とね日記

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はじめての〈超ひも理論〉:川合光

2012年05月26日 15時45分15秒 | 物理学、数学
はじめての〈超ひも理論〉:川合光

この本はとにかく読みやすい!高校生でも読むことができる一般書だ。これなら最後まで理解できそうだという安心感があるのがいい。出版されたのは2005年である。

著者は有名な量子力学の教科書を執筆された京大の川合光先生だ。先生ご自身も超ひも理論の研究者であり、1984年には行列模型による「格子ゲージ理論」で仁科賞を受賞、超ひも理論では「タイプII B」での定式化(数式で書き表すこと)に成功されている。

序章で紹介される「宇宙創生のイメージ」では宇宙の誕生から現在のような宇宙になるまでの歴史を示し、素粒子などの極微の世界を研究することが宇宙の誕生の様子を知る手がかりになることが解説される。私たちが別個のものと理解している4つの力は宇宙誕生のときにはそれぞれ区別のつかない1つの力であることが現代物理学で予想されているが、まだ解明されていないことがいくつもある。そのすべてを解決し「セオリー・オブ・エブリシング=万物の理論」として近年さかんに研究されているのが「超ひも理論」である。超ひも理論は超弦理論、スーパーストリング理論とも呼ばれることがある。

第1章は「超ひもと素粒子」というテーマ。
加速器のエネルギーをどんどん上げることによって、より小さい世界の粒子の様子が見えてくるというのが素粒子物理学の世界だ。現在までには陽子や中間子を構成するクオークの挙動まで理論的に解明され、宇宙の誕生時にクオークが「スープ状態」だったことが説明される。さて、その先にもっと小さな世界はあるのだろうか?量子論による理論的な限界として「プランク長さ」、「プランク時間」というさらにずっと小さな限界がある。その世界ではアインシュタインの4次元時空の曲率も無限大になるので私たちの認識できる時空すら存在できない。その極微の世界の先に「超ひも」が存在することが紹介される。

第2章は「超ひもと「力」の根源」。
物理学史に沿いながら、標準模型、統一理論、大統一理論という枠組みの中で「力の統一」とはどういうものであるかが解説される。ニュートンやアインシュタインの重力、電磁力、弱い力、強い力の4つの力のことだ。それらの力が統一されていく過程をたどりながら、その背後に数学であらわされる「直観的な幾何学で理解できる対称性」や「直観では理解しにくいゲージ理論という考え方にもとづくゲージ対称性」、「超対称性」などが説明される。そして「対称性の自発的な破れ」が力の統一の理解に重要な役割を果たしていることが示される。

第3章は「超ひもと時間の秘密」
時間はどのように始まったかを解説している章だ。序章の「宇宙創生の図」を元にし、インフレーション宇宙論と超ひも理論の関係、宇宙誕生時の虚時間との関係が示される。これ以上分割のできないほど小さい時空の起源の中に超ひもが住んでいることが紹介される。

第4章は「超ひも理論の歴史」
この章からやっと超ひも理論本体の解説が始まる。1960年代の南部先生のひも理論がどのように超ひも理論として1984年にシュワルツによって発表されたか、超ひも理論の10次元時空やそのうちの6次元のコンパクト化についての説明。そして摂動論の限界によって超ひも理論ブームの第1期が停滞していった状況が解説される。

第5章は「超ひも理論を解くマトリクス」
1995年に超ひも理論は第2期のブームを迎える。ポルチンスキーによるDブレーンの発見だ。D0~D9で示される0次元から9次元の膜の存在が示され、超ひもはその膜にくっついたり離れたり、膜の上で振動したりする理論である。またウィッテンによるM理論(11次元の超ひも理論)も紹介される。そしてそれらの超ひも理論を支えるのは行列であらわされる非可換幾何学である。著者の川合先生などの研究者によって考えだされた「IKKT行列モデル」によって10次元の超ひも理論空間から4次元時空を導き出す試みが行われていることが紹介される。

付録は「私たちは50回目の宇宙に住んでいる?」
川合先生らが考案した「新サイクリック宇宙論」の紹介だ。インフレーション宇宙論で紹介される宇宙創生の前に、何度も宇宙が創生、消滅を繰り返していたという仮説のことである。このサイクリック宇宙論は温度の上限であるハゲドン温度とハッブル定数の上限で予想した法則とTデュアリティという超ひも理論の性質を論拠として考えだされた理論である。


このように要約すると難しいと感じるかもしれないが、川合先生の巧みな解説の技量のおかげでとても読みやすい本に仕上がっている。一般読者には馴染みのない物理学や数学の専門用語はその都度日常的な事例を引き合いに出しながら簡潔明瞭に説明されているからで、さらに「なぜ、そのようなことを考えているのか?」ということを常に意識させるように話の展開が工夫されているからだ。

