新・私に続きを記させて(くろまっくのブログ)

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ロシア農民生活誌より

2012年01月17日 | 革命のディスクール・断章
「君主制やそのほかの食人や未開の洞窟生活の遺産に比べれば、民主主義は、もちろん大きな成果である。しかし、それは人間の社会的な相互関係での盲目的な力の勝負には手をつけずに放置する。十月革命は、まさにその、無意識的なもののもっとも奥深い領域にはじめて手をつけた。ソヴェト制度は、蓄積された帰結だけが今日まで支配的であった社会の土台そのものに目的と計画をもちこみたいと思っている。」
(『ロシア革命史』トロツキー)


 「無意識的なもっとも奥深い領域」……それはロシア社会の土台を支えていた農民の精神宇宙だったといえよう。

 『ロシア農民生活誌』によると、ロシアのあらゆる伝統的なお祭りのうち、もっとも人気があり、人々があらかじめ長時間準備し、何日にもわたって祝うのは、復活祭、三位一体の祭り、そしてクリスマスだった。

 クリスマスの祭りは、新年までまるまる一週間続いた。大いに食べ大いに飲み、また魔術的儀式や占いのときだった。クリスマスイブには若者の一団がロマの仮装をして門をたたいて次のようにいう。

 「家長にごあいさつ! キリストはお生まれになった!」
 「クリスマスおめでとう、勇敢な人よ、大箱を開いて、お金を取り出してください!」

 若者たちはアコーディオンとバラライカの演奏でコリャードィ(クリスマスソング)を歌い、寄付をつのる。農民たちはケチをして不運を招くことを恐れて、若者たちに寄付することを断ることは滅多になかった。大晦日には年の終わりを象徴して、大きなわらの火をともす。子どもたちは布のボールをつくり、針金をつけ、石油をつけ、空中で振り回した。

 このロシアの祭りのなんと楽しそうなことだろう。ハロウィン、あるいは左義長の火祭り(どんと焼き)などを思い出させ、懐かしさと同時に私たちの知らないロシアを教えてくれる。


 共産党は「伝統的祭りを打倒せよ」と呼びかけた。伝統的な祭りは貧困を生み出し、労働者と農民の同盟を妨害し、農業の集団化にブレーキをかけ、教会権力と結びついた、「非合理」で「反動的」な「古い生産様式」に結びついたものだと見なされたのだ。そう、真の左翼なら、真のマルクス主義者であるならば、ただちにクリスマスを粉砕しなければならない!

 共産党と当局は、村の祭りの意義を、教会との結びつきと宗教的側面にのみ還元することによって、大きな無理解と錯誤を犯していた。クリスマスの起源は、キリスト教が入るより前の、異教的な信仰が息づいてきたものだ。

 9世紀間、正教もついにこの民衆のらんちき騒ぎを黙認せざるをえなかった。ロシアの村祭りは、農業のサイクルと季節の循環とわかちがたく結びついていたからだ。西欧でも、キリスト教時代の大半を通じて、二つの相容れない暦が用いられていたことも忘れてはならない。教会が採用した公認の太陽暦、すなわち「ユリウス暦」と、農民が用いた非公認の太陰暦である。

 はたして、ソヴィエトの文化革命は、ロシア正教が妥協せざるをえなかったところで成功することができただろうか。ロシア農民のことわざがいうように、「生きるということは、働き、祭りを祝い、そして死ぬこと」だというのに?

 「社会の土台そのものに目的と計画をもち」んだロシアの大革命は、ロシアの大地から神や精霊や魔女を追放して……ロシア農民の精神的宇宙までも破壊しつくしていった。教会の大部分は閉鎖され、女祈祷師は医師や助産婦にその地位を譲った。教育が普及し、農民は新聞やテレビやラジオで情報を手に入れ、都市化が進んだ。

 なるほど、「君主制やそのほかの食人や未開の洞窟生活の遺産」に比べれば、十月革命は、大きな成果であったといえるかもしれない。しかしソヴィエトの権力は、「蓄積された帰結」「社会の土台そのもの」を破壊しただけで終わった。伝統的な社会の規範・慣習は破壊しつくされ、従来型のセーフティネットは機能不全に陥り、生活の多くの場面が「社会主義」化された。

