とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

時間の物理学―その非対称性 (1979年) 

2009年12月12日 11時13分13秒 | 物理学、数学

時間の物理学: P.C.W.デイビス著(戸田盛和、田中裕 共訳)
(英語版: The Physics of Time Asymmetry by P.C.W Davis)

神保町の明倫館書店でふと手にとった1冊。時間の非対称性をテーマに解説したユニークな本だ。有名な本であるようにも思えなかったのだが、このテーマについては関心が強かったので購入してみた。ファインマン物理学第4巻を訳された戸田盛和先生ともう一人、田中裕という先生の共訳なのでハズレということはないだろうという気持ちもあった。出版されたのは1979年。帰宅してアマゾンで調べたところ既に絶版で、人気がある本なのかどうかよくわからなかったが。まぁ、自分で楽しく読めれば人気はどうでもよい。表紙カバーの裏扉による説明は次のとおり。

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日常生活の中で考え感じている時間は、今という瞬間を境に過去から未来へと流れる不可逆的な時間である。一方、物理学の基礎方程式は過去と未来とを取り替えてもなんら矛盾を生じない対称性がある。この食い違いはどのようにしたら融合できるのであろうか。
本書は、バランスのとれた見識と幅広く参照した文献を駆使して、この興味ある問題に取り組んでいる。すなわちこれまでの熱力学、統計力学、電磁気学、量子論、宇宙論などいろいろな分野で取りあげられてきた散らばった問題を一つにまとめ、その用語を統一し、同一の主題のもとに眺めた詳しい解説がなされている。
内容の公平さ、素材の豊かさ、問題の今日性など将来の研究への示唆に富み、大学教養程度の知識を身につけた読者にとっては「時間の問題」の優れた案内書であり、研究者にとっては魅力的な読み物としてユニークな本である。
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全体的に文章で書かれている部分が8割を占める。数式については丁寧に展開している箇所もあるが、必要最低限のものを書いているだけなので、各章のそれぞれの分野をひととおり入門書で学習してからでないと理解できないだろう。僕の場合は「宇宙論」に馴染みがないのでこれにあたる第4章がきつかった。あと量子論についての章で、量子電磁気学における時間の対称性と非対称性を説明している箇所もついていけなかった。つまり、その他の大部分の章はなんとか理解できたわけだ。

肝心なのは面白いかどうかというところだ。著者のデイビスという先生は非常に多くの科学論文を参照して1冊の本にまとめあげたのだが、どうもこれが「あだ」になったように思えた。戸田先生も訳者序文で書かれているのだが「著者は多くの研究に対して公平になろうとしすぎているためか、もっと著者の意見だけを述べてほしいと思うところや、説明が長すぎてかえってわかりにくいところ、翻訳しにくいというところもあった。」と述べている。教科書でも一般啓蒙書でもない本書が読者を惹きつけるのには成功していないというのが僕の感想だ。

そもそも「大学教養程度の知識を身につけた読者」を前提にしているが、本書を読むためには熱力学、統計力学、電磁気学、量子力学、宇宙論の教科書にはひととおり学習しておかなければならないのでハードルが若干高めである。アマゾンに読者レビューが投稿されていないことや、「復刊ドットコム」に登録されていないのもそういう理由からなのだと思った。ちなみに英語版をAmazon.comで調べてみたが、こちらも絶版のようで読者レビューも投稿されていなかった。しかしその後、このデイビスという著者は精力的に一般向け啓蒙書を出版され、そこそこ人気があることがわかった。(Amazon.comでこの著者の書籍を検索

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2016年4月に追記:

乱雑さを決める時間の対称性を発見
-100年前の物理と数学の融合が築くミクロとマクロの架け橋-
http://www.riken.jp/pr/press/2016/20160427_2/
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時間の物理学: P.C.W.デイビス著(戸田盛和、田中裕 共訳):目次

はじめに

第1章:時間とは何か
- 第4次元としての時間
- ニュートン時間
- 時計の進度と固有時間
- 宇宙時間
- 物理的に見た時間非対称
- 構造的非対称の性質 -- 時間反転の不変性

第2章:熱力学と統計力学
- 熱力学の第2法則
- 気体の分子運動論
- H定理
- 統計力学
- 一般化されたH(上にバー)定理
- エントロピーの意味

第3章:可逆性反論
- 孤立系の対称性
- 再び一般化されたH(上にバー)定理について
- 統計的解釈による単一系H定理
- 分岐系を通じての時間非対称
- 外界の影響

第4章:熱力学と宇宙論
- 非対称の最終的源泉
- 現代宇宙論の基礎
- ハッブル則と地平
- 簡単なモデルの熱力学、可逆サイクル
- 星の光のエントロピー -- オルバースのパラドックス
- エントロピーと重力
- ビッグバン(初期大爆発)

第5章:電磁波
- 遅延場と先進場
- 有限系での波
- ミンコーフスキー空間での基礎電磁力学
- 先駆加速
- 輻射に対する境界条件
- 宇宙論(つづき)
- 輻射の吸収体理論
- 遠隔作用電磁力学
- 宇宙は透明か不透明か

第6章:量子力学の時間非対称
- 微視的可逆性の量子原理
- 量子統計力学
- 量子的観測理論
- 素粒子過程でのTの破れ
- タキオン
- 量子的遠隔作用電磁力学

