話しことばの文型2
昭和38年3月
国立国語研究所
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表現意図とは,言語主体が文全体にこめるところの,いわゆる命令・質問・叙述・応答などの内容のことであるが,ここでは,社会習慣としての言語形式と対応をもつ表現意図に限定する。
表現意図に対応する社会習慣としての言語形式
構文とは文の構造であると考える。文の構造は,文がどのような部分から成り立っているか,また,それがどのような関係で結びついて全体(統一体)としての文を作っているかを見ることによって明らかにされると考える。
構文の型は,いろいろな文の構造からさらに抽象されたものである。
成分の組合せの類型
社会習慣としての言語形式との対応を持つ表現意図
独話における構文の型
文の部分としては,ふつう「主語」「述語」のような「文の成分」があげられている。
文の成分とは,文の中で果たしている機能によって一般化して得た文の部分の種類である。
構文の型は抽象的なものであるが,その抽象の段階にはさまざ
まなものがありうる。
○ケサ アサガオガ 咲キマシタ。
○庭デ アサガオガ 咲キマシタ。
はそれぞ
〔時間を蓑わす連用修飾語〕 〔主語〕 〔述語〕
〔空間を蓑わす連用修飾語〕 〔主語〕 〔述語〕
という講文の型に属する
〔連用修飾語〕〔主語〕〔述語〕
という一段と抽象的な型に属すると 65~66ページ
次のような成分を認めた。
述語・主語・目的語・補語・連絹漉・状況語・陳述的成分・独立語
こうした成分のほかに「従属句」という単位を認めた。
述藷(略号 Z)
述語は,文中で主語・いわゆる連用修飾語・独立語などと関係する文の成分である。述語になっている体言にかかる連体修飾語は,述語内部の二次成分と認める。
いわ@る付属の関係にある文節連続からなる述語があるが,ここでは,その範囲をややひろげて,次のような文節連続を述語と認めた。これを,仮に「複合述語」と呼ぶことにする。
(i)シテ イル(オル,イラヅシャル,オイデニ、ナル) ○~シテアル (ナイ,ゴザイマス ・シテ シマウ シテ オク シテ ミル ゴラソナサイ シテ クル÷:一(マイリマス シテ イク(マイリマス シヨウト スル’
(ii) シテ ヤル一(アゲル) シテ モラウ(イタダク シテ クレル(クダサル)
(iii) オVニ ナル ゴ~ニ ナル
(iv) デ アルー(オラレル,イラレル’,イラッシャル,ゴザイマス)<形容詞のウ音便の形〉ゴザイマス
(V) vシタリ スル一(イタシマス)
(vi)ONワケデスーva OtVハズデスーM ONツモリデスw O~ウダイデスーx一
(vii)ONカモ シレナイee ONカモ ワカラナイec一
(vii三)ONシテ ヨイ(イイ駕ヨロシイ) ONデ ョイ (イイ,ヨPシイ’x’) ○~
シテ ホシイW O~シテモ ヨイ(イイec一,ヨロシイ勤 ONシテモ 結構デ」kac
O~シテ コマルec’○~シテハ コマル赫 ○~シテハ ダメタ曙 ○~シテモ
ダメダ’va OA・スレパ ヨイ (イイ,ヨロシイ勤○~シナケレパヨイ&(イイ,
ヨロシイ)Ot…シタラ ヨイー「e(イイ ve,ヨPシイee) ○~スル5 ヨイ(イイte,
ヨロシイ勤 ○~スリャ イイ÷’○~シナケレパ ナラナイ静 (ナラン勤○~
シナキャ ナラナイー「e(ナラン勤OtVシナキャ イケナイ’;“○(・シテハ イケナ
イ苦 ○~シナケレパ イケナイSC一〇tVシナクテハ ナラナイ ○・’…シツツ アル
(x) ○~カ ドウカ
(xi)○~ニチガイナイ
主語(略号 S)
ここでは,便宜的に,F〈体言〉ガ」の示す関係で述語にかかっていると認められる成分を主語と認定した。実際には「〈体言〉ハ,モ,サエ…」などの形をとっていても,その表わす関係が「〈体言〉ガ」と岡じであると認められたものは,主語と認定した。いわ@る「総主」や蒔枝誠記のいう「趨象語」なども主語とみなした。
分類した構文の型は
独立語構文
述語構文
基準構文,付加構文
基準構文のなか 骨ぐみ構文,拡大構文,複合構文 98ページ
はしょり
述語講文は,いわゆる省略のあるものを除いて,多くのばあい,場面・文脈などを無視し,陳述的な面(陳述的変容,付加など)を無視しても,ことがら的な面が残って,ことがらとしての意味をなすものである。ところが,食堂などで発する「ボクハ ウナギダ。」「ボクハ キツネダ。」というような種類の文では,場面・文脈をはなれては,ことがらとしての意味はあいまいである。あるばあいには無意味であり,他のばあいには別の意味になる(I am an eelなど) この種の構文上の特徴を,かりに「はしょり」と呼ぶ。
注)はしょりと名づけたのは,この表現が「ボクハ ウナギヲ タベタイ。」「ボクハ
ウナギヲ 注文スル。」「ボクハ ウナギニ キメタ。」などの末尾の用言的な表現
をはしょった表現として起こるばあいが多いからである。ただし,ここではこうし
た構文の発生については問題としない。ただ,できあがった構文の特徴をこう名づ
けただけである。