
労組通信の2025春闘特集号の発刊を終えて、いまや唯一の連載記事も締切1周間前(優秀すぎる!)に入稿済み。締切のない週末は、なんてすばらしいのでしょう。抗がん剤6ラウンドめの副作用もピークを過ぎたので、きょうは、「れんと」でささやかながら祝宴です。
ただ、今春闘では、経営陣と論戦があり、労組通信は10ページを超えてしまいました。新入社員のみなさんにエールを送ったり、労組のあらましを紹介する記事も掲載したかったのですが、新人歓迎号として独立させ、次週に発行延期となりました。
だからまだ仕事は残っているのですが、新人さん向けの文章は楽しみながら書けるからいいです。小さな人や若い人に向けて書くのは楽しい仕事です。
公安関係者によれば、いまや新左翼系最大というわが労組は、賃上げ闘争でもそれなりの成果を挙げています。しかし、中小の限界で、最近の物価高騰に追いつきません。組合員の一部からの副業・兼業解禁に関する要望に、労組としても真剣に向き合わねばならなくなりました。
しかし、いまや総務部長に出世した後輩氏に話を聴きましたが、なかなかむずかしいですね。政府や資本家は、「8時間労働など撤廃しろ」などと言い出しかねませんが、それは時代に逆行しています。IT化・デジタル化が進展化するなかで、現在の労動者の労働強度・密度ははるかに上がっています。ここが、現役時代は「24時間戦」っていたつもりのバブル世代の経営陣・幹部層との根本的な認識の対立です。
労働時間は1日6時間か週休3日に移行しなければならない。そうすれば、労基法や職場の就業規則にも抵触せず、健康障害のリスクも軽減しながら、ダブルワークの道も開けてくるでしょう。私はこう思います。
しかしそれはあくまで原理原則で、いますぐ実現は困難です。現状でも可能なやり方を模索していくしかありません。
以下、労組の春闘特集号に掲載した、ダブルワークのおはなしです。ご参考になれば幸いです。
「副業・兼業に関する労組の見解と立場」(執行部見解)
今回の労使交渉のテーマとすることは準備不足から見送りましたが、執行部に寄せられた意見として、副業解禁に関する要望がありました。要望そのものは会社に伝え、ヒアリングを行っています。以下、会社へのヒアリング結果と、労組のリサーチです。
異常な物価高騰に賃上げが追いつかないなか、副業解禁の要望も以前より高まっています。
副業は憲法や労働基準法で禁止されておらず、本業の労働時間外であれば原則として自由にできます。ただし、企業の多くは就業規則で副業を禁止しており、当社も同様です。これは後述するように、労働時間管理、特に時間外労働の問題で、さまざまな課題があるからです。
副業解禁は、過去の労使交渉でも取り上げてきました。そのたびに、会社は労働時間の管理のむずかしさを理由に、「時期尚早」と難色を示してきました。
しかし、近年は政府・厚生労働省も副業・兼業を推奨するようになりました。会社としても、時代の流れであり、労使交渉の議案にのせていくこと自体には以前のような拒否感はありません。
誤解を解いておけば、現状でも、当社の就業規則は副業そのものを禁じるものではありません。
就業規則が禁じるのは、他社に「雇用されること」です。したがって、家作(賃貸を目的にして作った家・集合住宅)から家賃収入がある、株の配当がある、ブログのアフィリエイトやネットオークションの収入がある、畑の野菜や裏山のタケノコが売れた等々を禁じるものではありません。本業がおろそかにならないかぎり、こうした副収入があっても、会社も目くじらを立てることはないし、くちばしをはさむこともないでしょう。
しかし、2002年に政府・厚労省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発表してから23年(今年の新入社員はまだ赤ちゃんです!)、2018年にその改訂版が発表されてから7年になりますが、ダブルワークは、いまだに定着したとは言いがたい現実があります。
このことは、統計調査にも表れています。
大手転職情報サービスdodaの調査では、副業を「している」と答えた人の割合は8.4%でした(2024年1月29日)。前回より0.2pt増したものの、10%に満ちていません。
副業が会社で認められている人の割合は27.5%でした。前回より2.2pt増となったものの、微増にとどまっています。物価高騰が続き、トランプ・ショックで経済の不透明性も増すなかで、今年は昨年より副業・兼業を行っている人も、副業・兼業を認める企業も増加しているでしょうが、劇的な変化はないと思われます。
このdodaの調査から、副業・兼業の実態について見てみましょう。
この調査で副業容認の上位3業種をみると、52.6%の人材サービス・アウトソーシング・コールセンター、41.3%の警備・清掃、40.5%のコンサルティング・監査・税理・リサーチ系です。これらの業種は、副業・兼業も可能な柔軟な雇用形態をとる会社が多数です。第4位の38.0%のIT・通信も比較的自由裁量がきく業界でしょう。IT系では完全週休3日が実現した企業がたくさんあります。
これらの業界・企業では、フルタイム勤務の当社とちがって、副業・兼業しても時間外労働の問題が発生しにくいというメリットがあります。(もちろん、そのメリットは、リスキーな不安定雇用の裏返しであるわけですが)。
このことは何を意味するでしょうか?
