とね日記

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複素関数論:保江邦夫

2010年05月10日 21時53分51秒 | 物理学、数学
複素関数論:保江邦夫

ゴールデンウィーク前に「ヒルベルト空間論:保江邦夫」というレア本を購入できたことがきっかけで、僕はそのまま保江先生のこの「数理物理学方法序説」というシリーズを全部読むことになった。今回で本編としては最後の8冊目の紹介だ。

日本評論社のHPでは「複素平面上にルベーグ測度を簡潔に導入するところから出発し、その上で定義される解析関数の基本的な性質を解説する。実数直線上の関数に比べて圧倒的な美しさを持つ複素関数の世界が広がる。」と紹介されている。

つまり本書の最初の3分の1は測度論、2変数ルベーグ積分、超関数の入門書となり後半の3分の2がごく標準的な複素関数論への入門書となっている。複素数はRxRなので2実変数の長方形の測度やルベーグ積分になる。後半の複素関数論の展開のところで複素関数の測度論とルベーグ積分が活かされているかと思っていたのだがそうではなかった。ごく標準的な複素関数論の説明だと思った。

保江先生も「おわりに」で書いていらっしゃるように複素関数論については(ページ数の制約から)等角写像、保型関数、射影変換、超幾何微分方程式やそのモノドロミー表現といった魅力的な話題を割愛せざるを得なかった。僕としては「等角写像」はぜひ含めるべきだと思ったのだが。

このように一般的には見られないルベーグ積分入門に紙数を割いているため、読者によっては「看板に偽りがある。」と思われる方もいるかもしれない。ルベーグ積分への入門書も兼ねていると好意的にとらえることができれば良書なのだ。読者によって本書の評価は大きく分かれるだろう。僕自身は後者の立場をとっているが。

ルベーグ積分にせよ複素関数にせよ、僕はすでに学習済みなのですらすらと読めた。そのぶんワクワク感はなかったわけだが。。。全体的な理解度もほぼ100パーセント。ただ、どちらの分野についても本書よりもわかりやすい書き方をしている他の本があるので、本書が特に優れているわけではない。

唯一、保江先生らしい記述は最終章の「可換多元体への誘い」にある。天文学の恩師である菊池定衛門先生がお書きになった「高階複素数論」を紹介している。標準的な複素関数論では見ることができない高度な内容なので興味深く読むことができた。

ネット上の無料教材でルベーグ積分を学んでみたい方には以下をお勧めする。

ときわ台学:ルベーグ積分入門
(とてもわかりやすいので、特にお勧め。)
http://www.f-denshi.com/000TokiwaJPN/16lebeg/000lebrg.html

ルベーグ積分入門(PDF):吉川敦
http://www7b.biglobe.ne.jp/~yoshikawa/lebesgue-lecture.pdf

複素関数論のネット教材はこれらがよいだろう。

ときわ台学:複素関数論入門
http://www.f-denshi.com/000TokiwaJPN/12cmplx/000cmplx.html

複素関数論入門(横田 壽)
http://next1.msi.sk.shibaura-it.ac.jp/MULTIMEDIA/complex/complex.html


さて、次はこの本を読むことにしよう。このシリーズの別冊として出された本だ

物理数学における微分方程式:保江邦夫



今日紹介したのはこちらの本。

複素関数論:保江邦夫


目次

1章 長方形の面積とルベーグ測度
2章 ルベーグ測度の性質
3章 可測関数と単関数近似
4章 ルベーグ積分
5章 微分と原始関数
6章 偏微分と多重積分
7章 2乗可積分関数のヒルベルト空間
8章 超関数
9章 複素平面とジョルダン閉曲線
10章 複素微分
11章 複素積分
12章 羃級数と初等関数
13章 解析関数
14章 積分定理
15章 ローラン展開
16章 留数定理
17章 調和関数
18章 可換多元体への誘い


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
う~ん。。。 (kazuaki)
2010-06-29 04:04:43
とねさん、お久しぶりです。kazuakiです。

最近立ち寄った古本屋でこの本を見かけたので、とねさんの記事を思い出して手に入れてみました。

一読したのですが、とても悩ましい書物ですね。。。。

率直に言うと最後の可換多元体の章は誤りです。

反例は非常に簡単で、複素数{a+bi|a,bは実数,iは虚数単位}を含む集合Yを、Y={y=a+bi+cj|a,b,cは実数,iは虚数単位,1,i,jは実数体上線型独立、かつyは可換体を成す}と定義します。

すると、集合Yは本書で言う、高階複素数(実3次元)になりますが、実はこのような集合は存在しないのです。なぜなら、j~2(jの二乗)を考えると、j~2はYに属します(Yは体ですので)。するとYの定義よりj~2=s+ti+uj(s,t,uは実数)と一意に表わされなければなりません。ところが、この式はjについて複素係数の二次方程式ですから解くことができて、jが複素数で表わされてしまいます。これは、jがYの基底であることに矛盾します。

もっと言うと、実数体上有限次元の可換で結合的な多元体は実数体と複素数体に限られるということが19世紀には証明されています(フロベニウスの定理)。

さらに、函数解析学を用いて次の非常に強い定理も証明されます(証明は「作用素代数入門」にあると思います)。

定理[Gelfand-Mazur]:複素数体上の(可換性も有限次元性も仮定しない)多元体がBanach空間(ノルムが入って完備)でもあるならば、それは複素数体に同型である。

即ち、本書の18章に述べられているような考えで複素数を高次元化して函数論を行うことは「不可能」なのです。

著者やその恩師の方の努力を貶める気は毛頭ありません。だけど「学問は厳しい。。。」と思うのです。長文でスミマセン。
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Re: う~ん。。。 (とね)
2010-06-29 10:59:48
kazuakiさん

お久しぶりです。とても詳しいご説明をいただきありがとうございました。

深く理解されている方にはこの本の「粗」が目につくわけですね。

訂正内容をここに書いていただいたことで、この本で勉強している人に有益なことだと思います。

僕自身は理解がそこまで及ばず、書いてあることを鵜呑みにしてしまうレベルですけれども。。。

蒸し暑い日が続きますが、没頭できることを見つけて少しでも気分よく生活したいと思います。
返信する
まずかったですね。。。 (kazuaki)
2010-06-30 04:29:39
とねさん、こんにちは

人様のブログで、気に入っている書物をかさにかかって長々と批判したのは無礼でした。とねさんと私とで数学の知識・理解に差など無いのです。あるとすれば興味を持つ分野の違いだけでしょう。お気を悪くされたのなら謝罪致します。ごめんなさい。

本書の「はじめに」にある著者の口調についムッとして筆がすべってしまいました。反省します。
返信する
Re: まずかったですね。。。 (とね)
2010-07-04 07:09:36
kazuakiさん

こんにちは。コメントいただいたのに気がつくのが遅くなり、失礼しました。

いえいえ、僕は全然気を悪くしてませんよ!(笑)本当にそうなんですから。

というより、僕の場合短い時間でこの類の本を学んでいるので、どうしても読みが浅くなってしまいます。数学書に限らずある特定の本についての感じ方は人それぞれですから、kazuakiさんのような方にコメントいただくと「へぇ、そういう考え方もできるんだ。」と僕には新鮮にうつります。

ま、ときどき本の趣旨や僕の書いた記事を理解されずに批判コメントをいただくことがありますが、kazuakiさんはきっちり理解されていますし、そういう批判コメントとは明らかに「質」が違います。(質が高いという意味です。)

これからも、ご遠慮なさらずにコメントいただけるとうれしいです。
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