NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#306 クルセイダーズ・フィーチャリング・ナンシー・ウィルスン「The Way It Goes」(The Good And Bad Times/MCA)

2024-02-05 05:28:00 | Weblog
2014年2月9日(日)

#306 クルセイダーズ・フィーチャリング・ナンシー・ウィルスン「The Way It Goes」(The Good And Bad Times/MCA)





クルセイダーズとナンシー・ウィルスンの共演ナンバー。1986年のアルバムより。ジョー・サンプル=ウィル・ジェニングスの作品。

ナンシー・ウィルスンといっても、ロックバンド「ハート」ではないよ。1937年生まれのベテラン黒人女性ジャズシンガーのほうだ。

ナンシー・ウィルスンはオハイオ出身、ジュークボックスで聴いたダイナ・ワシントン、ルース・ブラウンなどの影響を受けて幼少の頃よりシンガーを目指すようになる。

15才で地方テレビ局のオーディションに合格、レギュラー番組を持つようになり、高校生ながらクラブシンガーのアルバイトもこなすようになる。19才でレコードデビュー。

ジャズサックス奏者、キャノンボール・アダレイにニューヨークに出てくるようアドバイスを受け、59年にNYへ。キャピトルレコードと契約して、60年のシングル「Guess Who I Saw Today」から、本格的なキャリアが始まる。

以来、現在に至るまで約55年、ポピュラーシンガーとして第一線で活躍しているのだが、彼女についていうと、どうも他の黒人女性ジャズシンガー(たとえば、サラ・ボーン、カーメン・マクレエあたり)とは別枠扱いで語られがちだ。つまり、実力よりも「美人枠」「ビジュアル枠」みたいな。

確かに彼女はとても美人だが、魅力はそれだけじゃない。シンガーとしても非常にしっかりとした実力をもち、その美貌抜きでも十分勝負出来ると、筆者は思っているのだよ。

70年代までのキャピトルでは「わりとオーソドックスなジャズシンガー」という趣きがあったが、80年代にCBS系列に移籍してからは、少し音楽性にも幅が出てきたように思う。その一例として、このクルセイダーズとのコラボが挙げられるだろう。

クルセイダーズのシンガーとのコラボは78年のBBあたりから始まっていると思うが、なんといっても79年の「Street Life」の成功は大きかった。以来、ボビー・ウーマック、ビル・ウィザーズ、ジョー・コッカー、フローラ・プリム、ティナ・ターナーらと共演し、その成果は87年の「The Vocal Album」にまとめられている。ただ、この路線に味をしめてしまったことが、クルセイダーズのその後の活動を歪めてしまったという批判もあるようだけどね。

さて、ナンシー・ウィルスンをフィーチャリングして制作されたこの一曲は、彼女のシンガーとしての実力をフルに引き出した一編になっていると思う。

もともと、彼女が影響を受けた女性シンガーたち(ダイナ・ワシントン、ルース・ブラウン、ラヴァーン・ベイカー、リトル・エスター(フィリップス)ら)は、ブルース・フィーリングも極めて豊かな歌い手たちであり、ウィルスンもまた、見事なブルース・シンガーとしての資質を兼ね備えている。たとえば、60年リリースのセカンドアルバム「Something Wonderful」にはスタンダードナンバーと並んで、Tボーン・ウォーカーの「Call It Stormy Monday」も歌っているのだが、これが実にブルースなんだなあ、本人は特に意識していないのかもしれないけど。

「The Way It Goes」は、その歌詞を聴いてわかるように「ど」が付くぐらいの直球一本勝負なラブバラードだが、その根底には、ブルースやR&Bの濃厚なフィーリング、ニュアンスがある。けっして白人の●リーヌ・●ィオンあたりには出せない、サムシングがあるのだよ。

きょうはこの曲を、スタジオ版ではなく。JVC主催のニューポート・ジャズ・フェスティバルでのライブで聴いていただこう。演奏担当のクルセイダーズには、なんとギターの大御所、デイヴィッド・T・ウォーカーがゲスト参加して、手練れのバッキングを聴かせてくれるので、二重の意味で聴きものである。

ウィルスンの、パンチとメリハリをきかせたヴォーカルは、半世紀にわたる彼女の歌手人生そのもので、とても感動的だ。

たった4、5分なれど情感あふれる歌の中に、歌い手のすべてが込められている。まさに、「歌はドラマ」である。

バックミュージシャンも、いうまでもなく超一流ぞろい。このうえなく贅沢な時間(とき)を味わってくれ。

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