副業・兼業解禁を希望する人は、現在の当社の収入に、アルバイト感覚でプラスアルファの収入を望んでおられるのだろうと思います。でも、会社が禁じているからできないのだ、と。労働組合、なんとかしろ、会社とたたかえ、と。
たたかいは、私のレーゾンデートルであり、生きる喜びです。しかし、私には同志であるみなさんを資本や攻撃から守り抜く責任があります。みなさんは、資本のブタや権力のイヌどもにだまされないように、もっと賢くならなければならない。
残念ながら、当社の就業規則が雇用形態も含めた副業・兼業を解禁したところで、ダブルワークが可能になるのはごくひと握りの人にとどまるでしょう。
なぜなのか。労働基準法では、原則として1日8時間、1週間に40時間を超えて労働させることはできません。これを「法定労働時間」といいます。法定労働時間を超えた場合には、時間外労働手当が支払われます(その時間外労働にもサブロク協定の定めるところにより上限があります)。
つまり、1日8時間、1週間に40時間フのルタイム勤務の正社員であるみなさんが、他社に新たに雇用されたばあい、モグリの仕事でない限りは、その副業先・兼業先は、労基法の定めるところにより、最初から25%割増の時間外労働をその人に支払わねばならないということです。
「25%割増でもいいから来てください」なんて、その人によほど高度なスキルがあるか、その会社がよほどの人不足であるかしないかぎり(ちょっと要注意の会社ですね)、考えにくいことです。これが副業・兼業が一般企業に広まらない理由です。
このほか、月あたり一定以上の労働時間・収入になれば、副業先でも社会保険の負担が必要になります。労働災害・通勤災害の問題にも目を向けていく必要があります。
会社には労基法を遵守する社会的責任があり、労組には労働者階級がヘイマーケット闘争やロシア革命で血を流して闘い取ってきた8時間労働の権利を守り抜いていく使命があります。
それでもダブルワークが必要だというばあい、現状でも可能な解決策は、2つあります。
ひとつは、週3日勤務、短時間労働も認める、当社の新たな雇用形態に移行されることです。いまひとつは、副業先・兼業先と、雇用契約ではなく、個人事業主として請負契約を結ぶことです。
前者の場合は、当然、当社からの収入はダウンします。今後の労使協議の課題ではありますが、現状では組合員資格・正社員資格を喪失し、一時金の支給対象からも除外されることになるでしょう。このマイナスを上回るプラスがあるかどうかということです。
後者の場合は、税務処理の問題、確定申告の問題が発生するのはいうまでもありません。「ケガと弁当は自分持ち」で、労災があっても原則として保障はありません。AmazonやUber Eatsの配達員など、その実態は労働者であるにもかかわらず、偽装請負を強制する労働者の敵の違法・脱法企業も多々あります。それでも、すべて自己責任です。しかしクリエイティブの分野では、兼業作家、兼業クリエイターは大勢いらっしゃいますから、才能のある方は会社員兼個人事業主の道をえらぶのも選択肢ではあるでしょう。
以上の大原則を踏まえたうえで、副業・兼業に関する労組の見解と立場を申し上げます。
副業・兼業は、労働者の収入増加・生活向上、スキルアップにつながる可能性を秘めている以上、労使ともに前向きに検討していくべきでしょう。異業種を知ることは、視野や見聞を広め、労働者の自立性や主体性を育てることにもなるでしょう(最近は天下一品のスキマバイト体験のネット記事がおもしろかったです。あのスープにあんな秘密があったなんてhttps://diamond.jp/articles/-/362651)。副業・兼業を認めることで、労働者の満足度が向上し、離職率の低下につながることも期待できます。労働組合も会社も、働き方が多様化する中で、時代の変化に対応していかねばなりません。
しかしながら、副業が本業に悪影響を与える可能性については、労使は慎重にも慎重を期していかねばならないと考えます。副業・兼業による長時間労働が、労働者の健康障害を招くリスクは軽視できません。副業が本業に悪影響を与えないように、「本業と副業のバランス」「労働時間や業務内容の調整」「労働条件の保障・労働協定の見直し」などが労使交渉のテーマになっていくでしょう。
労働組合は副業解禁に向けて、建設的な労使協議を進めていきます。