
アインシュタイン選集(2): [A7] 一般相対性理論におけるエネルギー保存則(1918年)
今日もあいかわらず暑いので午後から中野サンモールにあるエクセルシオールカフェで冷気にあたりながら記事を書くことにした。この本については概要解説の記事をご覧いただければわかるように半分くらいにさしかかっている。
そもそも僕がこれほどまで理論物理学にはまっているのは2年前に「タイムマシンの作り方」という本を読んだのが発端で、その後「量子のからみあう宇宙」を読んでさらに虜になってしまった。これまでの経緯は「宇宙論プロジェクト」というカテゴリーの記事を古いほうからたどっていただきたい。
もしあなたが「物理や数学なんて生きていく上で何の役に立つの?」と思っていらっしゃるような方ならば、まずこちらやこちらの記事をお読みいただきたい。
それでは今日の論文の解説をはじめよう。
[A7] 一般相対性理論におけるエネルギー保存則(1918年)
一般相対性理論において運動量保存則やエネルギー保存則が成立していることは、既に「[A3]:一般相対性理論の基礎(1916年): C 重力場の理論」の最後で導いている。この論文では1つ前の[A6]の論文で予想した球状宇宙全体においてエネルギー保存則が成立しているかどうかを確認するものだ。スケールが大きい。
§1 保存則の数式化とこれに対する反論
エネルギー保存則は任意の孤立力学系の占める全域にわたってとられたエネルギーの総量が時間の経過にともなって一定の値になっていることだ。球状宇宙全体をこの孤立力学系とみなす。したがって元来この量は1つの積分型法則になる。
特殊相対論によって導かれたのは微分型の法則である。それはエネルギー・テンソルの4次元的発散量が0に等しいという形で使われる。この微分型法則は経験から抽象された積分型法則と同等である。
このセクションでアインシュタインは一般相対性理論における(微分型ではない)積分型の運動量・エネルギー保存則を意味する方程式を提案した。これは物質および重力場を含むハミルトン関数から計算されるものである。
しかし、この方程式で用いられている2つの要素がテンソルではないという理由から、彼の提案は他の学者からの反対にあった。彼らは、物理的に意味のあるすべての量は必ずスカラーやテンソルの成分によって表されるべきだと考えたからだ。
この反対をくつがえすために、アインシュタインは彼の積分型エネルギー保存則が正しいことをこの論文で証明する。つまり1つの孤立系に対して、この系の基準座標系に対する相対運動の状態がわかっていれば、座標系の選び方に無関係に、この系のもつエネルギーおよび運動量は完全に決定されてしまうことを示すのだ。
§2 エネルギーおよび運動量はどの程度に座標系の選びかたに無関係か
ひとつの物理系のエネルギーと運動量について議論できるためには、エネルギーと運動量密度はある領域Bの外では0とならねばならない。一般的には領域Bの外では計量g(u,v)が定数の「ガリレイ型空間」となる。領域Bの内部は「非ガリレイ型空間」である。つまり、真っ直ぐな空間の中に曲がった領域Bという空間がはめこまれているイメージだ。
領域Bの内部に座標系を設けた場合、この内部座標系がBの外部に設けられたガリレイ型座標系と連続的に結ばれるという要請が唯一の条件となる。
運動量およびエネルギー保存則を示す積分法則は、前のセクションで提案した積分型方程式を空間的な3次元方向で領域Bの内部にわたって積分することによって得られる。そして、その値は領域Bの座標系をどのように設定しても一定であることをアインシュタインは示した。
運動量とエネルギーの保存則を示す積分型方程式の要素がテンソルではないにもかかわらず運動量やエネルギーが一定値を示すことは注目すべきことである。なぜなら、エネルギー・テンソル密度の成分に対して座標系の選び方に無関係な不変な物理的意味づけができないからだ。
このセクションで採用した方法によって、エネルギー密度を基本とする微分形式よりも、全エネルギーを基本とする積分量のほうが物理的実在としての価値が高いことがわかる。
§3 閉じた宇宙に対する積分型法則
アインシュタインが予想した閉じた球状宇宙を考えたとき、前のセクションで前提とした領域Bの外のガリレイ型空間はその存在の根拠がうすい。領域Bを惑星程度の大きさならば近似的に成立するのだが、宇宙全体を大局的にとらえた領域としてBを考えると成立しない。すなわちそれをとりまくガリレイ型空間は直交空間であることから、一般相対性理論によってそこに物質は存在してはならず、完全に真空でなければならないからだ。
領域Bを前提としない方法で彼は宇宙を「準球状の閉じた宇宙」という条件のもと、運動量やエネルギーが保存することを3ページに渡る計算によって示した。ここで「準球状」の「準」というのは物質が不均一に分布し、なんらかの運動をしている場合という意味合いだ。
その結果閉じた宇宙全体に対しては、その全運動量は0となり、その全エネルギーの値は時間が経っても不変であること、そしてそれらは基準となる座標系の選び方に無関係であることを証明することができた。
§4 球状宇宙のエネルギー
さらにアインシュタインは宇宙全体のエネルギー保存則をより具体的な形で調べてみた。つまり、球状宇宙の中に互いに干渉しあわない物質(すなわち無数に多くの独立な質点の集合)が一様に分布している場合について計算した。無数の質点とは宇宙の中の恒星のことだと考えてよい。
2ページ渡る計算の結果、このような静的宇宙の全エネルギーが求められ、重力場は宇宙の全エネルギーになんら寄与しないことが求められた。
§5 孤立系の重力質量
このセクションでアインシュタインは全宇宙の重さ(重力質量)を計算してみせた。
