遊月(ゆづき)の日々これ修行なり~

パワースポット研究家(おたる案内人)でセラピスト遊月のブログ
【パワースポットニッポン(VOICE)北海道担当】

悪縁を断ち切って良縁を結ぶ~日光二荒山神社

2020-12-26 22:22:27 | 100物語【パワースポット物語】
【遊月100物語 その4】日光二荒山神社

離婚して一人でまだ幼い息子の、のっぶを育てることになった。
小さい子どもを抱えての再就職はままならず、必死で探してなんとか小さい会社の事務のパートを見つけた。
せっかく雇ってもらったのに、保育園に預け始めたのっぶは、短い間に何かといえば熱を出し、ある日とうとう水疱瘡になってしまった。
一週間休みが欲しいと上司に伝えたら、
「わかったよ、いつまでも休んでいなさい。もう来なくてもいいから」と言われた。

そんなの絶対おかしいと思ったけど、何も言い返せずに私は、そのまま引き下がった。
「そんなのおかしいよ、労基に言いいなよ! 」と、中学からの親友の里香は怒ってくれたけど、そんなことをしている余裕はなかったから、ハローワークに行ってすぐに新しい仕事を探した。
資格もスキルもない私が身体弱めの小さい子を抱えてできる仕事は限られていて、人と話すのは苦手だけれど、仕方なく化粧品の営業の仕事についた。

出勤率が悪くても問題ないことはありがたいが、気が弱くて営業に向いていない私はいつも成績が悪かった。
毎日地図を片手に一軒一軒巡っても、門前払いで玄関口ですら、話を聞いてもらうことはほとんどなかった。   

そんな中、やっとできたお客さんの一人がケイコさんだ。
ケイコさんはとてもマイペースで、突然訪問してきた私の説明など聞かず、ずっと1人で自分のことを話し続け、三時間ほどたったあと、「悪いから一つ買うわ」と化粧品を買ってくれた。

それから週に一度は電話が来てケイコさんに誘われた。
時々、お友達に伝えてあげるから、試供品を持ってきてと言われた。
試供品は自腹なのだけれど、誰も紹介してもらったことはなかったし、これからも誰も紹介されないのはわかっていながら、私は断れず毎回持参した。

試供品だけ手に取り、本当に時々、安い化粧品を買ってくれることはあるけど、あとはずっとケイコさんの話を延々と聞かされ続けた。
営業成績につながることはほとんどないし、共感できないどころか、耳をふさぎたくなるような類の話を聞かなければならない無意味な時間を過ごすことが、本当にしんどくなっていった。

電話が来るたびなんとか理由をつけて断ろうとするのだけど、ケイコさんはディベートの達人のように、気がつくと最後は、「わかりました、行きます」と私は答えていた。
ただでさえ成績が悪い中で、時間もコストも報われないことだと、わかっていながら抜け出せない自分が情けなくて、最近では電話が怖くてカバンから出せなくなっていた。

「仕事を辞めたいの」
里香にそのことを相談したら、少し考えてから、
「車出してあげるから日光東照宮へ行こう。紅葉が綺麗だから少し混むかもしれないけどさ。のっぶも連れて行こうよ。たまには気晴らししよう」
とドライブを誘ってくれた。

里香はいつも優しくて、つい甘えて頼ってしまうことを詫びると、
「何言ってるの」と少しキレる。
「私は麻子の優しいところとか、のっぶとのほんわか親子のやりとりとか、その癒し系の性格にどれだけ救われていると思っているの?
それに… 」
と私の顔を見つめて真剣な目で
「麻子が辛い思いしているのが私は嫌なの。
しあわせな呑気な顔で笑っていて欲しいのよ」
と言ってくれた。

神様、こんな友達を与えてくれてありがとう。
きっと占いを見たら私の結婚運は最悪だけど、友達運と子ども運は最高なんだといつも思う。

いろは坂はなかなかの混みだったが、なんとか日照東照宮に着いた。
「私ね、有名なあっちの建物より、ここが好きなんだ」と連れてきてくれたのは立派な鳥居があった。
大黒様の像などもあり、何か立派な場所だと言うことはよくわかった。
詳しくないからよく知らないが、ここは神社やお寺のようなものがあちこちにあって、自分がどこにいるのかわからなくなる。まるで神社のテーマパークみたいだ。

「ここはね、縁切りで有名な場所なの」
そう紹介された場所に、笹の葉みたいな草で作った大きな輪が置いてあった。
「この輪をくぐると、良縁はさらに強く結ばれて、悪縁はズバッと切ってもらえるのよ」
「悪縁を切れるの? 」
そんな便利な場所がこの世界にあることに驚いた。
もし何も変わらなくてもそれはそれ。だけど悪縁を切ることができたら、私はもっと気持ちが楽になる。

