とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

量子のからみあう宇宙: アミール・D・アクゼル

2007年08月26日 18時44分09秒 | テレポーテーション
量子のからみあう宇宙:アミール・D・アクゼル

内容
相対論とならび、現代科学最大の成果といわれる量子論。その根本に確率論的な性質をはらむこの理論をアインシュタインは生涯認めず、量子論の限界を暴こうとさまざまな思考実験を考案した。そして、量子論が正しければこんなパラドックスが生じるとして、1つの粒子が、まるごと1つの宇宙をへだてた別の粒子に瞬時に影響を及ぼすという「ありえない」現象を考えだした。結局この論争は量子論陣営の曖昧な勝利に終わったが、この現象こそ、のちに「量子のからみあい」として注目されるものだった。アイルランドの天才物理学者ジョン・ベルによって決定的な定理が1964年に発表されたことで、「量子のからみあい」が現実のものか否かを確かめようとする気運は急速にたかまっていく。そして数多の現実的な困難をクリアして考案された、巧妙な実験がくだした結論は、量子論とアインシュタインのどちらに与したのか…!?量子テレポーテーションや量子暗号などの先端技術を可能にし、量子論の奇妙さの中核をなす「量子のからみあい」とは何か?量子論をめぐり「もつれあう」天才物理学者たちの人間模様を映しつつ活写するポピュラー・サイエンス。
2004年8月刊行、266ページ。

著者について
アミール・D・アクゼル
カリフォルニア大学バークレー校にて数学を専攻。オレゴン大学で統計学の博士号を取得。数理科学を主題としたポピュラー・サイエンスを主に書く。


量子力学(2)朝永振一郎」を3分の2ほど読み進めたところだが、こう暑くては気力が続かない。。。

同じ「量子モノ」でもっと読みやすい「量子のからみあう宇宙」を読んでみた。ほとんど数式はでてこないし、一般書であるにもかかわらず「量子のからみあい」をテーマに量子力学の歴史を可能な限り正確に解説している本だ。似たような本で「テレポーテーション 瞬間移動の夢」という本もあったが、こちらは文体、内容ともにいささかセンセーショナルすぎたので僕の好みではなかった。(さらっと立ち読みで済ませた。)後日追記:「テレポーテーションは実現している。(リンク集)」を参照。

「量子のからみあい」というのは同時に発生する2つの光子などの量子が、空間をへだてても「からみあって」同じ状態を維持するという不思議な現象だ。(量子は光子だけでなく電子をはじめあらゆる微小の素粒子である。)片方の量子でおきる状態の変化は何億光年離れていても瞬間的にもうひとつの量子の状態を引き起こす。2つの離れたところにある量子はあたかも1つの粒子として存在しているのだ。

量子力学では現実の感覚では理解できない不思議な現象が数多く理論的に証明されている。

1)量子には波動性と粒子性が共存していること

2)物理的な状態が同時に無限の数だけ重ねあった状態で量子が存在していること

3)1つの量子は同時に複数の位置に存在していること

4)1つの量子が2つの地点間を移動するとき1本の道筋(経路)のようなものは存在しないこと。

5)量子の運動量と位置、エネルギーと時間を同時に正確に知ることは不可能であるとする不確定性原理

6)マイナスのエネルギーや反物質などの存在を予言し、それらが実験によって検証されたこと

7)真空から電子と陽電子が生成することを予言し、実験によって検証されたこと

8)現在における観測方法の選択が過去の状態に影響を与える(つまり現在の行動が過去に影響を与えること)


そしてこの「量子のからみあい」も不思議さから言えば群を抜いているといえよう。つまりこれはテレポーテーション(物質の瞬間移動)を可能とする基礎理論だからである。

ふつう量子力学の専門書や一般書では1900年からせいぜい1940年頃までの物理的な発見について書かれているものがほとんどだ。しかし量子力学はそれで完結したわけではなく、現代でもなお研究の途上にある。

