とね日記

理数系ネタ、パソコン、フランス語の話が中心。
量子テレポーテーションや超弦理論の理解を目指して勉強を続けています!

映画『インターステラー(2014)』

2017年10月07日 00時12分27秒 | 映画

今週の火曜日に発表されたノーベル物理学賞の受賞者のおひとり、キップ・ソーン博士が、科学者の視点から指揮をして制作されたSF映画『インターステラー』をAmazonビデオで見たので、感想を書いておこう。

2017年 ノーベル物理学賞はワイス博士、バリッシュ博士、ソーン博士に決定!
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/4f6e5823d5cf2358aff0aee5f855e9cf


ある程度ネタバレしないと書けないので、まだ見ていない人には申し訳ないが、ご容赦いただきたい。ネタバレを気にしない人、すでに見た方でもストーリーを思い出したい方は、このページであらすじを読むことができる。

「インターステラー」あらすじ・ネタバレ
http://1wordworld.blog26.fc2.com/blog-entry-685.html

登場人物:

クーパー(マシュー・マコノヒー):元NASAのテストパイロット。
トム(ケイシー・アフレック):クーパーの息子。
マーフ(ジェシカ・チャステイン):クーパーの娘。
ブランド教授(マイケル・ケイン):NASAの軍事施設で働き、クーパーに人類の移住先を探す計画への参加を依頼。
アメリア・ブランド(アン・ハサウェイ):クーパーとともに宇宙へ旅立つ船員。ブランド教授の娘。

映画のタイムライン



宇宙モノのSF映画、特にアメリカ映画は(スターウォーズを除けば)それほど好きではないので、ソーン博士が関わっていなかったら、きっと見ることはなかったと思う。人類滅亡の危機や解決が約束されたストーリー仕立ては、安っぽく思えてしまうからだ。「アルマゲドン(1998)」もそうだし、「ゼログラビティ(2013)」も同じこと。息をのむような映像以外に僕は楽しみを見いだせない。反面、こんなことは現実には絶対おきるはずはないので安心して見ていられるのも事実。

そのようなわけで、この映画にもそれほど期待していなかった。映像とソーン博士が関わった科学的な部分を楽しめれば十分だと思って見始めたのである。あと、映画マニアの友達が「この作品はとてもいいよ。」と教えてくれたのが後押しをしてくれた。


ところがである。この3時間の大作を見終えると、言いようもない暖かさと切なさに包まれた。SF作品でありながら、ヒューマンドラマとしてじわじわ引き込まれ、感情移入してしまう。

つまり、この作品の良さは「リアリティ」なのだ。物語の舞台は近未来の地球である。そこは環境破壊によって大規模な食糧難にみまわれ、地球はもはや人類が生存できない星になりつつあった。

しかし、近未来として映されるのはノスタルジックなアメリカの田舎の風景、古ぼけた家、そして現在私たちが使っているのと同じ家具や調度類。そして登場人物たちが着ているのは私たちと同じ服、乗っているのは現代と同じタイプのガソリン車なのだ。私たちがイメージする便利で快適な近未来とはかけ離れている。

だからそこは発展を止めてしまった世界なのだとわかるのである。環境破壊は私たちが日ごろ耳にしているから、もしかすると本当にそうなってしまうのかなぁと思わざるを得ないのだ。この寂しい未来の風景が映画を見る者にリアリティを突きつけ、その後の展開を自然な延長にしてしまう。


人類滅亡の危機を解決するため、他の惑星への移住計画のための調査が開始される。ロケットに乗って、他の銀河系というとてつもない彼方への旅が行われるのだ。そのために設定されたのがワームホールである。土星の近くにあらわれたワームホールを近道として使い、現実的にはあり得ない旅が行われる。

しかし、惑星探査は現実のものになっており、スペースXという民間企業が火星への移住計画を先月発表したばかりだ。SFはリアリティとなって、現実のものになりつつある。

米スペースX、壮大な火星移住計画を発表
2020年代に有人飛行、2060年代には100万人移住も
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/c/092900011/


ワームホールは宇宙空間にあいた巨大な通り道、近道であり、物理学上の仮説としてよく知られた存在だ。空間に「曲がる」という性質があるから成り立つ仮説である。(もちろん、現実にはまだ存在は確認されていない。)




そしてこの作品の科学的部分を理解する鍵になるのが、一般相対性理論(重力理論)である。1916年にアインシュタイン博士が発表した、次の方程式であらわされる理論だ。ソーン博士のご専門も一般相対性理論とブラックホールである。(ノーベル物理学賞の理由も、この理論が予言する重力波だ。)



物質が存在すると、その質量によって周囲の空間は縮む。空間が縮むと私たちはそれは重力として感じることになる。さらに空間が縮んだぶんはどこへ消えてしまったかというと、時間に移行してしまうのだ。つまり重力の強い場所では時間の進み方が遅くなるのである。

この方程式が意味するのは物質が空間と時間に与えるこのような現象である。ただし、その場所にいる人間には空間の縮みと時間の遅れは感じ取ることができない。


不運なことに、ワームホールの出口の近くには巨大ブラックホールがあった。ブラックホールの惑星系は大きな重力を受けている。到着した宇宙飛行士たちの時間は地球に残された人類より、はるかに遅く時間が進むのだ。

