底冷えの、長い一週間だった。
昨日、唯一最高気温が二桁になった金曜日。
朝はマイナス一度。日中は徐々に気温が上がり、久しぶりに青空が広がった。
前日、夫が探し当てた隣町の保育園。我が家のお雛様たちの、新居となるところ。
数年前、色々調べ、市役所やその他の施設に問い合わせたが、なかなか受け入れてくれる所がなく諦めていた。
43年前、長女の初節句に、実家の母が送ってくれた、七段かざりのお雛様。
田舎に嫁いでいなければ、当然こんな立派なお雛様を送る事など、無かったろう。
今は亡き母が、初孫に、そして田舎の長男に嫁いだ娘の為、随分高価な品物を買い送ってくれた。
43年経った今でも、色褪せることなく美しいお雛さま。
ただ、飾るのに時間がかかる。
雛壇を組み立てるのに、どれだけの時間がかかる事か。一人では至難の技。
義父が元気な頃は、良く手伝ってくれた。孫娘が喜ぶ顔と親戚や近所の人に見せたい為(笑)
やがて、娘たちはお雛様にあまり興味も示さない歳になり、飾る大仕事に私も意欲が失せ、お雛様は、ずっと二階の収納庫に置き去りに。
三年前、強い決意で、お雛様を飾った。
母が亡くなって三年後の春の事。
ただ段は組み立てず、テーブルを利用して、毛氈を敷き内裏雛、三人官女、五人囃子、右大臣左大臣、仕丁。
道具などは一部だけを飾るという。
それでも、心は晴れやかになった。
母が喜んでいるような気にもなった。
ただ…孫娘たちの反応はいまいち。
どうやら怖いらしい。端正な白い顔の美しいお雛様は、ちょっと恐ろしいらしい。
8畳の和室、明るい昼間はともかく、夜ともなるとその部屋の前の廊下さえ行きたくないらしい。(笑)
実は初孫(長女の子)の初節句、そして我が家に昨年、長滞在の小六の孫(次女の子)の初節句の時も頑張って雛壇を組み立て、三、四時間かけ、飾ったお雛様。
その時は、2階の長女が使っていた部屋に出したのだが、二人とも、あまり喜ぶ事もなかった。
やはり怖いらしい。2階の使っていない一番隅の部屋だから、と解釈して、三年前は階下の明るい部屋に飾ったのだが。
まだ元気だった頃の母は、飾った報告と写真を見ると、いつの頃からか「大変ね。これを出したり、しまったりは。いつかどこかに寄付とか出来るといいね。」と言うようになった。
そう。容易に飾り、当たり前に毎年お雛さまを観てくれるところ。
あったのだ。
本当にそれは突然決まった。
この週唯一晴れた、金曜の午後。夫と二人、大きな段ボール四つと、スチール製の雛壇の重い一抱えを二階からおろし、車に積んで。
ワゴン車を走らせ15分。
白梅が咲き誇る、可愛い保育園へ着いた。
園児がお昼寝の時間帯。数人の保育士さんが、すぐ出て来て園の講堂に運んでくれた。
段を組み立てるのだけは、レクチャー。
後は説明書を見れば、若い保育士さんなら容易に飾れる。
「ありがとうございます。」と笑顔の綺麗な保育士さんに、「こちらこそありがとうございます。どうか宜しくお願いします。」
(母の思いや私の感謝が籠ったこのお雛様、どうか毎年飾って下さい。)という重すぎる言葉を胸に秘め(笑)
それでもふと、母は喜んでくれるだろうか、本心はどうだったのだろう…がよぎる。
でもこの、真っ青な澄んだ空は、きっと母の気持ちなのだ、と解釈。
これから毎年、お雛様たちは、新しい住処で、元気な子どもたちを楽しませてくれることだろう。
雛の新居よ 梅白き 保育園
春空や 園に委ぬる 妣の雛
春光や 飛行機雲に 託す夢
しづかなる 雨のひと日の 雨水かな
そして、今日は雨水。雪が雨に変わり、草木の芽の萌え生ずる時季。
だが実際は、寒さがぶり返し、一日中冷たい雨が降る土曜日。
孫たちも来ない静かな一日となった。