とね日記

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2022年 ノーベル物理学賞はアスペ博士、クラウザー博士、ツァイリンガー博士に決定!

2022年10月04日 23時31分57秒 | 物理学、数学


スウェーデンの王立科学アカデミーは4日、2022年のノーベル物理学賞を、複雑な物理系の理解への画期的な貢献に対してエコール・ポリテクニークのアラン・アスペ、カリフォルニア大学バークレー校のジョン・クラウザー、ウィーン大学のアントン・ツァイリンガーら欧米の3人に授与すると発表した。


授賞式は(とね日記賞の発表と同じ)12月10日に開かれる。3氏には合計1000万スウェーデンクローナ(90万2315ドル)の賞金が贈られる。

The Nobel Prize in Physics 2022
https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2022/summary/

Announcement of the Nobel Prize in Physics 2022



今年は「量子もつれ(量子エンタングルメント)、ベルの不等式の破れの検証、量子情報科学の開拓」における業績が評価されたことによる授賞である。

量子とは物質を構成する原子や光子などの極微の粒子で、日常の感覚とはかけ離れた不思議な振る舞いをする。3氏の業績で、量子には「もつれ」と呼ばれる特殊な現象が起きることが実証された。

量子もつれは、2つの量子が離れた場所にいても同じ振る舞いをする現象。もつれの性質を制御する技術は、高速大規模計算が可能とされる量子コンピューターや、盗聴が原理的に不可能で安全な次世代通信の実現に欠かせない。3氏は量子技術革命の礎を築いた。

大学の物理学科レベルで理解できる量子力学の基礎理論の検証が受賞したのは珍しいと思う。物理学科の教養課程で教えられるほど基礎的で、その後の量子物理学、量子技術に与えた影響が大きく、今後さらに発展していく可能性があるということを意味している。一見奇妙に思える量子力学の正当性を検証した実験を成功させた功績は人類に大きな恩恵をもたらすものである。


発表では次のようなスライドが映された。

彼(神)はサイコロを振らないと私は確信している。今の時点での量子力学は不完全だ→EPRパラドックス


いや違う。量子力学が真実のすべてだ。


現代版のEPRパラドックスの実験


ベルの不等式:量子力学のすべての実験で、局所的な隠れた変数の理論は否定される


クラウザー:CHSH不等式の実験(ベルの不等式の数あるバージョンのひとつ)


アスペ:アスペの実験


アスペ:量子力学、量子もつれが正しいことが確認された。(1982年)


シュレディンガー:量子もつれはあり得ないというつもりで「猫の話」を提示したのだけど。。


ツァイリンガー:もつれの交換(エンタングルメントのスワップ)を利用した光子のテレポーテーション実験(1997年)、2組のもつれた光子を使い、もつれた3つの光子を作る
注意:日本では古澤明博士の1998年の実験が光子のテレポーテーションの世界初の実験だとされている。


2018年、7600キロメートルの距離で量子テレポーテーションの実験が成功


このような量子技術の基礎が検証されたことで、量子暗号や量子コンピュータが実現された



発表のタイミングで公開されたプレスリリースを和訳したものを載せておこう。

プレスリリース(英語):
https://www.nobelprize.org/uploads/2022/10/press-physicsprize2022.pdf
https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2022/summary/

日本語訳:

2022年ノーベル物理学賞

アラン・アスペ、エコール・ポリテクニーク、フランス

ジョン・クラウザー、J.F. Clauser & Assoc., Walnut Creek, CA, USA、アメリカ

アントン・ツァイリンガー、ウィーン大学、オーストリア

“光子のもつれの実験、ベルの不等式の破れの確証、量子情報科学の開拓に対して”授賞する。


もつれ状態 - 理論から技術へ

アラン・アスペ、ジョン・クラウザー、アントン・ツァイリンガーはそれぞれ、2つの粒子が離れていても 1 つのユニットのように振る舞う量子もつれ状態を利用した画期的な実験を行いました。彼らの結果は、量子情報に基づく新しい技術への道を切り開きました。

筆舌に尽くし難い量子力学の効果は、数々の応用例を見つけ始めています。現在、量子コンピューター、量子ネットワーク、安全な量子暗号化通信を含む大きな研究分野として実現しています。

この発展の重要な要因の1つは、量子力学が2つ以上の粒子をいわゆるエンタングル状態(もつれた状態)で存在させる方法です。もつれたペアの粒子の一方の粒子に何が起こるかによって、遠く離れていても、もう一方の粒子に何が起こるかが決まります。

長い間、もつれたペアの粒子に相関関係があるかどうかという疑問がありました。そしてこの疑問を解決するために隠れた変数、つまり実験でどの結果が得られるべきかを示す指標となる変数が含まれているだろうと考えられていました。1960年代、ジョン・スチュワート・ベルは彼にちなんで名付けられた数学的不等式を考案しました。これは、隠れた変数がある場合、複数の測定結果間の相関関係が特定の値を超えることは決してないことを示しています。ただし、量子力学は、特定の種類の実験がベルの不等式を破ることを予測しているため、そうでない場合よりも強い相関が得られます。