「せっかく悪縁を切ってもらっても、また同じように悪縁を結んでしまわないよう、心の弱さを断ち切るのよ」
里香の言葉が胸に刺さる。
断れないのは優しさじゃない。ただのええカッコしいなんだとわかっていた。
誰にも嫌われたくないから、いいですよと嘘をついて受け入れる。ちっともよくなんかないのに、平気な顔をしてしんどい時間を過ごすのはもううんざりだった。

そんな人生はここでやめよう。
里香に嫌われるのが怖いと思う弱い自分も捨てよう。

『もし自分を出して里香に嫌われても、それが正直な私なのだと受け入れます。
私は私の思いを、嫌だとか、こうしたいとか、そんな心の声を大切にします。
だから神様、どうか悪縁を断ち切り、良縁を結んでください』

覚悟を決めて輪をくぐるが、あっという間に通り過ぎて、特に何か変わったのかよくわからなかった。私の後ろを真似して輪をくぐったのっぶの頭を撫でているのを、里香は満足そうに見ていた。
「じゃあ行こうか」と、駐車場に向かって歩きはじめると電話が鳴った。

ケイコさんからだった。
なんてタイミングなんだろうとぞっとする。

「もしもし」
恐る恐る電話に出ると、
「あのね」と、こちらの都合も聞かずに一方的に話し始める。
「この前息子のクラス会に出たのよ、そしたらママ友がね、あなたと同じ化粧品会社の商品売っているっていうの」
「はあ」
なんとか相槌を入れたが、食い気味にさらにケイコさんは続けた。
「だから、あなたじゃなくそのママ友から買うことにしたから」
私は相槌さえ打てずに黙る。
顧客が一人減るのは嫌だし、ましてや努力もせずに横取りするそのママ友さんにも嫌な気持ちがした。
でもそれ以上に、何故今なのだろうと驚いて言葉が出せなかったのだ。

しかし私がその申し出に不服だと勘違いしたケイコさんは、語調を強めて捲し立てる。
「ちょっとなに、嫌なの?
そんな権利あなたにあると思っているわけ?
私はお客なのよ、誰から買うのかを選ぶのは私なのよ、それは私の自由なのに、それを制限するっていうの?
だとしたらあなたってずいぶん偉いのね。
そんな態度でいたら、ずっと営業成績あがらないわよ、そんな態度取られたら二度と買うもんかと… 」

捲し立てる合間を縫って
「いいえ、大丈夫です。むしろ、お電話ありがとうございます」
と私は割と明るい声で言葉を挟んだ。
「は? 」
「わざわざ言いにくいことなのに、ご連絡いただきありがとうございます」
私の声がサバサバしていることに戸惑いつつ
「あ、ああ、うん」とおとなしめの声でケイコさんは答える。
「それと、今までありがとうございます。
これからもうちの商品をご愛顧してくださいね」
「え、あ、うん。そうね…、ていうか」
「それじゃあごきげんよう」
と、私はケイコさんの言葉を聞かずに電話を切った。
「まっ、」
最後に何か言いかけた言葉が聞こえたが、それを無視してしっかりと電話を切ったのだ。

私は興奮していた。
「聞いて、聞いて!! 」
様子を見ていた里香にそう叫ぶ。

「何があったの? 」と少し心配そうな里香に、
「私、生まれて初めて、自分から電話を切ったの! 」と興奮して早口になる。
「え?
待って、そこなの?
それって思っていたのと違う、早速悪縁が切れたのかと思った」
と里香が笑うので、
「ううん、悪縁も切れたよ」
とついでのように答えると、「何それ」と里香は体をくの字に曲げて大笑いした。
つられて私も笑い出して、二人で涙を流しながら笑った。

「悪縁を断ち切ったから、今度は里香と良縁結ぶから」と伝えた。
「もうとうの昔に良縁結んでいるじゃない」
「そうだけど、もっと結びたいの」
と改めて伝えると、
「うん、そうだね。麻美とは死ぬまで結ぶつもりだよ」と里香が笑った。

二人の会話を聞いていた息子が、
「のっぶも結ぶ! 」と割って入ってきたので、
「のっぶとは死んでも結ばれてるよ」と抱きしめた。
「仲間外れなんてずるい」と今度は里香が割と本気の声で入ってくる。
「わたしも麻子と死んでも良縁結びたい。来世でも友達になりたい」などと言い出したから、その言葉にびっくりして涙が浮かんできてしまった。
「うわ、泣くこと? 」
と驚いた里香も少しだけ泣きそうな顔で笑っていた。

来世でもまた友達になれますようにと心から祈って、私は笑いながら泣いた。


※ちょっとだけ実体験が入っています(*^_^*)
キャラクターはオリジナルなのですが、この神社に行き、たまたま置いてあった茅の輪的な良縁を結ぶ輪をくぐったらその15分後に、ほんとうに困っていた方から、一方的に縁を切ると電話が来たのは本当のことです。
縁切りではなく、縁結びの場所なのですが、その時のエピソードをデフォルメして創りました。
ある意味ひとつのファンタジーとして読んでください。

写真のファイルが今見当たらないので今度見つけたらアップします。
ていうかいつかお礼参りしたいとずっと思っています。

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