見果てぬ夢

様々な土地をゆっくりと歩き、そこに暮らす人たちに出会い、風景の中に立てば、何か見えてくるものがあるかもしれない。

乾燥地帯が守った地上絵(その2)

2008-01-07 23:25:35 | 南米
太平洋とアンデス山脈に挟まれた荒涼とした砂礫のナスカ平原に残された古代人のメッセージは、子どもが砂地に指で描いた絵のようだった。

450平方キロの平原に70点余りの動植物の絵と700点以上の幾何学模様が確認されていると言う。
遊覧飛行のルートに入っているのは、そのうちの12点余り。



時折、小さなセスナ機がふわりと風に流される浮遊感に軽い眩暈を覚えながら、爆音に紛れた操縦士のアナウンスに耳を凝らした。
「ツギ、ミギニ、クモ」
必ず、左右の乗客がそれぞれ眼下に絵を確認できるように、ひとつの絵の上を左右に旋回して飛ぶ。「モウイチド、ヒダリニ、クモ」
「あ、見えた!本当にクモの形をしている。小さいねえ、思ったより小さい」と前に座った妹が感動の声を上げた。
絵は、想像以上に広い範囲に点在していた。乗客が窓から観察し易いよう、絵の上に差し掛かると操縦士は機体を傾ける。宇宙飛行士、ペリカン、ハチドリ・・・巨大な絵、小柄な絵、消えかかって確認しにくい絵・・・絵柄以外にも多くの幾何学模様や直線が描かれた砂礫の平原は、子どもたちが棒を片手に走りながら描いたキャンパスのようだ。

カメラのファインダーと窓の交互を見ているうちに、眩暈が徐々に胸やけに変わってきた。冷や汗が額ににじむ。私は、カメラを閉じて、胸をこぶしで叩きながら「変な気分」と前に座っている妹に言ってみたが、彼女はそ知らぬ顔で振り向きもしない。
吐き気はないが、冷や汗と悪寒が迫る。そろそろ限界かもしれない、と思った時、滑走路が見えセスナ機が降下し始めた。

操縦士は日に何度飛行するのだろう。強靭な三半規管の持ち主だ。
わずか20分ほどの遊覧飛行を終え、セスナ機を降りたところで、よく平然とあの遊覧を楽しめたわねと妹に言うと、「振り向いて具合悪そうな姉さんを見れば、私も駄目になると思ってじっとしていたけど、限界寸前だった」と彼女。
酔い止めを飲まなかったらどうなっていたか、想像するだけで恐ろしい。




上空から見えた絵がどのように出来上がっているのか。確かめられる場所が平原の真ん中にある。
変人と揶揄されるほど、地上絵の研究と保護に取り組んだドイツ人研究者マリア・ライへが、私財を投入して建設したという観測塔(ミラドール)だ。彼女の精力的な活動のおかげで、地上絵が保護区に指定され、存続の危機から脱したと聞いた。

平原を突っ切るパンアメリカン・ハイウェイの途中に建てられたミラドールに登ると、間近に「木」と「手のひら」の地上絵を見ることができた。

砂礫の地表を、わずか3、4センチほど掘り返しただけの「線」が、1500年以上も残っていることが信じがたい。
目的も意味も不明なこの謎に満ちた巨大な芸術作品が、今後も多くの考古学者、人類学者、一般市民の興味をひきつけ、ロマンを与えて続けてくれることを祈るしかない。



↑ナスカ平原に2ヶ所あるオアシスは、砂漠の中の別天地。


↑リマからナスカに向かう砂漠地帯には、周辺から流れてきた人々の不法占拠の小屋が点在する。水も木もない砂漠の中に立つマッチ箱のような家で、どんな人々がどんな思いで暮らしているのか想像もできない。


コメント (3)    この記事についてブログを書く
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3 コメント

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Unknown (moon)
2008-01-17 10:22:31
画面や本で見ているには、貴重な前時代の遺跡を自分も一度は見たいな、とは思いますが、実際はとてもハードな観光地なんですね。貴重な体験でしたね。
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Unknown (ホウネンエビ)
2008-01-18 12:41:03
遅ればせながら、誕生日おめでとうございます。
ナスカの地上絵の遊覧飛行は、飛行機嫌いの私にはとても無理ですが、臨場感のある軽妙な文章を読ませていただいて疑似体験でき、楽しませていただきました。
健康に気をつけて、旅を続けてください。


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夢を壊さないように (ワイン)
2008-01-20 04:01:25
moonさん、ホウネンエビさん、本当はいかに地上絵が見事だったかを表現豊かに書き込めればいいのですが、言葉の表現力に乏しい私のブログは、どうしても強い印象に残った場面の実況中継をしてしまいがちです。世界の謎にもっている皆様のイメージや夢を壊してしまっていたらすみません(^^!)
ナスカに来て、この地上絵を守っていた女性研究者がいたということを知りましたが、彼女は地域の人たちに変人扱いされていたとのこと。信念を貫くためには、一過性の人の目を気にしていてはいけないですね。彼女の強い意志に感動しました。
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