とね日記

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量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

相対論的解析力学というのは。。。

2012年02月26日 01時49分22秒 | 理科復活プロジェクト


相対論的解析力学。ほとんど聞いたことがない分野だと思った。

相対性理論+解析力学のことだということはわかるが、この分野について解説した教科書やサイトは僕にはほとんど見つからない。

ニュートン力学に変分原理を導入して古典力学の法則を一般化した集大成が解析力学だし、解析力学で学ぶラグランジアンハミルトニアンを使ったエレガントな解き方で、古典力学の複雑な問題が魔法のように解けてしまう。

解析力学の威力はそれだけでなく、古典力学から量子論へ至る道筋も明らかにしていることだ。その道筋を知るには「解析力学(久保謙一著、裳華房)」という薄い入門書がお勧めである。解析力学の魅力は以下に示すように、物理学のさまざまな分野(領域)において成り立っているその普遍性にある。

物理法則が美しい形に一般化されるというのは、自然現象の奥に潜むより深くて本質的な法則があり、それが目に見えないところから自然現象を支配しているということだ。

物理学のどの分野であれ、理論体系や法則が正しいのであれば、その分野の法則は他の分野の法則と矛盾することなく成り立っているはずだ。もともと宇宙や自然はひとつなのだから、科学者たちが発見してきた数々の法則はどれも宇宙全体を支配している「万物の理論」の部分的な側面を表しした「見かけの法則」である。ニュートン力学が相対性理論に対してそうであるように一方の法則がもう一方に対して「近似的な法則」になっているようなケースもある。分野ごとに体系や法則があるのは、もともと1つしかない自然の法則を人間が各分野に分けて研究しているからだ。

たとえば、特殊相対性理論と量子力学の両方を満たす「相対論的量子力学」という分野は成立する。実際この理論はディラックによって提唱され、電子の反粒子である陽電子の予想や発見につながった。

電磁気学と量子力学の組み合せについても同様で「量子電磁力学(QED)」という分野になる。ファインマンや朝永振一郎がノーベル物理学賞を受賞したのも「繰り込み理論」というこの分野でのこと。この分野は場の量子論や素粒子物理学に発展していった。

そこまで難しい物理学でなくても例は見つけられる。ニュートンの運動方程式に統計学(数学)を応用すれば、それは古典統計力学と呼ばれる枠組みになり、無数の原子や分子の運動をまとめて記述することが可能になる。無数の分子の運動によって気体の圧力や温度、理想気体の状態方程式、エントロピーなどが計算される。エントロピーは時間の矢、すなわち時間が過去から未来へ流れることと結びついているとされている物理量だ。熱力学で扱われるこれらの物理量がニュートンの運動方程式が元に計算されることを知ったとき、これはすごいと僕は思った。

さらに統計力学や熱力学に電磁気学(電磁輻射の理論)を加えて、鉄を溶かす溶鉱炉での実験結果(鉄の温度と発する光の波長の関係)と理論的な予測との間で矛盾が生じた。これを解決するためにプランクはエネルギーが量子として存在することを予測することができた。量子力学に至る道筋はここにも見つかる。

また、ニュートン力学に対して「(真空中で)光の速度は常に一定」というシンプルな法則を加えるだけで特殊相対性理論が得られる。すると時間と空間は別々に存在しているのではなく「時空」という4次元的なものとして存在することがわかるし、運動することによって空間は縮み、時間の進み方は遅くなることが予測できる。またE=mc^2 という式も導かれ、質量とエネルギーが転換可能であることや光子の質量がゼロであることがわかる。さらにアインシュタインは多数の光子の集団を「光子ガス」とみなし、気体としての光子に分子運動論を適用して光線に圧力があることを示した。光子の質量はゼロだが運動量はあるので、壁にぶつかったときに力積が生じるため壁に対して圧力がかかる。

物理学の分野の中でも解析力学は、他の分野の法則との結びつきが強い。ニュートン力学や天体力学から電磁気学、量子力学、場の量子論、素粒子物理学まで、あらゆる分野の体系を串刺しして成り立っているかのようだ。

