奨学金問題を考える(下)

2010-10-18 12:58:42 | 京都POSSEの活動報告です!
前回では奨学金問題の現状やブラックリスト化についてみてきたが、今回はブラックリスト化の背景を分析し、また日本と海外との比較を行っていきたい。

■ブラックリスト化の必要性について
2010年度よりブラックリスト化が導入されたが、日本学生支援機構(以下、JASSO)の有識者会議では「普通の金融機関の感覚からみて返還率は低いとはいえない」「個人の無担保債権で、与信判断を行っていない条件にしては返還がなされているほう」という意見も出されていた。意外にも奨学金の返還率は高いのである。それにもかかわらずブラックリスト化が導入されるにはまた別の理由がある。JASSO自身の構造的問題である。

JASSOの財源は、国の有利子貸付である財政投融資、JASSOの債権の発行(財投機関債)、民間企業からの融資で構成されており、JASSO自身が借金をして学生に貸しているのである。2001年の財政投融資の抜本的改革により市場原理にのっとった資金調達が行われるため、民間からの貸付に待ったはない。また、財政融資資金を運用する財務省からも債権回収の強化が要請され、「ブラックリスト化」は回収率を上げるパフォーマンスとして敢行されるようになったのである。それに加え、信用情報機関の個人情報をJASSOも利用できるため、債権回収のための取立てが低コストで行なえる。以上の構造的背景から「ブラックリスト化」が実行されたのである。
事業が膨張するほどJASSOは回収不能のリスクや融資の利息払いに追われるようになっている現状において、本来の教育の機会均等を目的とした奨学金ではなく、民間の投資家に利益の出るような設計(JASSOの財投機関債は金利のよい商品)にせざるを得ない状況になっている。

■日本と海外の国際比較
日本の奨学金の特徴を知るために、海外との比較をしてみたい。最近OECDの「図表でみる教育」(2010年版)によって、OECD各国における教育機関への公財政支出の対GDP比(全教育段階)が表された。その内容において日本は前年と変わらず3.3%であり(OECD各国平均4.8%)、その順位は、28カ国中最下位であった。これは学生への奨学金を含んではいない。奨学金を含めると、日本は3.4%(+0.1%)になるが、OECD各国の平均は5.2(+0.4%)に上昇する。もちろん日本は最下位である。いかに日本の教育への投資が世界と比較して低いかは明らかである。また、私費負担もOECDの平均の倍(OECDの平均は0.8%であり、日本は1.7%)である。これは日本の教育費制度が奨学金システムではなく、親の過剰負担によって担われてきたことを表している。そして各国と比較すると、日本では学部の段階で、授業料減免を除き給付奨学金がないというのが特徴である。

都内の私立大学に通うSさんは、学費と家賃以外は自分でアルバイトをして稼いでいたが、父親がリストラにあい、学費と家賃も親に頼れなくなってしまいバイトを増やした。その結果それまで休日だけのバイトが平日まで及び、学習時間が削られるようになった。
このように学生が学業に専念できないほどのアルバイトをしなければならない状況は、高い授業料と低い奨学金の日本ならではの姿である。

■課題の整理
奨学金についての課題を整理しておきたい。まずこれまでブラックリスト化の問題についてみてきたが、そこにはJASSO自身の構造的問題があるということがわかった。JASSOのブラックリスト化導入によって、これから奨学金を借りようとする者は強い抵抗感を持つであろう。教育の機会均等を目指すJASSOの奨学金は、目的からかけ離れてしまうのではないだろうか。また、国際比較でもわかるとおり、日本は給付される奨学金はなく、私費負担が大きいことが特徴である。親の所得が少ない者は進学ができなくなる可能性が高い。そして、現在の奨学金は5年の返済猶予が切れると返済しなければならない。

ブログの(上)でも現状で紹介したように、延滞者の年収は低い。奨学金返済の負担感は相当なものであり、経済的な理由による延滞者に対しての配慮は必要である。

経済的な理由による延滞の課題に対して、海外(イギリスやオーストラリア)では所得の多寡に連動して奨学金を返済する「所得連動型ローン」を導入している。一定所得以下の場合の返済猶予ないし免除があるこの制度は、日本に大きな示唆を与えてくれる。

■おわりに
奨学金のブラックリスト化をはじめ現在の日本の奨学金の現状を見てきたが、奨学金の制度自身に「未来への投資」という視点はない。OECD諸国では、高等教育を終了した者は、所得税及び社会保障などの寄与が高く、高等教育に対する公共投資額の約3倍になるという試算がでている。そうであるならば、私的負担だけではなく、公的負担など社会全体で負担するということも必要ではないだろうか。現在の格差、貧困などの社会状況や、人的投資の重要性を視野に入れた抜本的な制度設計が今後求められる。

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http://www.npoposse.jp/syogakukin/index.html
<参考文献>
POSSE vol.3
POSSE vol.6

<参考URL>
・クローズアップ現代HP
http://cgi4.nhk.or.jp/gendai/index.cgi (2010年10月17日現在)
・POSSE member's blog
http://blog.goo.ne.jp/posse_blog/e/a95c7272156c6d0b40081e9b453bd7b4 (2010年10月17日現在)
・Education at a Glance 2010: OECD Indicators(OECD HP)
http://www.oecd.org/document/52/0,3343,en_2649_39263238_45897844_1_1_1_1,00.html (2010年10月17日現在)

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