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仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
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もうそこにはもどれない3

2011年10月14日 17時13分37秒 | Weblog
皆が来た。諏訪からも来た。不動産屋も来た。


最初は、増築した部分や農耕地も全て更地に戻す予定だった。
そんな時、不動産屋がやってきた。
「あちらの事情で立退きさせられるんだから、そのままでいいよ。それに公共事業なんだから、県がみんな持つし、大家さんも痛くないと思うよ。」

それはありがたいようで淋しかった。
工事が始まるまで、市谷の「ベース」はそのまま存在する。
ルームの機材は、諏訪に運んだ。
大きな食卓も、使えそうな家具も、「ベース」としての機能を維持していたものは全てなくなった。
がらんとした空間がそこにあった。
諏訪で調理を済ませた食材をがらんとしたその場所にヒデオとツカサがコンパネで簡単なテーブルを作って並べた。
人のことも、高井戸のことも、諏訪のことも話さなかった。
乾杯もしなかった。
静かに時間が過ぎた。
誰に話すというわけでもなく不動産屋が話し出した。
「本当はさあ、こんなに早く立退かなくてもだじょうぶなんだよね。県のやることってさあ、計画が出来てから始まるまですごく時間がかかるんだよね。」
ビールを飲み干して
「でもすごいよね。もう、次の場所見つけたんでしょ。」
「すごくなんかないわよ。」
アキコが声を出した。
「最初にね、「ベース」を移すときも、ほんとは考えたのよ。諏訪にね。でも、こんな形になるなんて思わなかったもの。」
「そうね。ミサキがいなかったら、こんなふうにはならなかったと思うな。」
「そんな、私は何も・・・」
「でもよかったね。ヒカルも来れたし、忙しいんでしょ、今。」
「うん。」
「それはそうとどれくらいの収入があるんですか。」
「えっ。収入って・・・。」
「だから、販売ですよ。販売、農産物の販売をやってるんでしょ。」