アインシュタインは最後まで「神はサイコロを振らない」として、量子力学に疑問を持ち続けてこの世を去った。亡くなる前に発表した有名な「EPRパラドックスについての論文」で瞬間的な、つまり光の速度を超えるような量子の情報伝達はあり得ないという難問題を後世の物理学者に残した。1940年までに研究された量子力学は理論としての正しさを証明できないままだった。ただ、それが予測するミクロの現象があまりに正確であったため、おそらく正しいのだろうという状況がそれ以降もずっと続いたわけだ。

アインシュタインの死後30年たった1964年にジョン・ベルという物理学者が「ベルの不等式」によって、アインシュタインの言うように物理的な作用は光速を超えて伝わらないという説が正しいかそれとも量子力学が示すように「からみあい」によって瞬間的に伝わるという説が正しいかが判断できるという理論をつくりあげた。(ベル自身はアインシュタインが正しいと思っていたらしい。)

その後、1970年代、80年代にかけて数々の物理学者が「ベルの不等式」を実際の実験で検証しようと努力を重ね、最終的に量子論に軍配が上がったのだ。量子力学の理論としての正しさが実験で証明されたのだ。実験は工夫されて段々と精度が上がっていった。そして1997年に「量子のからみあい」を利用したテレポーテーションの実験が成功した。タイムマシンはまだ実現していないがテレポーテーションはすでに現実の技術である。この本を読めばどのようにテレポーテーションがどのようにして行われるかが数式を使わずにわかるのだ。

この「量子のからみあう宇宙」では量子力学のはじまりから、最近の理論に至るまで、数々の科学者がこの「からみあい」にどのように取り組んできたかをていねいにかつ正確に解説している。特に「ベルの不等式」以降の研究を詳しく知ることのできる一般書は数少ないので貴重な一冊だと思う。

ちなみに「からみあい」は英語で「entanglement」という。

最後にテレポーテーションについてのページを4つ紹介しておく。

テレポーテーションのしくみについてのページ2つ。

http://www.m-nomura.com/st/qteleport.html

http://www.gem.hi-ho.ne.jp/katsu-san/sf/telepotation.html

テレポーテーション実験に成功したことを伝えるニュース記事2つ。

http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20011001302.html

http://hotwired.goo.ne.jp/news/20040618301.html

今回読んだ「量子のからみあう宇宙」の目次は以下のとおり。

第1章:「絡み合い」という謎の力
第2章:量子論前史
第3章:トーマス・ヤングの実験
第4章:プランクの定数
第5章:コペンハーゲン学派
第6章:ド・ブロイのパイロット波
第7章:シュレーディンガーの方程式
第8章:ハイゼンベルクの顕微鏡
第9章:ホイーラーの猫
第10章:ハンガリー人数学者 フォン・ノイマン
第11章:アインシュタイン登場
第12章:ボームとアハラノフ
第13章:ジョン・ベルの定理
第14章:クローザー、ホーン、シモニーの夢
第15章:アラン・アスペ
第16章:レーザーガン
第17章:三つの粒子の絡み合い
第18章:10キロ実験
第19章:テレポーテーション
第20章:量子の魔術

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2 コメント

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ベルの不等式と言えば、 (アマサイ)
2007-08-27 14:34:16
こんにちは。またまたお久しぶりです。
本書は買って半分ほど読んで放置してます。私にとっては興味深いのですが、途中で他のに浮気してしまいました。また、読み返してみようと思います。
(何に浮気したのか思い出せませんが)
ところで、mixiの竹内コミュの副管理人になりました。管理人の針切りボーイさんと共に盛り上げていく所存です。
あちらの方でも宜しくお願いいたします。
返信する
Re: ベルの不等式と言えば、 (とね)
2007-08-27 19:30:50
アマサイさん

コメントありがとうございます。

> 途中で他のに浮気してしまいました。

よほど他に面白そうな本が見つかったのですね。どの本でしょうねぇ~??

> mixiの竹内コミュの副管理人になりました。

副管理人就任おめでとうございます。がんばってください!

アマサイさんのブログは頻繁に更新されていて内容も深いので、いつも感心しています。(僕はテレビを見る時間が長すぎるのかなぁ。。。)

返信する

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