NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#477 氷室京介「FLOWERS for ALGERNON」(東芝EMI/East World CT 32-5300)

2023-03-09 05:05:00 | Weblog
2023年3月9日(木)



#477 氷室京介「FLOWERS for ALGERNON」(東芝EMI/East World CT 32-5300)

日本のロック・シンガー、氷室京介のファースト・ソロ・アルバム。88年リリース。吉田建、氷室京介、ヒロ鈴木によるプロデュース。米国・日本録音。

88年4月のボウイ解散後、さっそくソロ活動の準備に取りかかり、同7月にはファースト・シングル「ANGEL」をリリース。以後、30枚のシングル、12枚のオリジナル・アルバムを出している。

現在、氷室は62歳でロサンゼルス在住。ヒット・チャートを賑わすことはなくなったが、日本の代表的なロック・シンガーとしていまも根強い人気を誇っている。

そんな氷室が、一番アグレッシブに活動していた時期の一枚がこの「フラワーズ・フォー・アルジャーノン」だ。

オープニングの「ANGEL」は氷室の作詞・作曲。先行シングルとしてリリース、オリコン1位、同月間1位、年間8位という大ヒットとなり、ソロ活動としては最高のスタートを切るかたちになった。当時の氷室がいかに人気絶大だったかがよく分かる。

アップ・テンポのビート・ナンバーという、氷室のボウイ時代以来の黄金パターンな一曲。

この曲でバックをつとめるのは、ギターのチャーリー・セクストン、ベースの吉田建、キーボードの西平彰、ドラムスの村上ポンタ秀一。

セクストンは当時わずか20歳の米国のギタリスト。だが、17歳ですでにレコード・デビューしており、新進気鋭のシンガーでもあった。

そのギター・プレイは激しく、聴くもののテンションがガチで上がる出来ばえ。布袋寅泰に代わる、新たなタッグの相手としては申し分ない。

また吉田、村上のふたりは先日取り上げた泉谷しげるのバックで同時期に共演しており、彼らはのちにLOSERというレギュラーバンドに発展する。西平は吉田とは、沢田研二のバックバンド、エキゾティクス以来のバンドメイトだ。

この強力な布陣なら、どんな高度のサウンドでも演奏可能だろうな。

「ROXY」は氷室作詞、氷室と吉田の共作曲。

「恋はあせらず」のような懐かしいモータウン・サウンドを80年代風にアップ・グレードしたアレンジは、氷室と吉田によるもの(全作共通)。このふたりの共同作業によって、このアルバムの基本設計はなされたといえる。

ウキウキするようなビート、脳天気な歌詞がいかにもなポップ・チューン。

「LOVE & GAME」はアップ・テンポのナンバー。

ボウイ時代に作り、小泉今日子のアルバムに提供したナンバー。翳りのあるメロディ、ディストーション・ギターをフィーチャーした深みのあるサウンドが◎。

ギターは曲ごとにクレジットされていないので特定できないが、下山淳または佐橋佳幸。おそらく後者だろう。

佐橋はその後の氷室のアルバム制作にも深く関わることになる、重要なギタリストだ。

「DEAR ALGERNON」はアコースティック・ギターをフィーチャーしたフォーク・ロック。氷室の作詞・作曲。

ダニエル・キイスの小説「アルジャーノンに花束を」にインスパイアされた歌詞がなんとも切なく、特徴的なリフレインのメロディが、いつまでも耳に残る。掛け値なしの名曲である。

「SEX & CLASH & ROCK’N’ ROLL」はおバカになれる、テンションの高いロック・ナンバー。氷室、松井五郎の共作詞、氷室の作曲。

小気味良いリフレインがミソ。そして転調がカッコよく決まっている。「楽器としてのボーカル」を強く意識した者ならではの表現が、随所に見られる。

自分の歌に確たる自信を持っているシンガーでなくては、こういう歌は歌えない。ナルシスな氷室の面目躍如である。

「ALISON」は氷室、松井五郎の共作詞、氷室の作曲。

ゆっくりとしたテンポのバラード・ナンバー。センチメンタル・シティ・ロマンスのリーダー、告井延隆のスティール・ギター、本多俊之のソプラノ・サックスがメロウなサウンドを最大限に盛り上げている。

説得力あふれる歌いぶり。大人のシンガーとしての、氷室の実力を感じさせる一曲だ。

「SHADOW BOXER」は氷室、松井五郎の共作詞、氷室の作曲。擬似ライブ風の演出で始まる、ビート・ナンバー。

疾走するリズム、ギターリフなどにボウイ的なフォーマットがそこかしこに感じられる。これもやはり、彼にとっては不可欠なエレメントなのだ。ボウイ・ファンの期待に応えた一曲。

「TASTE OF MONEY」は氷室作詞、氷室と吉田の共作曲。蜜の味ならぬ、金の味というパロディ・タイトルを持つナンバー。

縦乗りのスピーディなビートに乗って、皮肉たっぷりで字余り気味の歌詞を器用に歌いこなす氷室。スキル高いぜ。

「STRANGER」は氷室の作詞・作曲。

スカ・ビートに乗り、歌いまくる氷室。シンセの刻むビート、スペーシーなギター・プレイが耳に心地いい。デジタルとアナログ、両方のいいところ取りなアレンジのナンバー。

「PUSSY CAT」は氷室の作詞・作曲。

パワー・ステーションみたいな、80年代当時の流行っぽいサウンド。新時代のブギってところか。

さすが、ポンタさんのドラムスの安定感は、ハンパないのう。

歌う氷室も、この演奏がバックならさぞ楽しかろう。

ラストの「独りファシズム」は泉谷しげる作詞、氷室作曲のロッカ・バラード。

作詞はなんとも異色の人選だが、おそらくは吉田、村上人脈ということで、話題作りもあって泉谷に依頼がいったのではなかろうか。

巻き舌気味でカッコをつけた歌唱スタイル。アナーキーでシュールな歌詞が、ナルシスト傾向が多分にある氷室に意外とハマっている。

泉谷本人がこういう歌詞を歌った場合とはまるで異なる個性が生まれていて、興味深い。

間奏のブルーズィなギター・ソロは下山だろうか。味わいが深い。そして、氷室も思い入れたっぷりに歌う。

本盤中、最も前衛的な歌詞にして、最もオーセンティックなサウンド。不思議な魅力に満ちた一曲だ。

以上、11曲。氷室の過去・現在・未来を、一編に注ぎ込んだアルバム。

流して聴くと、フツーのポップ・ロック・アルバムにしか思えないかもしれないが、よくよく聴き込むと、さまざまな企みが隠されていて、実に面白い。

若いリスナーだけでなく、ポップスを聴きまくって来た老練なリスナー諸氏にも、ぜひ注目していただきたい一枚だ。

<独断評価>★★★☆

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