§2で提案したガリレイ型空間の中にはめこまれた物理系について再考する。このような物理系における領域Bにおいて、静止エネルギーE0に4元速度を掛けたものは1つの4元ベクトルとしてローレンツ変換によって変換される。その結果この物理系においてエネルギーとみなされる量は慣性質量の役目を果たしている。
このセクションではこの物理系の全エネルギーとみなされる量は、全系の重力質量とも一致することを示すのが目的だ。アインシュタインは座標系の原点のまわりに1つの物理系が存在するとする。この物理系は全体として眺めれば座標系に対して静止しているものとする。このような物理系は重力場をそのまわりに生み出す。けれども空間的な無限遠点ではこの重量場はいくらでも高い精度で質点によって作られた重力場と同じふるまいをすると考えてよい。
無限遠点での計量の成分g(4,4)の値を物理系の重力質量Mを用いた方程式でアインシュタインは示した。さらに全宇宙の場の方程式、全宇宙を含む無限に大きな2次元的閉曲面Sを数式で表現し、計算を進めると物理系の重力質量Mは静止質量E0に一致することが求められる。
関連リンク:
アインシュタイン選集(1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559
アインシュタイン選集(2):読みはじめた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e
時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e
少年の頃の夢(の続き)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a6e4b9271cd56b2e85c3bdaa0b8b7cae
趣味で相対論
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/90aa60383b600ff4e4fd7bea6589deaa
とね書店:
アインシュタイン選集(1)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030192/503-5691539-3879144
アインシュタイン選集(2)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030206/503-5691539-3879144
アインシュタイン選集(3)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030214/503-5691539-3879144
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そもそも僕がこれほどまで理論物理学にはまっているのは2年前に「タイムマシンの作り方」という本を読んだのが発端で、その後「量子のからみあう宇宙」を読んでさらに虜になってしまった。これまでの経緯は「宇宙論プロジェクト」というカテゴリーの記事を古いほうからたどっていただきたい。
もしあなたが「物理や数学なんて生きていく上で何の役に立つの?」と思っていらっしゃるような方ならば、まずこちらやこちらの記事をお読みいただきたい。
それでは今日の論文の解説をはじめよう。
[A7] 一般相対性理論におけるエネルギー保存則(1918年)
一般相対性理論において運動量保存則やエネルギー保存則が成立していることは、既に「[A3]:一般相対性理論の基礎(1916年): C 重力場の理論」の最後で導いている。この論文では1つ前の[A6]の論文で予想した球状宇宙全体においてエネルギー保存則が成立しているかどうかを確認するものだ。スケールが大きい。
§1 保存則の数式化とこれに対する反論
エネルギー保存則は任意の孤立力学系の占める全域にわたってとられたエネルギーの総量が時間の経過にともなって一定の値になっていることだ。球状宇宙全体をこの孤立力学系とみなす。したがって元来この量は1つの積分型法則になる。
特殊相対論によって導かれたのは微分型の法則である。それはエネルギー・テンソルの4次元的発散量が0に等しいという形で使われる。この微分型法則は経験から抽象された積分型法則と同等である。
このセクションでアインシュタインは一般相対性理論における(微分型ではない)積分型の運動量・エネルギー保存則を意味する方程式を提案した。これは物質および重力場を含むハミルトン関数から計算されるものである。
しかし、この方程式で用いられている2つの要素がテンソルではないという理由から、彼の提案は他の学者からの反対にあった。彼らは、物理的に意味のあるすべての量は必ずスカラーやテンソルの成分によって表されるべきだと考えたからだ。
この反対をくつがえすために、アインシュタインは彼の積分型エネルギー保存則が正しいことをこの論文で証明する。つまり1つの孤立系に対して、この系の基準座標系に対する相対運動の状態がわかっていれば、座標系の選び方に無関係に、この系のもつエネルギーおよび運動量は完全に決定されてしまうことを示すのだ。
§2 エネルギーおよび運動量はどの程度に座標系の選びかたに無関係か
ひとつの物理系のエネルギーと運動量について議論できるためには、エネルギーと運動量密度はある領域Bの外では0とならねばならない。一般的には領域Bの外では計量g(u,v)が定数の「ガリレイ型空間」となる。領域Bの内部は「非ガリレイ型空間」である。つまり、真っ直ぐな空間の中に曲がった領域Bという空間がはめこまれているイメージだ。
