遊月(ゆづき)の日々これ修行なり~

パワースポット研究家(おたる案内人)でセラピスト遊月のブログ
【パワースポットニッポン(VOICE)北海道担当】

龍の化身~阿寒ヤイタイ島

2020-12-25 22:22:09 | 100物語【パワースポット物語】
【遊月100物語 その3 阿寒ヤイタイ島】
まじで意味がわからなかった。

ある時を境に、いわゆるスピリチュアルとかが好きな奴らが、どんどんこの小さな町に押し寄せてくるようになった。
この町の湖に浮かぶ神の島とやらに行くために、わざわざ小船をチャーターして、パワースポットなんたらに行くことが、特別なことであるような顔をしながら受付にやってくる。

事務の女の子を雇うまでもない小さな釣り船屋だから、受付から船での送迎も全部俺がひとりでやっている。
だからいつもそんな客たちに何度も同じことを聞かれてうんざりしていた。
あまりに同じことを聞かれるもんだから、カレンダーの裏にマジックで質疑応答を書いて貼っておこうかと思った。
釣り船屋なのに、パワースポットブームに乗っかろうとしているみたいでみっともないからそんなことはしないけれど。



あの島は特別な場所なんかじゃない。
俺たちの住む町の湖に浮かぶ、人も暮らせないほど小さい島のひとつだ。
この辺りで釣れる魚が目当てで釣り人たちがやってくるだけの普通の島で、ただそこに祠があるだけだった。

昔の伝説かどうかは知らないが、訪れる人たちがそこまでありがたがる意味がわからない。
船の上でこの辺のことを得意満面に解説している客の話を聞いていると、ちょっとイラつくことがある。
地元でもないくせに、観光でただやってきただけのくせに、まるで自分がこのあたりの主だって勘違いしているのかと思う。


だけどまぁ、わずか往復二十分ほどの行程にまぁまぁの金を落としてくれるから、改めて考えればありがたいことではある。
湖の女神は金運の神様らしいけど、確かに地元の人たちにとって、ありがたい金運の神様だ。

今日もいつものようにスピリチュアル系の客がやってきた。
「ここから船で島に渡れるって聞いたんだが」
入口に立っていたのは八十代になろうかと言う婆さんだった。

こんな歳にもなってパワースポットをめぐっているのかと驚いたが、何故だろうか。その婆さんはなんだか他のスピリチュアル系の奴らとは違っていた。
なんていうか厳かなのだ。
そう。厳かと言う言葉がぴったりなのだ。
偉そうではなく、得意満面に何か言ってくるでもなく。
不真面目そうな様子が何もなくて、黙って言うことを聞きたくなる空気を持っていた。

婆さんは黙って金を払い、黙って湖を見つめていた。
連れ添った爺さんが湖に沈んでしまったのかと思うほど、それはそれは神妙な顔で湖をじっと見ていた。
だからいつもみたいにちょっと小ばかにして、スピリチュアルな奴らと呼ぶのが憚られた。

婆さんは年齢にそぐわない機敏さで船に乗り、背筋を伸ばして対岸の山を見ていた。
不思議なもんで、まるで婆さんに反応するかように、湖はいつもより波が高かった。
湖を巡る白波の立ち方を見ると、本当に龍がうごめいているようにさえ見えた。
波が強すぎて船が転覆しないかとヒヤヒヤした場面もあったが何とか島にたどり着いた。

「着いたよ」
俺がそう言うと、自分の足ですっと立ち上がり、よろけることなく船から下りた。桟橋に両足をつけて婆さんが振り返る。
「あんたも来なさい」
「いや、俺はちょっと」と渋っていると、いいからおいでと威厳のある声で再び言った。その声にはある種の畏怖さえ感じてしまった。

まぁ相手は客なわけだし、こんなこともたまにはあるさと言い聞かせて、仕方がなく俺は婆さんについていった。
木の根っこがそこら中の地面から這いまわるぬかるむ地面なのに、足を取られることなく婆さんは進んだ。
むしろ俺の方が足元がおぼつかないほどだった。

祠の前に来ると婆さんは聞いたこともない不思議な言葉を唱え始めた。陰陽師の映画で坊さんが唱えていた呪文のようだった。
すると、さっきまで青空だったのに、突然雲がどんどん走ってきて、一瞬であたりが真っ暗になった。

天気予報では一日中快晴だったし、何よりこんなにも局地的に一瞬で雨雲が集まるさまを俺は見たことがなかった。
何が起きるのかと見上げていると大粒の雨が降ってきた。

婆さんは動じずに祠に向かって一心に呪文を唱え続けている。
その時だった。割と近くで稲光がしたのと同時に爆発音のような雷鳴がとどろいた。

雷がそばで落ちたんだ。
振り返り木々の向こうから見える対岸の森の様子をうかがう。
不思議なことに、岸のほうは雨が降っているようには見えなかった。
さすがに俺は怖くなる。これはいったい何なのだ。そしてこの婆さんは何物なのだ。

前を見て婆さんの背中をじっと見つめるが、婆さんは祠に向かって相変わらず呪文を唱え続けていた。
婆さんが両手を空高く持ち上げて大きく何かを叫んだ。
婆さんの上空の雲間を抜けて白い太い光が婆さんが立つ場所に向かって勢いよく降りて来て、婆さんを通り抜けて光は地面にめり込んでいった。

