「高校数学でわかるシュレディンガー方程式:竹内淳」(Kindle版)
内容紹介:
シュレディンガー方程式をなっとくして、ほんとうに理解できる!
最もわかりやすいシュレディンガー方程式の入門書
高校数学レベルの知識さえあれば、量子力学の最も重要な方程式 あのシュレディンガー方程式に到達できる!シュレディンガー方程式を理解しなければ、ほんとうに量子力学を理解したことにはならないのだ。『高校数学でわかるマクスウェル方程式』の著者による待望の1冊。
2005年3月刊行、208ページ。
著者略歴:
竹内淳:ホームページ: http://www.f.waseda.jp/atacke/
1960年徳島県生まれ。1985年大阪大学基礎工学研究科博士前期課程修了。理学博士。富士通研究所研究員、マックス・プランク固体研究所客員研究員などを経て、1997年早稲田大学理工学部助教授、2002年より教授。専門は、半導体物理学。
理数系書籍のレビュー記事は本書で305冊目。
本書は3年以上前に読んだのだが紹介記事を書くのを忘れてしまっていた。「最初に読んだ理数系書籍200冊」でも数え落としていたので、今さらだがレビュー記事を書いておこう。
本書は竹内淳先生の「高校数学でわかる~シリーズ」の2冊目。2005年に刊行された。
電子や光子など素粒子の世界、ミクロの世界の物理法則は私たちが日常生活で経験しているマクロの世界の物理法則とは全く違う。それは粒子性と波動性の共存、二重スリットの実験や不確定性原理など常識では理解しにくい摩訶不思議な世界である。このように不思議な性質をもつ粒子のことを「量子」と呼ぶことにしたわけだが、結局あらゆる素粒子は量子だということになる。
人類がこの不思議な世界の存在にようやく気が付いたのは1920年代。プランクやアインシュタイン、ド・ブロイ、ハイゼンベルク、シュレディンガー、ボーア、ボルンらの研究によって徐々に明らかにされていった。この世界を構成する空間や時間、そしてエネルギーは無限に分割して小さくできるわけではなく、分割できるサイズには「プランク定数」と名付けた数であらわされる「小ささの限界」があることがまず発見された。(アインシュタインは量子論の生みの親のひとりであるが、その後この理論のあまりの奇妙さゆえに「神はサイコロを振らない。」と言って、量子論は不完全な理論であるという立場に転じ、1955年に亡くなるまでその信念を変えることはなかった。)
そして次にその不思議な世界を基礎づける方程式が、ハイゼンベルクとシュレディンガーによって別々に発見され、2つの方程式はそれぞれ量子の波動性と粒子性をあらわしていることが明らかになった。
ハイゼンベルクの行列力学の方程式 (1925年:ウィキペディアの記事)
シュレーディンガー方程式 (1926年:ウィキペディアの記事)
物理学者たちを驚かせたのはそれらの方程式に虚数iがあらわれていたことだ。大きさの概念がない、つまり大小関係をもたない数がなぜ物理の方程式に含まれているのか?(参考記事:「虚数や複素数に大小がないのはなぜ?」、「虚数は私たちの世界観を変えてしまった。」)
不思議な世界だからこそ、量子論や量子力学は魅力にあふれた分野なのだ。SFではない科学として知っておきたい、理解してみたいという欲求が知的好奇心をかきたてる。
とはいえ高校で数学や物理を学んでいない人が読めるのは、数式が書かれていない科学教養書だけである。やさしい本から難しい本までいろいろな本が出版されているが、僕がお勧めできる本を「量子論、量子力学の科学教養書」にまとめておいた。これらの本を読めば、量子の不思議な世界をひととおり「知る」ことができる。
しかし科学教養書で得られることはそこまでだ。なぜ不思議な世界がそのようになっているか?という、より深い理解を求めるためには、数式を使って学ぶしかないのである。大学の物理の教科書を読める人はごく限られているから、たいていの一般読者にはハードルが高すぎる。
でも「大学の教科書は無理だけど、高校の数学ならなんとかなるし、虚数やオイラーの公式も知っているよ。」というレベルの人は少なからずいると思うのだ。
「高校数学でわかるシュレディンガー方程式:竹内淳」(Kindle版)はそのような読者を想定して書かれた。難しそうに見えるシュレディンガーの方程式も著者の竹内先生の手にかかれば物語を読むような感じで理解できるようになる。虚数やオイラーの公式がなぜシュレディンガーの方程式を導くために必要なのかがわかってくるのだ。
本書は数式を使ってシュレディンガーの方程式や量子力学を学ぶことができる入門書や教科書の中では、現時点でいちばんやさしい本である。(2017年7月に追記:その後「12歳の少年が書いた 量子力学の教科書: 近藤龍一」が刊行された。シュレディンガー方程式だけでなく、量子力学のもっと広い内容を含んでいる。ただし、いくつか誤った記述、数式があるようなので注意いただきたい。)
第1部でシュレディンガー方程式を導くのが目標だ。量子論が発見された歴史的背景、初期の量子論の発展史、理論に必要な複素関数や微積分の解説を行った後に、シュレディンガー方程式を導く。そして「ハイゼンベルクの不確定性原理」がシュレディンガー方程式から導けることも確認する。この原理は未来が不確定であることの理由のひとつでもあるのだ。(参考記事:「鉛筆はどれくらいの時間立っていられるか?」)