第7章:終わりなき世界?
- 宇宙の熱死
- 定常宇宙論
- 振動宇宙
- 時間対称的宇宙論
- 閉じた時間
- 結論
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7 コメント

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時間の物理は楽しいな?! (アマサイ)
2009-12-12 16:37:38
ポール・デイビス(デイヴィス)の物理啓蒙書は結構翻訳されていて、日本でも有名だと思いますが。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/search-handle-url?%5Fencoding=UTF8&search-type=ss&index=books-jp&field-author=Paul%20Davies
このリストの他にあるかもしれません。
こういうネット書店では、翻訳が出ているか、原著がどれかすぐわかるようにしてもらえるといいなと思います。このようにカタカナ表記が違うと、またミドルネームを表記するか否かで別人物にされてしまうことがあります。それこそ、日本語Google検索でなんとかしてほしいです。

ご紹介の本ですが、見たことあるような、ないような
数年前まで時間の物理にはあまり興味なかったのですが、
>本書を読むためには熱力学、統計力学、電磁気学、量子力学、宇宙論の教科書にはひととおり学習して
ととねさんもおっしゃられているように、物理学を横断して勉強できる、という点で非常に魅力的です。取り敢えず啓蒙書を読んでからと思いつつ、
http://page-only-one.cocolog-nifty.com/imotora7/2007/02/post_3240.html
http://page-only-one.cocolog-nifty.com/imotora7/2007/01/__073f.html
止まっているのですが。
もう少し時間がとれるようになったら、専門ちっくな書籍にも挑戦したいと思います。
返信する
アマサイさんへ (とね)
2009-12-12 19:22:23
アマサイさんも時間論の本を何冊かお読みになっているのですね。今回僕が読んだ本は「量子論、相対論、統計力学。おっと、そこんとこよく知りたいんだが、ここで終わりかい!」という感じではなかったです。「そこまで」はきっちり「いろいろな仮説」が数式付きで説明されていました。もちろん「時間の矢」がどうして一方向なのかという最終的な理由付けに到達しているわけではありませんけど。

「そこまで」はよかったのですが、最後のほうでは宇宙論ベースの話に発散してしまって「これじゃ、どうにでも考えられてしまうわい!」というのが僕的には不満が残りました。ですので途中までは楽しく読めましたよ。

ポール・デイビスさんの本はたくさん邦訳されていたのですね!アマサイさんの貼ってくださったリンクをクリックしたら僕は「タイムマシンをつくろう!」を読んでいましたね!(^v^)/
本の写真付きで記事を書いていました。
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3bd95ee4c5123cf48d142b72cff4f1eb

アマサイさんのおっしゃるとおり、アマゾンの表記もちゃんとしてほしいですよね!著者名の表記もそうですが、書名にも誤字が見受けられます。「組識」とか「シュミレーション」というキーワードで検索したらいくつかヒットしてました。(笑)
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過去のとねさん (ひゃま)
2018-03-23 10:50:32
こんにちは

最近こればっかり、考えているんですけど、時間は非対称で、むしろ物質がその時間に沿って不変に時間結晶化するという考えはどうでしょうか?

まあ、空間にスリットが入れれるなら、時間方向にもスリット的な波束を収縮される機能があると発想を逆転させれば、すべてが自然に説明できるような



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Re: 過去のとねさん (とね)
2018-03-23 12:21:35
ひゃまさん

> 物質がその時間に沿って不変に時間結晶化する

つまり、このようなことですよね。周期はこれよりずっと短いスケールになると思いますが。

「時間結晶??」実験成功 (筑波大などのグループ)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/0995e255cb790d53fbbaa1e67f0d6238
返信する
非対称性の時間結晶 (ひゃま)
2018-03-23 12:30:46
ということは、「時間結晶」とはそれを破る物体、時間的にムラのある物体のはずです。それはどういうものでしょうか? 「時間の対称性があるにもかかわらず、ずっと振動を続ける物質」ということになります。しかし、実はこのような物質の形態が存在しないことは、東京大学の押川氏、渡辺氏によって結論付けられています。しかし、この証明には時間の「離散対称性」を破る結晶(時間結晶)については反論されていなかったのです。
http://tocana.jp/2017/06/post_13349_entry_2.html

対称性ありきで、時間結晶はないというのは、正しいと考えますが、そもそも非対称な時間が流れていれば、逆に物質が時間結晶になり不変なのでは?

という意見です。
返信する
Re: 非対称性の時間結晶 (とね)
2018-03-24 00:15:01
ひゃまさん

> 実はこのような物質の形態が存在しないことは、東京大学の押川氏、渡辺氏によって結論付けられています。しかし、この証明には時間の「離散対称性」を破る結晶(時間結晶)については反論されていなかったのです。

そのようなことが証明、結論づけることができるとはすごいことですね。

> そもそも非対称な時間が流れていれば、逆に物質が時間結晶になり不変なのでは?

そのあたり、僕にはよくわかりません。



返信する
渡辺 悠樹さん (ひゃま)
2018-03-24 05:38:08
この渡辺 悠樹さんってローレンツ対称性が前提になかったらなんて考え持ってるHotな学者さんなんです。

時間結晶 (time crystal) は存在するか
https://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/docs/tayori56-3_Part4.pdf#search=%27%E6%99%82%E9%96%93%E7%B5%90%E6%99%B6%27

対称性の自発的な破れの統一理論 -南部陽一郎以来の50年間の謎を解明-
https://www.ipmu.jp/ja/node/1322
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