いくつか確認したいことがあり、市内を一巡する前にクリチバ市役所を訪ねてみた。
庁舎正面の壁にクリチバの名称の由来とも言われている「パラナ松」のデザイン画を施したこじんまりとした庁舎に入ると、すぐに大きな受付とパーテーションでプライバシーを確保した市民課のカウンターが目に入った。
受付に座っていた女性3人に英語で話しかけると、全員困った顔をした。私も困った。イベリア半島に入った頃から、英語圏から遠く離れたことを実感していたが、南米に入るとさらにその感を強くする。
ブラジルの公用語はポルトガル語。込み入った話をする際にはまず、「英語か日本語でいいでしょうか」と確認するが、たいてい「エスパニョール?(スペイン語はだめ?)」と反対に聞かれてしまう。ポルトガル語とスペイン語を習得したいと、何度思ったことか。
笑顔とジェスチャーとイラスト描写で足りる場もある。が、足りない場面も少なくない。
庁内電話でどこかに電話をかけはじめた受付の女性に、「日本語の方がいいですが」と言うと、理解したのか笑いながら「しばらくそこで待って」というジェスチャーが返ってきた。
言葉も、用件もわからない外国人が、突然受付に来て粘っている。迷惑だろうなあ。そういう場合、呼ばれるのはどこの部署の職員だろう。などと思いながら受付横の長いすに座っていると、ブラウンのスーツ姿の女性が笑顔で近づいてきた。「Hi, may I help you?」と流暢な英語だ。
彼女は、広報課(Press Office)のサンドラ(Sandra)と名乗った。「クリチバ観光について何かご質問でも?」と持ってきた市内観光地図を広げようとした彼女の手を止め、一介の旅行者だが、都市計画が成功しているクリチバ市の市政について伺いたいゆえを伝えた。彼女は、ちょうど通りかかった男性職員を呼び止め、「彼は同じ部署のパウロ(Paulo)。彼にも助けてもらって、私たちのオフィスで話しましょう」と、二階にある広報課へ向かった。
それから応接テーブルを独占すること2時間。二人は突然の来訪者の初歩的な質問に、嫌な顔ひとつ見せず、各種資料を提示しながら熱心に説明を重ねてくれた。心から感謝である。
人口180万人都市にしては小さい庁舎だと思ったのは、文化、環境、スポーツ等10の専門部局を、市内の各要所に分散配置しているためだった。中央庁舎は、市長室、財政、政策、広報等の総務政策部門が入っている。市長の理念を共有し、目標を見据えて戦略的に事業展開し易い場所に各部局を置いているため、分散していることに不自由は感じないという。
「市内9ヶ所の地方支所も含めて、市内各所で職員4万人が市民生活を支えています」とサンドラさん。ブラジルでは、いわゆるパートタイムという雇用形態は存在しない。4万人全員が正規職員だ。
<巨大でユニークなパラナマツ>
世界から注目されているクリチバの都市計画の成功は、合計3期市長を務めたレルネル氏の強力なリーダーシップに導かれたと聞いていますが、と市長の話題に及ぶと、サンドラさんとパウロさんとはもちろんそうです、言いながら「今の市長もまた、すばらしい人です」と言葉を繋いだ。
2005年に就任した現市長、バトゥ・ヒシャ(Beto Richa)氏は現在42才。当選したときは40歳になったばかりだった。彼の前に2期市長を務め州政府へ引っ張られたたカシオ・タニグチ氏は日系二世だ。
「ヒシャ市長は、就任以来、時間があると75地域に出かけて市民集会(public meeting)を開催しています。この3年間で計200回を数えました」とサンドラさんが誇らしげに、前回のミーティングの写真を掲載した報道紙を広げた。若い市長が、地域の人に囲まれ、子どもを抱き、市民と握手する写真が満載された広報紙だ。
「とにかく市民との直接対話を重ね、自らの感性で市民のニーズを把握しようとしています。対話集会2時間を行った後、2時間かけてその地域を歩くのです」とパウロさんもヒシャ市長の話になると笑顔が増す。
「ヒシャ市長のすばらしさは、自分の考えを変えることを恐れないことです。」とサンドラさん。隣りのパウロさんも頷く。「市長は、とにかく対話を大切にしています。職員とは、各部ごとに昼食を一緒に食べて話しを聞いていたり。昨日は、建設部門の職員と一緒でしたよね?」と二人で確認し合う。
さすが、広報課職員だけあって市長の宣伝は怠らないと関心するが、二人の口調には、心から市長を信頼し、彼の行動を賞賛し、誇りに思う気持ちが伺える。
「クリチバは、ご存知のように、世界に認められる都市計画を推進しています。が、今、市長が専念しているのは、地域のごく小さな声を聞き取り、それをどう政策に結びつけていくかということです。」
二人と話をしていると、市職員としてばかりではなく一市民としての「私たちのクリチバ」「私たちの市長」という思いが強く伝わってきた。
庁舎正面の壁にクリチバの名称の由来とも言われている「パラナ松」のデザイン画を施したこじんまりとした庁舎に入ると、すぐに大きな受付とパーテーションでプライバシーを確保した市民課のカウンターが目に入った。