ジョン・クラウザーはジョン・ベルのアイデアを発展させ、実用的な実験に至りました。彼が測定を行ったとき、ベルの不等式に明らかに違反したことにより、量子力学が支持されました。これは、量子力学を隠れた変数を使用する理論に置き換えることができないことを意味します。

ジョン・クラウザーの実験の後、いくつかの抜け穴が残っていました。 アラン・アスペはセットアップを開発し、重要な抜け穴を塞ぐ方法でそれを使用しました。彼はもつれたペアがソースを離れた後に測定設定を切り替えることに成功し、それらが放出されたときに存在していた設定は結果に影響を与えなくてすむようになりました。

洗練されたツールと一連の長い実験を使用して、アントン・ザイリンガーは量子もつれ状態を使い始めました。とりわけ、彼の研究グループは、量子テレポーテーションと呼ばれる現象を実証しました。これにより、量子状態をある粒子から離れた別の粒子に移動させることが可能になります。

“新しい種類の量子技術が出現していることがますます明らかになっています。もつれ状態に関する受賞者3名の研究は、量子力学の解釈に関する基本的な問題を超えて、非常に重要であることがわかります。”ノーベル物理学委員会の委員長である Anders Irbäck はこのように述べました。


イラスト

以下のイラストは非営利目的である限り無料で使用できます。著作権はスウェーデン王立科学アカデミー、Johan Jamestadに帰属します。

イラスト:エンタングルメント、もつれ(pdf
イラスト:人が見ていないとき色は存在するのか?(pdf
イラスト:けして出会うことがないもつれた2つの粒子(pdf
イラスト:ベルの不等式の実験(pdf


アスペ博士、クラウザー博士、ツァイリンガー博士、物理学賞受賞おめでとうございます。

記念講演はこの動画で見ることができる。(2022年12月に追記)

2022 Nobel Prize lectures in physics: YouTubeで再生


2022年ノーベル賞授賞式、セレモニーの様子はここからご覧いただける。(2022年12月に追記)

2022 Nobel Prize award ceremony: YouTubeで再生



関連書籍:

講談社ブルーバックスだと、まずこの本がお勧めだ。209−227ページあたりに量子もつれ(からみあい、エンタングルメント)などが解説されている。

ゼロから学ぶ量子力学 普及版:竹内薫」(Kindle版



この分野における日本での第一人者は古澤明教授だ。今年の物理学賞は実験系だから、古澤先生の著書を紹介しておきたい。

「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた!:古澤明」(Kindle版)(紹介記事
量子もつれとは何か:古澤明」(Kindle版)(紹介記事
量子テレポーテーション:古澤明」(Kindle版)(紹介記事
  


あと量子もつれ現象を技術的に応用したものとして、量子コンピュータが実現しているのだが、ブルーバックス本では以下の本がお勧めである。

量子コンピュータ、量子アルゴリズムを学びたい高校生のために
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/1b2940b648bda682aa27192eb8261972

量子コンピュータ―超並列計算のからくり: 竹内繁樹
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/3134f481301d0f6e7ed8b80c9fd99260

IBM Quantum Experienceのご紹介(日本語音声):量子の重ね合わせ、量子もつれを実演している。(必見)


IBM Quantum(ここから個人でも無料で量子コンピュータを試すことができる。)
https://quantum-computing.ibm.com/


量子テレポーテーションの研究と技術開発の歴史を知りたい方は、以下の記事をお読みいただきたい。

テレポーテーションは実現している。(リンク集)
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/cc0bc7e88d02231138f8b6a9f5859c93

以下の本もお勧めである。今回受賞した3名の物理学者の業績を詳しく知ることができる本だ。

量子革命―アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突:マンジット・クマール」(文庫版)(紹介記事
量子のからみあう宇宙:アミール・D・アクゼル」(紹介記事
 

テレポーテーション 瞬間移動の夢: デヴィッド・ダーリング」(紹介記事



ネットで学ぶ:

東大研究チームが発表!この世界は『量子もつれ』により"投影"された映像


『実際の写真』で量子もつれ実験を解説します


数式なしでもしっかり学ぶ量子力学
量子力学の基本から最近話題の「量子コンピュータ」や「量子テレポーテーション」について解説しました。


エンタングルメントで理解する量子の世界(解説ページ


『大学で量子力学を学んだけれどエンタングルメントとかベルの不等式については知らないという人が「ベルの不等式の破れ」について知るための約70分(倍速で35分)の講義』 田崎晴明
https://www.gakushuin.ac.jp/~881791/mgr/2020_qm3/Bell.html


関連記事:

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