先日ある用事で返信の葉書を出す必要があり、切手を購入しようとしてはたと困った。値段が分からない。元々よく知らない上に最近消費税の値上げもあった。いくらいくらの記念切手を何でもいいから1シート、そう注文したかったのだが、仕方なく窓口のお姉さんに「葉書って、今いくらですか」と問い合わせる仕儀となった。
「葉書って、今いくらですか」とはまるで高倉健の台詞のようだ。
山田洋次監督、高倉健主演の映画「幸せの黄色いハンカチ」にそういう場面があるのだ。行き掛かりで人を殺してしまい、長い刑期を終えて出所した主人公が始めに奥さんに連絡を取ろうとして郵便局で葉書を購入する。そのとき、窓口でまず葉書の値段を尋ねるのである。
なぜ電話で連絡しないのかって、そりゃ、奥さんが自分のことを許して、待ってくれているかも分からないので、だから葉書で出所したことを知らせ、もし今でも自分の帰りを待ってくれているのなら玄関に黄色いハンカチを掲げて欲しい、というシャイでデリケートな、そういう映画なのである。馬鹿は引っ込んでいて欲しい。
そして郵便局で葉書の値段を尋ねるのは、郵便料金がそれほどしばしば変わってきたということの証かも知れず、長い間服役していればその値段すら分からなくなるだろうし、あるいは服役している間外部から手紙を貰うことすらなかった主人公の孤独、それほど久しぶりに娑婆の空気を吸った開放感、手にじわっと重みを感じる生活感が回復したことの非常に抑制的な表現、などなど様々な解釈と妄想を呼び起こす味わい深い場面なのでもあった。
そんな台詞をまさか自分の口から吐くことになるなんて思わなかった。と言うか、正直お笑い種である。
件の葉書は実を言うと年金事務所に返信するものだった。手続きを請求する返信用の葉書は同封されていたものの、切手を貼ってくれと書いてある。こういうものは、今までなら料金別納にしたものじゃないのかと首を捻る。受給者に郵便切手を要求するとは、日本年金機構(あるいは社会保険庁)もせせこましくなったもので、種々の年金と受給者の総数を思えばこれはこれで結構なことなのかも知れないと思った。