◆消費者金融「自殺で返済」
を支えた人々--倫理の緩み どう是正?
貸金業法が改正される。消費者金融への規制を強化し、灰色金利などをなくす。ただ、
借入人を自殺に追い込んで債権を回収するビジネスを裏で支えていたのは銀行や生命保険会社などだ。
高収益に目がくらんで崩れた倫理を回復するのは簡単ではなさそうだ。
10月はじめ消費者金融業界が揺れた。金融庁が「自殺で返済」といわれた消費者信用団体生命保険の全容をはじめて公表したからだ。
「自殺して返済は一部」と言い逃れできない水準
2006年3月期の消費者金融17社の自殺による保険金受け取りは4908件、43億円。受け取りに占める比率は件数で9.4%、 金額で14.2%にものぼる。
この比率には死因等不詳が入っているので、それを除いた死因判明件数に占める自殺を原因とする受取件数の比率は19.8%。 消費者金融が保険金を受け取った5人に1人は「自殺して返済」だった。ごく一部という言い逃れは出来ない水準で、シェークスピアの 「ベニスの商人」のシャイロックを思い起こすような倫理観の欠如が見て取れる。
金融庁の発表で揺れたのは消費者金融業界だけではない。厳しい取り立てで「自殺して返済」を迫るのは消費者金融会社だが、 その仕組みを提供するのは生命保険会社であることが改めて浮かびあがったからだ。
消費者信用団体生命保険契約の状況(06年3月末)によると主幹事保険会社は次の通りだ。
アコム(明治安田生命)
アイフル(明治安田生命)
武富士(エイアイジー・スター生命)
プロミス(日本生命)
CFJ(明治安田生命)
GEコンシューマー・ファイナンス(AIGエジソン生命)
三洋信販(三井生命)
シンキ(第一生命)
クレディア(第一生命)
丸和商事(三井生命)
通常のビジネスとかわらず、主幹事を競う姿が見て取れる。
「保険と融資」のおいしいビジネス
しかも、生保の消費者金融への関与は信用団体生命保険だけではない。
例えばプロミス。今年3月の参院予算委で与謝野馨金融担当相から 「かつて一流だと思っていた銀行が消費者金融と一緒に広告を出していることも不愉快なことのひとつ」といわれた。
不快感を示されたのは三井住友銀行で、3月末時点で20.22%を出資し、505億円を貸し付けている。 これに対して信用団体保険の主幹事である日本生命は出資比率こそ4.23%と三井住友に及ばないものの、貸し付け額は793億円とトップだ。
プロミスの借入金を業態別に見ると、生保からの借入残高は1682億円。伝統的に借り入れが多い信託銀行からの1290億円、 都市銀行からの756億円を抑え、堂々のトップである。
三菱UFJフィナンシャル・グループが12.99%を出資するアコム。 長期借入金が最も多いのは三菱UFJ信託銀行からの1416億円だが、 二番手には信用団体保険主幹事の明治安田生命が395億円でつけている。アコムの業態別借入金は信託銀行からがトップの2900億円。 生保からはそれに次ぐ1527億円となっている。
生保は保険の仕組みの提供にとどまらず、 消費者金融会社がそれを活用した高利の貸し付けが出来るように貸し出し原資まで提供していたのだ。生保から見ると、 消費者金融は保険と融資で二重にもうけられるおいしいビジネスだったわけだ。
「命より利益優先」にブレーキなし
厳しい取り立てなどがしばしば問題になった消費者金融向けの融資に関しては、リテール(小口金融) を手がける都市銀行ははじめのうちは比較的慎重な姿勢を取ってきた。そのため、 消費者金融会社は貸し付け原資をホールセール中心の信託銀行や外国銀行から調達してきた経緯がある。
消費者金融各社は業務を拡大していく中で、調達先も多様化。社債による調達などに加え、生保マネーにも頼るようになり、 それが今や調達の大きな柱となっている。
生保の消費者金融向け貸し付けは違法ではない。大手消費者金融会社は株式を上場しているし、高収益を誇ってきた。このため、 融資の信用リスクは低いと見られ、そこそこの利回りが確保できれば立派なビジネスだとの見方も成り立つ。
ただ、法令順守という最低限のハードルさえ越えればいいわけではない。利用者に安心を売る生命保険会社が、 利用者の自殺を促すようなビジネスを支援していいのかどうか。
銀行の場合、保険の支払いの詳細まではつかめない。それに対して生保は保険金を支払っていたのだから、 この信用団体保険の本質がどういうものか分かっていたはずだ。にもかかわらず、自らそれにブレーキをかけることなく、 命より利益を優先した格好になっている。
生保各社は崇高な理念を掲げている。「高い倫理観と協働の精神」(明治安田生命)、「広く社会の福利増進に尽力する」(日本生命)、 「社会からの高い信頼を確保し、その発展に貢献する」(第一生命)――。理念と実態の落差は歴然としている。
貸金業法改正で、貸金業者が貸し手の自殺により保険金が支払われる保険契約を結ぶことが禁止される。 銀行や保険は長いあいだ問題視されながら続いたこのビジネスからたっぷり利益を稼ぎ出したが、そこで失った倫理規範も大きかった。 業務がなくなるのとともに、倫理もうやむやのまま不問に付されるのだろうか。
以上抜粋。
(私のコメント)
変額保険で悪名高い保険会社が、自殺で借金を返済させています。結局、企業体質は変わらないわけです。
ちなみに生命保険会社の審査部は、未払いによる利益の追求を良しとします。上記にあげられている会社のOBによると、 医療の現場で医学的観点から不必要な保障は業界の方針として認める一方で(ある病気では完治すれば再発の可能性はほぼゼロなのに、 再発の可能性の保障をする無駄があります)、契約上払わなければならない保障を無視するのです(加入後、 2年経過したら必ず払わなければならない)。
変なところで保身しているのに、未払い問題では保身を考えない歪さがあるわけです。