解析学と電磁気学の組み合せについては前述の「解析力学(久保謙一著、裳華房)」の中の演習問題として電磁場のラグランジアンやハミルトニアンが導かれている。電磁場のラグランジアン密度をオイラー・ラグランジュ方程式を整理すると電磁気学の基礎方程式であるマクスウェル方程式が得られる。

そして解析力学と量子力学、場の量子論の組み合せについて知りたければ「量子力学を学ぶための解析力学入門: 高橋康著」や「量子場を学ぶための場の解析力学入門: 高橋康著」をお読みいただきたい。

ファインマンの経路積分の手法も元を正せばディラックの発案よるものであり、ラグランジアン(作用積分)を量子力学に適用することによって生まれた。解析力学+量子力学の組み合せである。

量子力学と統計力学を組み合わせた量子統計力学や量子統計物理学という分野からは超電導超流動の理論が導かれ、それらの現象が実在することが確認されている。

量子力学と光学を組み合わせた量子光学という分野から量子テレポーテーションの理論が生まれ、実際に原子のテレポーテーションの実験が成功したのは2004年のことである。(参照記事


さて、冒頭の話に戻るが、それでは相対性理論と解析力学の組み合せについてはどうだろう?「宇宙の法則は全体で1つ」という要請からこの2つも整合的に成り立っていることだろう。組み合せは2種類あるはずだ。

1)特殊相対性理論と解析力学の組み合せ
2)一般相対性理論(アインシュタインの重力場の理論)と解析力学の組み合せ

いろいろ探したところ、以下のようなものを見つけることができた。

まず、1番目の特殊相対性理論と解析力学の組み合せについてだが、これは通常「相対論的解析力学」と呼ばれているもののようだ。次のようなブログ記事が見つかった。

相対論的力学:Hamiltonの原理(美禰子の物理メモ)
http://d.hatena.ne.jp/astraysheep/20090814/1253540795

あとウィキペディアには次のような記事がある。

相対論的解析力学(ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%B9%E6%AE%8A%E7%9B%B8%E5%AF%BE%E6%80%A7%E7%90%86%E8%AB%96#.E7.9B.B8.E5.AF.BE.E8.AB.96.E7.9A.84.E8.A7.A3.E6.9E.90.E5.8A.9B.E5.AD.A6

山本義隆先生と中村孔一先生による有名な解析力学の名著の2巻目「解析力学 II(朝倉物理学大系)」の中、まさに最終章「相対論的力学」の最終項で「相対論的解析力学」が解説されている。この部分の記述は10ページ。

解析力学 I:山本義隆、中村孔一
解析力学 II:山本義隆、中村孔一

 

2番目の「一般相対論的解析力学」についてはどうだろう?一般相対性理論を導入することで解析力学はどのように書き換えられるのだろうか?

そもそもアインシュタインはハミルトンの変分原理を使って一般相対性理論を導く論文も発表しているので解析力学は一般相対論に対しても成立しているはずだ。最近、T_NAKAさんも「変分原理からアインシュタイン方程式の導出」というテーマで連載記事をお書きになっている。

これについても探してみたのだが、日本語のページや教科書はなかなか見つからない。

まず英語で書かれた次のPDFファイルを見つけた。「Analytical Mechanics General Relativity」というキーワードでヒットしたものだ。

Formulation of analytical mechanics in general relativity (by Marco Modugno, 1974)
http://archive.numdam.org/ARCHIVE/AIHPA/AIHPA_1974__21_2/AIHPA_1974__21_2_147_0/AIHPA_1974__21_2_147_0.pdf


中身を見ても僕にはさっぱり理解できない。これが正しいのかどうかも判断つかないが、こういう資料があるのだということで今日は納得しておこう。

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2012年2月26日に追記
読者の方からコメントを通じて教えてもらったのだが、「一般ゲージ場論序説:内山龍雄」の中の「不変変分論」で紹介されている内容が、僕が探していることかもしれないという気がしてきた。一般ゲージ場論とは、重力場まで含めたゲージ理論のことである。ゲージ理論の解析力学を学ぶには「ゲージ理論の解析力学:菅野礼司」という本があるそうだ。

