雲追う民

難民キャンプで暮らすサハラウィの生活を紹介する写真

短信22 マリ紛争の影響

2013年04月16日 | 西サハラ短信

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ル=モンド紙(フランス) 2012年4月12日


マリ紛争の影響が危ぶまれる西サハラ



国連事務総長は西サハラの若者たちの過激化を懸念。MINURSOの任期については一年の延長を求める。


西サハラ紛争はモロッコと、アルジェリアに支援された独立派ポリサリオ戦線の間で続く、国際紛争の中でも最も長引く紛争の一つとなっているが、最近のマリ軍事介入の悪影響がこの地域に及ぶのではないかと危惧されている。

藩国連事務総長は、個人特使クリストファー・ロス氏からの報告を受け、今月22日から開かれる安保理事会に向けて報告書を作成したが、その中で「サヘル地域における治安悪化と不安定化が強まる現在、長引くこの紛争の解決が急務とされる」と警鐘を鳴らしている。

本紙が入手した23ページの報告書コピーでは、事務総長はポリサリオ戦線がテロリスト・グループの活動を「断固として」糾弾し、難民キャンプの青年層をターゲットにした引き抜き行為を未然に防ぐため尽力しているとコメント。

また2011年10月に三名のヨーロッパ人が難民キャンプで誘拐され去年解放されたことや、同年7月にスペイン政府が現地活動していた17名のNGO活動家たちを本国帰還させたことに言及するとともに、ポリサリオ戦線指導部が「テロリストが内部潜入している可能性を否定はできない」と伝えたことも明記している。

1991年以来現地で停戦監視を続ける西サハラ住民投票のための国連派遣団(MINURSO)は、この拡大する危険性を前に「威力は次第に弱まり」平和維持部隊が危険にさらされる状況が生まれているそうだ。現地では既に夜間パトロールが廃止となり、またモーリタニア国境近辺のパトロールは安全性が保障されないところからポリサリオ戦線部隊が完全にエスコートしている。

事務総長は、各国政府はマリ紛争の悪影響が西サハラに及ぶ可能性を危惧していると述べるとともに、難民キャンプに生まれ育つ若者たちにとって「和平交渉が進展を見せないことへのフラストレーションだけではなく、将来的に雇用を期待することはできない環境にある」ところから「青年たちの抱えた不安定な状況」や「二世代、三世代」の過激化の危険性が生まれるとコメントしている。さらには和平へ向け当事者双方間に横たわる溝が打破されるどころか、マリ問題は事態をさらに悪くし「緊張が続く当一帯の状況は近隣諸国間に硬直化と相互不信を作りだしてしまった」そうだ。

こうしたことを踏まえ藩事務総長は今月30日に満期となるMINURSOの任期を一年延長し、派遣軍人を15名増して計245名に、また警官を6名追加派遣することを求めている。そして事務総長は今回初めて、人権問題を監視する任務の必要性に触れている。

この問題はこれまでモロッコ側の頑固とした拒否に遭ってきたが、MINURSOは国連が世界に派遣する平和維持軍の中で人権保護が任務に入っていない唯一の部隊だ。安保理事会メンバー国のなかには英国のように人権監視の任務を与えるべきとする国々があり、この管轄なくしては平和維持軍の役目は事実報告つまり停戦違反件数を数えるだけでしかないという意見を示している。

国連事務総長はこの問題に触れるにあたり、行き過ぎた表現を慎みつつ又モロッコが自国の国家人権評議会支部を西サハラに置いたことを大きな一歩と歓迎しながらも、「人権侵害に関する定期報告を受け止める限り、一貫して総合的に現地の人権状況を公正に独立した立場から監視する必要性がますます急を要するものとなってきている」と述べている。

藩事務総長のこの言葉にはかつてなかったほどの揺るぎない姿勢が伺われ、これまでのソフト口調の報告書に慣れていた外交官たちを一驚させたほどだ。西サハラ紛争は何年も前から国際社会の意見を分断し、立ち往生している問題だ。ポリサリオ戦線は人民の自決権行使による住民投票を求め、一方モロッコは1975年に領土を部分的に併合しフランスや合衆国の後ろ盾を得て「大幅な自治」を提案している。

国連事務総長個人特使のクリストファー・ロス氏は2012年秋、2009年の就任以来初めて、西サハラを訪問した。現地ではモロッコ当局により準備された人物たちと会談した以外にも、西サハラ市民社会の代表者たち、青年や女性たちとも会談を行った。しかし、国連事務総長の言葉にある「住民間にある自治と独立それぞれの支持規模を見積もること」は不可能だった。停滞状況は相変わらずのようだ。

今回の報告書について、ポリサリオ戦線のアフメド・ブハリ駐国連代表は「慎重」だがバランスが取れていると評し「本筋から離れることなく、とにかくも、人権擁護の監視体制を設けるためにありとあらゆる論拠を引き出している」とコメントした。本紙はまた、2012年から安保理事会非常任理事メンバーになっているモロッコ大使にも尋ねてみたが、目下のところノーコメントとのことだった。

(文責:アレクサンドラ・ジュネスト、イサベル・マンドゥロー) 



新郷のコメント:
本文訳作業の最中、米国はMINURSOに人権監視の任務を与えるよう安保理に提案を決定したというニュースが入りました。一方モロッコに無条件支持を寄せてきたフランスですが、先日モロッコ公式訪問をしたオランド大統領のモロッコ国会における演説では、従来とは明らかに異なる言句が注目され、これからの姿勢に修正が入るのではないかと解釈する意見も出ています。



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