僕と豚の生姜焼き

僕の今日の夕飯は豚の生姜焼きだった。
豚の生姜焼き、豚肉ともやしだけというシンプルな料理。
生姜の味がいい感じに豚肉やもやしにマッチしていて、とても美味しい。
いつも通り作ったつもりだったが、少ししょっぱかった。

でも、これが最後の豚の生姜焼き…。
僕は今回の食事を終えると、二度と豚の生姜焼きを食べる事が出来なくなる。
そう、ドクターストップがかかったのだ。

酒やタバコのドクターストップは、話とかでも聞くし、止める理由も分かる。
おそらく医者に止められても無視して、酒やタバコを続けている人もいるだろう。
自分自身でそのデメリットを理解しているからこそ、ドクターストップを無視出来ているのだと思う。

しかし、今回は話が違う。
豚の生姜焼きを、医者に止められたのだ。


「じゃー○○さん、明日から豚の生姜焼きを食べるのを止めてね。あ、今日は大丈夫だから。最後に食べときなよ。」

軽く風邪気味だったので、診てもらった帰りに、自然な流れで言われたセリフである。あまりにも自然な流れすぎて、「はい、分かりましたー」と答えその場を去ってしまった。
その重大さに気が付いたのは、夕食の食材を買う為のスーパーだった。

医者なりの冗談かもしれない。ツッコミ待ちだったのに、自分がスルーしていただけなのかもしれない。
そう思いつつも、医者の言う事が本当で、明日以降二度と豚の生姜焼きを食べれないと困るので、豚の生姜焼きを作る為の食材を買い、スーパーを後にした。


家に着いた僕は、お腹も減っていたのでとりあえず豚の生姜焼きを作り始めた。
僕は料理をラジオを聴きながら行う。

ラジオ番組では、珍しい病気についての話をしていた。
牛肉のしぐれ煮にドクターストップがかかったリスナーの体験談が聞こえてくる。そしてそれに対してのパーソナリティーの実体験として、鶏肉とカシューナッツ炒めにドクターストップがかかったという話をしている。
僕は怖くなり、ラジオを切った。

豚の生姜焼きを食べてはいけない、これは冗談じゃなく、本当なのかもしれない…。似たような状況の人もいる。今までそんな事を聞かなかったのは、自分が知らなかっただけで、当たり前にある事なのかもしれない。

最後になるかもしれない豚の生姜焼き。
悔いの無いように、これが最後なのだから…。
そう思うと、自然と目から涙がこぼれていた。