さらに調べたところ「一般相対性理論(物理学選書15):内山龍雄」の第5章「不変変分論」および第10章「重力場の理論の正準形式」の記述が僕が探している一般相対論的解析力学のことだということがわかった。該当箇所の項目は次のとおりだ。

第5章:不変変分論
- 作用積分を不変にする変分
- Netherの第1定理
- Netherの第2定理
- 第2定理の応用例(ゲージ変換、一般座標変換)
- 重力場のエネルギー・運動量

第10章:重力場の理論の正準形式
- 場の理論の正準形式の概説
- 重力場の正準変数
- 束縛条件、Hamiltonian
- 束縛条件の間の無矛盾性
- 座標条件
- Poisson括弧の修正
- 弱い重力場の正準理論
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最後にことわっておくが、組み合わせる前の物理学のそれぞれの分野については、EMANさんのサイトで学ぶのがよいと思う。

EMANの物理学
http://eman-physics.net/


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20 コメント

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Unknown (内山先生)
2012-02-26 11:38:58
内山先生の一般相対性理論の本は変分原理を使っていろいろ議論されていますよ。伏見先生の弟子だそうで、この方が日本に初めて、変分原理を持ち込んだそうです。それで内山先生のゲージ場の発見へ繋がったんだと勝手に推測しています。amazonで一般ゲージ場論序説の書評など参照になります。
返信する
ありがとうございました。 (とね)
2012-02-26 12:34:36
アドバイスいただきありがとうございます。

内山先生の「一般相対性理論 (物理学選書 15)」はすでに持っていまして、この中の第5章が「不変変分論」にあてられています。「一般ゲージ場序説」のレビュー記事には「第2編「不変変分論」(pp.66-108)は、同著者の『一般相対性理論 (物理学選書 15)』第5章「不変変分論」をより詳しくしたような内容である。」と書かれていました。より参考になりそうです。

ご紹介いただいた「一般ゲージ場序説」は変分論や解析力学のこととは関係ない観点で以前から気になっていたのですが値段が高いのが多いので購入には至っていませんでした。でも今日確認したところ3500円の安いのがありましたので、さっそく注文しました。

それにしても、「一般ゲージ場序説」のアマゾンのレビュー「相対論と不変変分論から一般ゲージ場論へ」はとても参考になりますね。コピー&ペーストして自分のブログ記事に貼り付けたくなるほど詳しく書かれています。
返信する
Unknown (hirota)
2012-02-28 13:10:13
僕が相対論の勉強に使った「場の古典論」では初めからラグランジアンの作用変分で相対論を導いてますから、相対論と解析力学が別でありうるなんて考えたこともなかった。
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hirotaさんへ (とね)
2012-02-28 14:29:21
hirotaさん

ランダウの「場の古典論」では常識となっていることなのですね。ちなみに僕はこの通称「バコテン」はまだ入手していません。今後取り組みたいと思っています。教えていただきありがとうございました。

場の古典論(増訂新版) 電磁気学、特殊および一般相対性理論 <目次>
http://landau.exblog.jp/193250/
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歴史的観点では (T_NAKA)
2012-02-29 09:56:03
>アインシュタインはハミルトンの変分原理を使って一般相対性理論を導いている

というのは正しくないかも知れません。
多分、変分原理を使ったのはヒルベルトだと思いますが、確かな証拠なり文献を示すことは出来ないので、私の勘違いかも知れませんが。。
返信する
Re: 歴史的観点では (とね)
2012-02-29 11:20:23
T_NAKAさん

大栗博司先生の「重力のふしぎ」講座でもアインシュタインがヒルベルトのところに行って相談し、その後重力場の方程式の解くのは4日の差でヒルベルトが勝ったということを紹介されていました。しかし一般相対性理論のほとんどはアインシュタインが考案したのでヒルベルトはその功績アインシュタインのものだと認めたそうです。