受付に座っていた女性3人に英語で話しかけると、全員困った顔をした。私も困った。イベリア半島に入った頃から、英語圏から遠く離れたことを実感していたが、南米に入るとさらにその感を強くする。
ブラジルの公用語はポルトガル語。込み入った話をする際にはまず、「英語か日本語でいいでしょうか」と確認するが、たいてい「エスパニョール?(スペイン語はだめ?)」と反対に聞かれてしまう。ポルトガル語とスペイン語を習得したいと、何度思ったことか。
笑顔とジェスチャーとイラスト描写で足りる場もある。が、足りない場面も少なくない。
庁内電話でどこかに電話をかけはじめた受付の女性に、「日本語の方がいいですが」と言うと、理解したのか笑いながら「しばらくそこで待って」というジェスチャーが返ってきた。
言葉も、用件もわからない外国人が、突然受付に来て粘っている。迷惑だろうなあ。そういう場合、呼ばれるのはどこの部署の職員だろう。などと思いながら受付横の長いすに座っていると、ブラウンのスーツ姿の女性が笑顔で近づいてきた。「Hi, may I help you?」と流暢な英語だ。
彼女は、広報課(Press Office)のサンドラ(Sandra)と名乗った。「クリチバ観光について何かご質問でも?」と持ってきた市内観光地図を広げようとした彼女の手を止め、一介の旅行者だが、都市計画が成功しているクリチバ市の市政について伺いたいゆえを伝えた。彼女は、ちょうど通りかかった男性職員を呼び止め、「彼は同じ部署のパウロ(Paulo)。彼にも助けてもらって、私たちのオフィスで話しましょう」と、二階にある広報課へ向かった。
それから応接テーブルを独占すること2時間。二人は突然の来訪者の初歩的な質問に、嫌な顔ひとつ見せず、各種資料を提示しながら熱心に説明を重ねてくれた。心から感謝である。
人口180万人都市にしては小さい庁舎だと思ったのは、文化、環境、スポーツ等10の専門部局を、市内の各要所に分散配置しているためだった。中央庁舎は、市長室、財政、政策、広報等の総務政策部門が入っている。市長の理念を共有し、目標を見据えて戦略的に事業展開し易い場所に各部局を置いているため、分散していることに不自由は感じないという。
「市内9ヶ所の地方支所も含めて、市内各所で職員4万人が市民生活を支えています」とサンドラさん。ブラジルでは、いわゆるパートタイムという雇用形態は存在しない。4万人全員が正規職員だ。
<巨大でユニークなパラナマツ>
世界から注目されているクリチバの都市計画の成功は、合計3期市長を務めたレルネル氏の強力なリーダーシップに導かれたと聞いていますが、と市長の話題に及ぶと、サンドラさんとパウロさんとはもちろんそうです、言いながら「今の市長もまた、すばらしい人です」と言葉を繋いだ。
2005年に就任した現市長、バトゥ・ヒシャ(Beto Richa)氏は現在42才。当選したときは40歳になったばかりだった。彼の前に2期市長を務め州政府へ引っ張られたたカシオ・タニグチ氏は日系二世だ。
「ヒシャ市長は、就任以来、時間があると75地域に出かけて市民集会(public meeting)を開催しています。この3年間で計200回を数えました」とサンドラさんが誇らしげに、前回のミーティングの写真を掲載した報道紙を広げた。若い市長が、地域の人に囲まれ、子どもを抱き、市民と握手する写真が満載された広報紙だ。
「とにかく市民との直接対話を重ね、自らの感性で市民のニーズを把握しようとしています。対話集会2時間を行った後、2時間かけてその地域を歩くのです」とパウロさんもヒシャ市長の話になると笑顔が増す。
「ヒシャ市長のすばらしさは、自分の考えを変えることを恐れないことです。」とサンドラさん。隣りのパウロさんも頷く。「市長は、とにかく対話を大切にしています。職員とは、各部ごとに昼食を一緒に食べて話しを聞いていたり。昨日は、建設部門の職員と一緒でしたよね?」と二人で確認し合う。
さすが、広報課職員だけあって市長の宣伝は怠らないと関心するが、二人の口調には、心から市長を信頼し、彼の行動を賞賛し、誇りに思う気持ちが伺える。
「クリチバは、ご存知のように、世界に認められる都市計画を推進しています。が、今、市長が専念しているのは、地域のごく小さな声を聞き取り、それをどう政策に結びつけていくかということです。」
二人と話をしていると、市職員としてばかりではなく一市民としての「私たちのクリチバ」「私たちの市長」という思いが強く伝わってきた。
井の中の蛙状態の私には、知らないことばかりです。
市民ニーズを的確につかむには、直接対話すること、という市長さんの姿勢がそのまま形になった町なのですね。
うらやましいです。
自分の中に、「この街をこうしたい。こうできそうだ」という可能性や総合的イメージを持っていれば、それにニーズを合わせて、具現化する順序や組み合わせに展開できるのだと思います。
いずれにせよ、市長の力量が真正面から問われる「市民集会」の開催には勇気がいると思います。