領域Bの内部に座標系を設けた場合、この内部座標系がBの外部に設けられたガリレイ型座標系と連続的に結ばれるという要請が唯一の条件となる。
運動量およびエネルギー保存則を示す積分法則は、前のセクションで提案した積分型方程式を空間的な3次元方向で領域Bの内部にわたって積分することによって得られる。そして、その値は領域Bの座標系をどのように設定しても一定であることをアインシュタインは示した。
運動量とエネルギーの保存則を示す積分型方程式の要素がテンソルではないにもかかわらず運動量やエネルギーが一定値を示すことは注目すべきことである。なぜなら、エネルギー・テンソル密度の成分に対して座標系の選び方に無関係な不変な物理的意味づけができないからだ。
このセクションで採用した方法によって、エネルギー密度を基本とする微分形式よりも、全エネルギーを基本とする積分量のほうが物理的実在としての価値が高いことがわかる。
§3 閉じた宇宙に対する積分型法則
アインシュタインが予想した閉じた球状宇宙を考えたとき、前のセクションで前提とした領域Bの外のガリレイ型空間はその存在の根拠がうすい。領域Bを惑星程度の大きさならば近似的に成立するのだが、宇宙全体を大局的にとらえた領域としてBを考えると成立しない。すなわちそれをとりまくガリレイ型空間は直交空間であることから、一般相対性理論によってそこに物質は存在してはならず、完全に真空でなければならないからだ。
領域Bを前提としない方法で彼は宇宙を「準球状の閉じた宇宙」という条件のもと、運動量やエネルギーが保存することを3ページに渡る計算によって示した。ここで「準球状」の「準」というのは物質が不均一に分布し、なんらかの運動をしている場合という意味合いだ。
その結果閉じた宇宙全体に対しては、その全運動量は0となり、その全エネルギーの値は時間が経っても不変であること、そしてそれらは基準となる座標系の選び方に無関係であることを証明することができた。
§4 球状宇宙のエネルギー
さらにアインシュタインは宇宙全体のエネルギー保存則をより具体的な形で調べてみた。つまり、球状宇宙の中に互いに干渉しあわない物質(すなわち無数に多くの独立な質点の集合)が一様に分布している場合について計算した。無数の質点とは宇宙の中の恒星のことだと考えてよい。
2ページ渡る計算の結果、このような静的宇宙の全エネルギーが求められ、重力場は宇宙の全エネルギーになんら寄与しないことが求められた。
§5 孤立系の重力質量
このセクションでアインシュタインは全宇宙の重さ(重力質量)を計算してみせた。
§2で提案したガリレイ型空間の中にはめこまれた物理系について再考する。このような物理系における領域Bにおいて、静止エネルギーE0に4元速度を掛けたものは1つの4元ベクトルとしてローレンツ変換によって変換される。その結果この物理系においてエネルギーとみなされる量は慣性質量の役目を果たしている。
このセクションではこの物理系の全エネルギーとみなされる量は、全系の重力質量とも一致することを示すのが目的だ。アインシュタインは座標系の原点のまわりに1つの物理系が存在するとする。この物理系は全体として眺めれば座標系に対して静止しているものとする。このような物理系は重力場をそのまわりに生み出す。けれども空間的な無限遠点ではこの重量場はいくらでも高い精度で質点によって作られた重力場と同じふるまいをすると考えてよい。
無限遠点での計量の成分g(4,4)の値を物理系の重力質量Mを用いた方程式でアインシュタインは示した。さらに全宇宙の場の方程式、全宇宙を含む無限に大きな2次元的閉曲面Sを数式で表現し、計算を進めると物理系の重力質量Mは静止質量E0に一致することが求められる。
関連リンク:
アインシュタイン選集(1)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/26d6fc929bf7b9f0fc1e2a210882f559
アインシュタイン選集(2):読みはじめた
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/d3d0869ab3911e84845b5b121bd1aa3e
時空の幾何学:特殊および一般相対論の数学的基礎
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ffc643a688ce45dec7460d107fe1392e
少年の頃の夢(の続き)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/a6e4b9271cd56b2e85c3bdaa0b8b7cae
趣味で相対論
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/90aa60383b600ff4e4fd7bea6589deaa
とね書店:
アインシュタイン選集(1)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030192/503-5691539-3879144
アインシュタイン選集(2)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030206/503-5691539-3879144
アインシュタイン選集(3)
https://amazon.co.jp/&tonejiten-22/dp/4320030214/503-5691539-3879144
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