 このソヴィエト型社会主義なき後、スターリンやトロツキーの亡霊は、今や新資本主義=新自由主義に憑依したかのように見える。国民国家を無力化し、家族の基盤をも崩しておきながら、ナショナリズムや家族の価値への帰属を強調するその矛盾・欺瞞・自家撞着。「蓄積された帰結だけが今日まで支配的であった社会の土台そのものに目的と計画をもちこ」もうとする夜郎自大は、古いスターリニズムと同型的なのだ。

 ブルジョアジーもいまや祖国を持たず、資本も金融も国境を越えて自由に移動する。

 となれば、革命的左翼や労働組合や市民のアソシエーションも、国民国家の枠組みに止まる限り、どのような未来もないことが明らかになる。平和・復興・労働・家族・産業・ジェンダー・農業・住宅・教育・医療・エコロジー・日常生活のあらゆる局面で、国家を超える社会を構想し、人民の連帯を組織化していくこと。われわれは、わがソヴィエトとは反対に、左翼的なロゴスに頼らず、「無意識的なもっとも奥深い領域」にこそ思想と運動の根拠をおくであろう。幸いにしてこの地球は丸い。

 「世界は碁盤の目のように仕切られ、その中で従順でないマイノリティは片隅に追いやられるようになります。連中はそうした存在を隅におきたがるのです。だが、意外にも地球は丸いのです!そして、球形の特徴のひとつはまさに隅がないことなのです」(同志マルコス副司令)


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4 コメント

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Unknown (伊賀篤)
2012-01-17 08:39:05
こんにちは。

> 「世界は碁盤の目のように仕切られ、その中で従順でないマイノリティは片隅に追いやられるようになります。連中はそうした存在を隅におきたがるのです。だが、意外にも地球は丸いのです!そして、球形の特徴のひとつはまさに隅がないことなのです」(同志マルコス副司令)

いい言葉ですね。私自身は、何処の組織でも地域でも…片隅で、ひっそり生きている(生かして貰ってる)存在だと思っていたのでしが…

> われわれは、わがソヴィエトとは反対に、左翼的なロゴスに頼らず、「無意識的なもっとも奥深い領域」にこそ思想と運動の根拠をおくであろう。幸いにしてこの地球は丸い

…という事であれば、私も中心の核を為す領域(奥深い領域)で、他者と繋がっている事になります。

祖国を持たないという事であれば、TAMO2さんの所でも紹介したのですが…

齋藤 拓「世界規模のベーシック・インカム」
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/d/b03003.htm

…という論考も有ります。(まだこの分野は研究途上で、論文は少ないですが)

卑近な例では、TPPの問題も国民国家の枠組みだけで考えていては駄目でしょうね。ローカルとグローバルを結びつけた考え方が求められますね。
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Unknown (kuro-mac@osaka)
2012-01-17 20:54:02
コメントありがとうございます。

ご紹介のサイト、おもしろそうですね。ゆっくり拝読します。

町起こしで「よそ者・若者・変わり者(ばか者とも)」というの、本当だな、と思います。

孤立無援のアウトサイダーだから、他者のうちに友を見いだし、普遍的な連帯に到達することができるのだと、おれも日本のマルコス副指令だったらいいなあと思います(最後、たんなる願望じゃねーか!)。
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Unknown (キンピー)
2012-01-18 19:59:21
こんちわー
亡霊による破壊工作は現在進行形ですね。
っで、流行ネタですが、この記事に触発されて書いてみました。

http://a9leather.blog66.fc2.com/blog-entry-303.html
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Unknown (kuro-mac@osaka)
2012-01-18 21:20:42
まいど!
ジョニ黒の話はぜひ、みんな読んでください。
現在進行形の西成問題についても。

映画「ビリケン」より。大阪五輪の選手村建設のため、撤去の決まった通天閣の社長さん(岸部一徳)のセリフ。

「通天閣倒すなら、倒したらええがな。また建て直すがな。二代目があるちゅうことは、三代目もあるちゅうこっちゃ。わしら金ないけど自分ら知らんぞ!」
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