN KEPT A ROLLIN'」
ヤードバーズというと、どうしてもこのナンバー抜きで語るわけにはいくまい。ハード・ロックの始祖としての彼らの、象徴的一曲。
これがまた実にイカしている。ジェフ・ベック時代とは違い、リズム・ギターなしの4人のみでの演奏だが、とてもそうとは思えないくらい、ハードかつパワフルなプレイなんである。
まさに、ZEPサウンドを予感させる出来。
ベック脱退後、ペイジはあえてメンバー補充を行わず、68年夏の解散まで四人編成で通したわけだが、自分のギター一本だけでも十分カッコよくやっていけるという自信があればこそ、そういう判断をしたのだと思う。
それまで、クリームのような少数の例外はあったものの、一般にギター・バンドにおいてはリズム・ギター(ないしはそれに代わるコード楽器)は不可欠だと考えられていたから、これはコペルニクス的転回だったといえそうだ。
第5期ヤーディーズ、そしてZEP以降、ワンギター・バンドは当たり前のことになったが、当時としてはメチャ画期的なことなのだ。
このNYライヴ、音質的にはいまひとつなのだが、ハードロックの歴史において、きわめて重要な一枚だと思う。
なにせ、70年代の覇者、レッド・ツェッペリンのあのサウンドが、68年3月の時点において、かなりの完成度で準備されていた雄弁な証拠なのだから。
いささかラフではあるが、ひたすらパッショネイトな演奏、そして観客の熱烈な声援。これぞ、ロック!であります。
(なお、後半の8曲は、「I WISH YOU WOULD」がクラプトン時代(推定)のライヴ。これはギター・ソロもなく、ほとんどレルフの歌&ハープの独演会状態。残る7曲は以前当コーナーでも取り上げた「BBC SESSIONS」からの音源なので、あえてふれません。悪しからず。)
<独断評価>★★★★