「うわっ」そう叫ぶと尻もちをついてしまう。
光りが婆さんをすり抜けていく。婆さんは呪文を唱えるのをやめて身体ごと俺のほうにゆっくり振り返った。
「お前も子どもの頃にこの光のことをよく見ていただろう」
「はあ? 知らねえよ」
足に力が入らなくて立ち上がることもできないくせに俺は婆さんに強めにそう答える。

だけど本当は思い出していた。
そうだ。俺は子どもの頃よく親父の船で湖に出ていたが、時々この島に白い光が降りているのを確かに見ていた。
子どもだったし、そういう島だと俺のばあちゃんが言っていたから、そのことを特に不思議に思うこともなく、誰にも言わずに黙って見ていた。
そんなことをどうして忘れてしまっていたのだろう。

「あれは白龍だよ。
この湖に住んでいる龍のことをお前は知っているだろう」
「どうして俺があの光を見たことがあるって知っているんだ」
そう尋ねると婆さんはニッと笑った。
「だってお前にわざわざ見せていたからね」

わざわざ見せていた。婆さんの言葉の意味が呑み込めなかったが、そんな俺にかまわず婆さんは続ける。
「お前は小さい頃からいつも自分以外の人のことを思い、この町のことを思っていたのを知っているよ。湖のほとりの家に生まれ、毎日この湖にやってきては白い光を見ることができないかと眺めていたね」

ああ、そうだ。子どもの頃から俺は、時々空から下りてくる白い龍みたいな光がこの湖に降りてくるのを何度も見ていた。
見たからって何かあるわけじゃいけど、いつ湖から出てくるんだろうって、ずっとそれを眺めているのが好きだった。
ほんとうになぜそんな大事なことを忘れていたんだろう。

「そうだな。人は子どもの頃は自然の中に誰もが神を見ている。だけど世界が広がって楽しいことが目の前にどんどん現れてくるから、いつの間にか自然に神を見ることをやめてしまうのだ。
大人になるとほとんどの人間が忘れてしまうのだよ」

婆さんの言葉を聞いて、湖にやってくるようになったスピリチュアルが好きな客たちのことを思い出す。
いい大人なのに、見えない世界の何が面白くてそんなに夢中になるんだろうって理解できなかったけど、あれはもしかしたら、大人になっても自然の中に神を見るのを忘れずにいただけなのかもしれない。
馬鹿にしていたことを申し訳ない気持ちになった。

婆さんは俺の気持ちがわかったのか、またニっと笑った。
「お前は優しい男だ。そしてこの町を、故郷をとても大切に思っている。だからよそ者たちにむやみに荒らされないかと心配なんだ。特にこの島は聖地だから、汚されてしまわないかと、心配していたんだろうよ。
そのことにお前が気づいていたかどうかは知らないがね」

そうかもしれない。俺が腹が立っていたのは、俺らの聖地を荒らされているような気がしていたのかもしれない。
「それは間違っちゃいないよ。でもね、もし荒らされるようなことがあったなら、白龍が懲らしめるからお前が心配しなくてもいいのさ。
それよりもお前にはもっと重要な役目がある。この地に人々を運んでくる重要な役目だ」

役目なのか。そんな風に思ったことはなかった。それはもしかしたら誇らしいことなのかもしれない。

「この町に人が集まることは、力が集まることでもある。すべては悪いことではない。
そう思えばまた違う景色が見えてくるもんさ。
それにもし誰かがここを荒らすようになったら、その時はお前は船を出すのをやめることを選べるのだ。その一方でこに来てくれる人に感謝の気持ちを持って接することもできるのだ。どちらがいいのかよく考えてみるんだな」

確かに一方的にすべての人をやみくもに胡散臭い印象を抱くのは間違っていた。
肩の力が抜けて落ち着くと俺はこの状況は何だろうとおかしくなってきた。
これこそが、俺が馬鹿にしていたスピリチュアルってやつじゃないのか。

「この湖はお前だけのものじゃない、自然は誰かのものじゃないんだ。
みんなで分かち合い、みんなでしあわせになっていくことを考えるんだよ」
最後の声は婆さんというよりは、若い女の声だった。
はっとして婆さんを見ると、地面から白い光が上がってきて、婆さんの身体をどんどん包んでいるところだった。
光が当たった場所から婆さんの皮膚みたいなものがするする溶けていき、中から真っ白い着物を着た美しい女神のような女性が浮かび上がってくる。



「頼みましたよ」
そう告げると、婆さんだったその女性は、見たこともなく高貴な微笑みだけ残し、光が上昇するのに合わせて身体ごと空に上がっていった。
驚いて声も出せずに見ていたら、雷鳴が遠く響いて、かなり上まで上昇していった白い光が、龍のようにうねりながら空高く上がっていった。

惚けて見上げていたが、いつまでもこうしてはいられないと立ち上がった。
一応島を一周して探したけれど婆さんはどこにもいなくて、俺は帰ることにした。
消防や警察に届けるべきかと悩んだが、船に戻った時に婆さんが座っていたベンチに、手のひらほどの大きな真っ白い鱗を見つけたとき、このことは黙っていようと決めた。

嘘のような本当の話だ。


※阿寒のヤイタイ島に行った時、白い龍が上から下りてくるのを見た気がして、そのイメージで書きました。
こんな聖地に地元以外からどんどん人が来たら、わたしが地元の人ならどんな気持ちになるかなと想像して書きました(*^_^*)

白龍の女神は自分の姿をいつもキラキラの目で見ていた少年に豊かさのチャンスを与えたのに、感謝が足りないので、もっと素直になるよう伝えたかったのしれないですね。

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