第2部では量子論によって明らかになった原子の姿が解説される。原子核の周りの電子の分布はとびとびになっていることを高校物理で学ぶが、量子論によってそのからくりが理解できるようになる。
そして第3部ではシュレディンガー方程式の解き方が2つのやり方(数式を使って筆算で解く方法とExcelを使って数値的に解く方法)で解説される。シュレディンガー方程式を使って解析的に解くのは井戸型ポテンシャルにおける「量子トンネル効果」という不思議な現象だ。次に同じ問題をExcelを使って数値的に解く。また量子井戸に外から電場がかかったときに、どのように状況が変化するかも数値的な計算方法と結果が提示されている。
量子トンネル効果
1920年代に誕生した量子論、量子力学は長い間「仮説」のまま研究が進んだ。最終的にその正しさが検証されたのは1982年に行われた「アスペの実験」によってである。この実験のことは「量子コンピュータ入門:宮野健次郎、古澤明」という本に詳しく載っているので、興味のある方はお読みになるとよい。
ミクロの世界の不思議がどのようにしてシュレディンガー方程式から説明されるのか?量子の世界のからくりを数式で理解できたと実感したとき、きっとあなたは物理学をもっと学んでみたいという気持にとらわれていることだろう。
なお、本書は電子書籍でも読むことができるが「固定レイアウト」なのでタブレット端末でお読みになるのがよい。スマートフォンだとかなり読みづらいので注意していただきたい。
正誤表や第3部で取り上げられている数値計算用のExcelファイルは竹内先生による「サポートページ」に掲載されている。
「高校数学でわかるシリーズ」の書籍版はこちらから。
http://astore.amazon.co.jp/tonejiten-22?_encoding=UTF8&node=70
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以下は本書を読み終えた後、お読みになるとよい。読みやすくて得るものが多い本、ワクワクできる本をピックアップしておいた。
「シュレーディンガーの猫」のパラドックスが解けた!:古澤明
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量子もつれとは何か:古澤明
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量子テレポーテーション:古澤明
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Excelで学ぶ量子力学―量子の世界を覗き見る確率力学入門:保江邦夫
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趣味で量子力学:広江克彦
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よくわかる量子力学:前野昌弘
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「高校数学でわかるシュレディンガー方程式:竹内淳」(Kindle版)
第1部 シュレディンガー方程式への旅
1 量子力学の誕生
- 量子力学で扱う対象は?
- 量子力学の夜明け
- 溶鉱炉の温度をどうやって測るのか?
- プランクの提案
- アインシュタインの登場
- 光は波なのか、それとも粒子なのか?
- 光子の運動量
- hからhバーへ
- 電子も波である
- 光子計数器(フォトンカウンター)による観測
- 電子の二重スリットの実験
2 波を表す式
- マイナスxマイナス
- 波を表すのに便利な虚数
- オイラーの公式
- 波の絶対値の2乗
- 波動関数
- 簡単な微分
3 シュレディンガー方程式
- シュレディンガー方程式を導く
- 時間に依存するシュレディンガー方程式
- 物理量の求め方
- ブラケット表示
- 可換な演算子
- 不確定性関係
- パルスの秘密
- フーリエ変換
4 波動関数とは
- 時間に依存しないシュレディンガー方程式の解の形
- 規格化条件
- 電子のエネルギーを求める
- 波動関数の直交性
- 方程式発見までのシュレディンガー
第2部 原子の姿
1 波としての電子
- 電子の発見者トムソンの原子モデル
- 散乱
- ラザフォード-長岡モデルの矛盾
- 原子のモデルの複雑化
- シュレディンガーのインド哲学
2 量子数とはなにか
- 水素原子
- 土星モデルによる磁気量子数の説明
- シュテルンとゲルラハの実験
- スピンの提案
- スピンの歳差運動
- スピン軌道相互作用
- パウリの排他原理
- フェルミ粒子とボース粒子
- 電子と光子
3 核と核分裂
- 質量と電荷の矛盾
- 原子核の中の力
- 同位原子
- 半減期
- 核分裂の発見
- 原子爆弾の開発
4 エレクトロニクスと量子力学
- 量子力学が実際に役立っている分野
- スピントロニクス
- 量子コンピューティング
- 量子力学の重要性
第3部 シュレディンガー方程式を解く――計算編
1 解析的に解く
- 紙とペンを使った解き方
2 数値的に解く
- コンピュータ(パソコン)を使って解く
- 数値計算の実際
3 外からの影響がある場合
- 外場がかかった場合
- 量子井戸に電場がかかった場合
- 定常状態での摂動論
- シュタルク効果の場合
- 時間に依存する摂動論
- おわりに
付録
- 波動関数の直交性
- 分散とは
あとがき
参考文献
さくいん