地球に残した子供たちが先に成長し、宇宙飛行士の父親に送ったビデオメッセージで、大人になった我が子を見て父親が涙するシーンが成り立つのはこのためである。そのまま地球に帰還すると浦島太郎のように娘のほうがお婆さんになっていることになる。実際、この現象は物理学で「ウラシマ効果」と呼ばれている。



相対性理論も含め、あらゆる物理法則は時間をさかのぼることを禁じている。娘や息子がいったん成長してしまったら、父親は地球に戻ったとしても、再び幼い我が子に会うことは不可能なのだ。過去へのタイムトラベルが不可能なことは、本作品でも守られている。しかし、切ないことには違いない。


惑星系に到着した後、ある事実がわかるのだが、これはネタバレになるので書かないでおくことにしよう。しかし、その事実により宇宙飛行士のパイロットは、地球に帰還しようと決意することになる。

そして帰還するためにブラックホールへ突入する。そこはなんと5次元の世界。意識を取り戻した宇宙飛行士は、多層に広がる本棚が周囲を囲んでいることに気が付く。それも地球にある自宅の本棚だ。(そのあたりが、少しわざとらしいと感じたが。)

本棚の隙間に見えたのが、地球に残した娘の姿である。時間が戻ったのだろうか?それとも幻想なのだろうか?しかし、娘は娘で誰かが本棚の向こう側にいることを感じている。タイムトラベルは禁止されているはずなのに、これはいったいどうなっているのだろうか?

つまり、宇宙飛行士はそもそも出発すべきではなかった。彼はそれを娘に伝えようと必死に考える。5次元空間に含まれる3次元空間にメッセージをどうやって伝えればよいのか?そのために使うのが「重力」なのである。重力を使って本棚の本をモールス信号のパターンで落としたり、時計の秒針をモールス信号のパターンで振動させるのだ。

ここで4次元空間ではなく5次元空間を設定したのがミソである。3次元空間は時間の次元を考えれば4次元となる。つまり、金太郎飴のように時間の経過とあわせて4次元は幾何学的な物体のようなものになる。

金太郎飴の場合、世界は顔がある切断面の2次元だ。そして飴が伸びている方向が時間の次元。これをひとつ次元が高い3次元から見ればどの時間の断面も切断すれば見ることができる。父親が子供時代の娘や成長した娘を5次元空間から同じタイミングで見れるのは、そのようなわけである。



さて、宇宙に出発しようとしている日の娘に対して、父親は重力を使ってメッセージを送ることができるだろうか?


現在の物理学では、重力が他の力(電磁気力や強い力、弱い力)に比べてとてつもなく小さい理由は、重力が高次元空間に漏れているからかもしれないと考えられている。スイスにあるCERNの素粒子加速器、LHCでもその現象を突き止めようと実験が行われている。これも作品に盛り込まれた「リアリティ」だ。

発売中の科学雑誌『Newton(ニュートン) 11月号』では「高次元を見つけ出せ」で、この現象や検出のための実験のことが解説されている。

Newton(ニュートン) 2017年 11 月号



このように重力がもつ、いくつもの物理現象を映画のストーリーに活かして、この作品の多面的な魅力を引き立たせている。「ゼログラビティ」をはるかに凌駕する「フルグラビティ」だ。


この作品に描かれている映像で、特に見逃してはならないのがCGで描いたブラックホールである。




ブラックホールに光が落ち込んでゆく際の重力レンズ効果やホール周辺を塵やガスなどが光速で飛行することで形成される「降着円盤(accretion disk)」の形状を一般相対性理論に基づいて計算した結果、これまでとは異なるブラックホールの形が求められ、作品に盛り込まれた。そしてさらにこの結果は、科学論文として公開されたのである。

映画『インターステラー』から生まれた最初の科学論文
https://wired.jp/2015/03/01/interstellar-real/

これまで考えられていたブラックホールのイメージはこのようなものだ。




ブラックホールの量子情報という言葉も使われている。科学的な意味合いは映画ではほとんど明らかにされていないが、父親のいる5次元空間から娘のいる3次元空間へ「留まれ(STAY)」という情報を伝えるために使ったモールス信号のことを指しているのだろうと思った。または、父親の身体を構成する原子の情報が、ブラックホールの中に入っても失われなず、身体はそのままの形を保っているということを意味するのかもしれない。


さて結末は。。。さすがにこれは書かないでおこう。ぜひご自身でご覧いただきたい。雰囲気だけでもという方は、予告編をどうぞ。












ビデオはこちらからお買い求めください。

インターステラー(DVD, Blu-ray)」(Amazonビデオ




関連書籍:

まず、映画の原案のなった本はこれだ。

ブラックホールと時空の歪み: キップ・S. ソーン
https://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/76795b03e7dc89cd08dac67dc25b73ab


映画のノベライズ本はこちら。

インターステラー (竹書房文庫)
Interstellar: The Official Movie Novelization」(Kindle版

 

「ムービースクリプト&ストーリーボード」の本はこちら。

Interstellar: The Complete Screenplay With Selected Storyboards」(Kindle版



キップ・ソーン博士が書いた「インターステラーに使われた科学理論」を解説した本も刊行されている。

The Science of Interstellar: Kip Thorne, Christopher Nolan」(Kindle版




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