アインシュタインが変分原理を使ったというのは「アインシュタイン選集(2)」のほうに掲載されているのを見つけました。

そして、この論文の冒頭にアインシュタイン自身によって「最近、ローレンツおよびヒルバート(ヒルベルトのことですね)は、一般相対性理論の方程式を変分原理から導くことによって、一般相対性理論を見透しのよいものにした。これと同じことが、ここに紹介する論文でもこれから行われる。」ということが書かれています。

T_NAKAさんがおっしゃるように歴史的にはヒルベルトのほうが先ですね。ご指摘いただき、ありがとうございました。

アインシュタイン選集(2): [A5]: ハミルトンの原理と一般相対性理論(1916年)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/ba6376df9ddb2ebf7f190309a2733161
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Unknown (T_NAKA)
2012-02-29 15:32:42
アインシュタインは一般相対論について数多くの論文を書いており、例に挙げられた論文のみがアインシュタインの一般相対論の論文ではないでしょう。私が言いたかったのは、変分原理でなくては重力場の方程式が導出できないことはないんじゃないか?という疑問です。

重力場の方程式の先取権についてはいまでも色々議論があります。

http://teenaka.at.webry.info/201001/article_25.html
http://james.3zoku.com/kojintekina.com/monthly/monthly81213.html
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T_NAKAさんへ (とね)
2012-02-29 15:48:23
はい、例にあげたのは一例にすぎません。アインシュタイン選集(2)をはじめ、日本語に翻訳されていなものを含めれば数多く一般相対論についての論文がアインシュタインによって書かれています。

変分原理を使わない重力場の導出についてはこの本の[A3]の論文が該当すると思います。

先取件について書かれている興味深いページを紹介いただきありがとうございました。
返信する
解析力学 (サンマヤ)
2012-03-02 07:12:33
こちらでは初めまして。
hirotaさんのコメントに近いのですが、
解析力学って、分野というより物理学の指導原理みたいな感じで、
解析力学に乗らないものは物理の資格がない、ってぐらいな認識でした。
ディラックの一般相対論の教科書にしろ、最近の須藤靖の教科書にしろ、
変分原理からも導けるということは必ず触れていると思います。
その中でも、ランダウの「場の古典論」は変分原理との関係に関する議論として最もいい教科書かも知れません。
特殊相対論レベルでは、ランダウの小教程(ちくま学芸文庫)の「力学・場の理論」もコンパクトでいいです。
ちょっと面白いところでは、ファインマンの「ファインマン講義・重力の理論」は、重力場の方程式を出す前に重力子のスピンが2になることを導いて、
それから変分原理を用いてアインシュタイン方程式に到達するという論法になっていました。
何が言いたいかというと、○○+解析力学っていう立て方自体に違和感を覚えるってことですね。
むしろ、解析力学の「方法」は物理の普遍的な方法であって、
そのうえでいろいろな理論が組み立てられる、という感じかと思います。
これは場の量子論とかにいくともっとあからさまです。
適当なラグランジアン(ローレンツ・スカラー)をもってきて、それがどういう物理を導くか計算していく、
というイメージでしょうか。
それに比べれば、一般相対論の作用は、まだ物理的な考察から関数形が設定されているだけ納得しやすい気がします。
ただ、歴史的に、どうやって「ニュートンの力学」から解析力学を含む「ニュートン力学」になったのか、
いつから解析力学がそのような指導的な地位を持つようになったのか、
ということについては、まだまだ未解明なところが多く、科学史的に面白い領域だと思います。
そういう問題関心があったので、ちょっと(だいぶ長文になってしまいましたが)コメントさせていただきました。

PS.ヒルベルト・アインシュタインの先取権に関する資料は知りませんでした。面白かったです。T_NAKAさんありがとうございます。
返信する
Re: 解析力学 (とね)
2012-03-02 22:06:50
サンマヤさん

長文のコメントで教えていただき、ありがとうございました。

「○○+解析力学」という立て方を普通はしないわけでしたか。どうりで「~的解析力学」では検索にひっかかってこなかったわけですね。
「物理学の指導原理」ということですっきり理解しました。とはいってもニュートン力学の一般化から生まれたこの指導原理が物理学のあらゆる分野(側面)であてはまることには不思議さを感じます。

「ファインマン講義・重力の理論」は持っていますので後で見てみます。
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