本書はたかだか270ページほどの新書版である。超ひも理論が生まれるに至った経緯と超ひも理論自体の概要を、コンパクトにまとめてしまったので物足りないという読者もいることだろう。6次元の「カラビ-ヤウ空間」についてはほんの少し紹介されただけだし、「素粒子論のランドスケープ:大栗博司」で取り上げられていたトポロジカルな超弦理論、重力のホログラフィー理論については全く触れられていない。僕にとっては超ひも理論についてもっと詳しく知りたいという欲求をかきたてる一冊であった。

なお、本書の第5章で紹介されている「10次元の超ひも理論空間から4次元時空を導き出す試み」は2011年12月に、ひとつの成果が出たようである。以下に紹介する「関連ページ」をご覧いただきたい。ただし、この計算で導き出された3次元宇宙は「計量」が異なるので私たちの住む3次元宇宙空間とは別の宇宙空間であることを、知り合いの方から先日教えていただいたのでご注意いただきたい。「計量」とは時空の曲率をあらわす尺度のことで4次元時空の場合は4x4の行列で表現される。本書の第5章で「4次元時空」と書かれ、関連ページで「3次元宇宙」となっているのは時間の1次元を含めて考えているかいないかの違いである。


関連ページ:

KEKら、超弦理論を活用して10次元宇宙から3次元宇宙が誕生する仕組みを解明
http://news.mynavi.jp/news/2011/12/22/073/index.html
http://www.kek.jp/ja/NewsRoom/Release/20111222093000/

はじめての〈超ひも理論〉:川合光
出版社による本書の紹介ページ
http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=1498134

物理学、数学の動画: 相対性理論、量子論、電磁気学、超ひも理論など
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/381f2242143b9804e25c95a948c8758f


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はじめての〈超ひも理論〉:川合光


まえがき

序章:「超ひも理論」で何がわかるか
宇宙創成のイメージ/「4つの力」が統一できる/宇宙の謎が解ける/セオリー・オブ・エブリシング/超ひも理論を解く数学原理

第1章:超ひもと素粒子
「超ひも」とは何か?/空間と時間をとことん細かく見ていくと/超ひもの「長さ」までさかのぼる/エネルギーの単位/超ひものエネルギー/超ひもを解くハゲドン温度/超ひもの真空/クオークの不思議/クオークのスープ/はじめて質量を獲得したクオーク/ヒグスメカニズム/素粒子の誕生/超ひもの誕生/超ひもは実在する/超ひも理論で現れた「Tデュアリティ」
[コラム]1 プランクの長さ・時間・エネルギー

第2章:超ひもと「力」の根源
超ひも理論と超対称性/ニュートンの重力、アインシュタインの重力/電磁力/弱い力/強い力/ゲージ理論とは?/ゲージ対称性の自発的な破れ/真空が相転移を起こすとき/電磁力と弱い力の統一/量子色力学/大統一理論を検証するには/「くりこみ理論」と超ひも理論/4つの力が交わるとき/超対称的場の理論とは?
[コラム]2 アインシュタイン方程式のツボだけを知ろう

第3章:超ひもと時間の秘密
超ひもを訪ねるビッグバンの旅/宇宙誕生から最初の3分間/インフレーション理論とは?/エネルギーのただ食いで宇宙は大きくなった/アインシュタインの宇宙項/超ひもの幾何学/湯川秀樹と「素領域」/宇宙のタネと虚時間/ニュートンの時間、アインシュタインの時間/熱力学時間の矢/時間の起源に超ひもが住む
[コラム]3 「プランク時計」があったなら

第4章:超ひも理論の歴史
20世紀の物理学史を概観する/ハドロンのひもモデル/南部-後藤アクション/南部が解いた「ハドロンの謎」/謎の粒子グラビトン/超ひも理論登場前夜/超ひも理論の功績/10次元宇宙とは?/6次元のコンパクト化/「摂動論」の限界
[コラム]4 「コペンハーゲン解釈」と「多世界解釈」

第5章:超ひも理論を解くマトリクス
Dブレーンの発見/M理論/真空の重ね合わせができた!/ブレーンワールド/超ひも理論を行列で解く/非可換幾何学とは?/ハイゼンベルクの行列/IKKTモデル/超ひも理論でブラックホールの蒸発の謎を解く/超ひも理論で私たちの住む4次元時空を導き出す/完成までのあと一歩
[コラム]5 「2人の父」シュワルツとウイッテン

付録:私たちは50回目の宇宙に住んでいる?
新サイクリック宇宙論/膨張か収縮か、それとも定常宇宙か/ビッグクランチはどのように起こるか/宇宙のエントロピー問題/前世代の宇宙に地球はなかった
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2 コメント

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文字化け (hirota)
2012-05-27 11:40:12
Macで見てると
「タイプ�B」での定式化
の「�」が文字化けで見えないけど、IとかIIですかね?
返信する
Re: 文字化け (とね)
2012-05-27 18:45:26
hirotaさん

文字化けの連絡ありがとうございました。
はい、「II」です。
スマートフォンで表示させても文字化けしていましたのでローマ数字表記をやめて英文字も「I」を2つの表記に修正しておきました。
返信する

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