見果てぬ夢

様々な土地をゆっくりと歩き、そこに暮らす人たちに出会い、風景の中に立てば、何か見えてくるものがあるかもしれない。

大胆かつ創造的な公共交通政策

2007-12-15 08:12:38 | 南米
1950年に18万だったクリチバの人口が、その後の10年間で倍増し、さらなる都市の拡大を見越したマスタープランが1966年に策定された。
人口が60万以上に膨れ上がる71年、33歳の若さで市長に指名されたジャイメ・レルネル氏は、膨張する都市の公共交通には地下鉄敷設が必至という周囲の意見を振り払い、地下鉄に匹敵する効率的かつ大量輸送力をバス運送に追及した。
地下鉄敷設と維持には巨大なコストがかかる。より安価なバス・システムを活用して、地下鉄と同レベルの効果を図ることができないものかと模索した結果が、今日世界的な評価を受けている総合的なバスの公共交通政策である。



システムは三セクの交通公社が運営を担い、民間のバス会社10社と連携して、市民の信頼に足る大量輸送力と効率性、利便性を追求した公共交通システムを構築させてきた。
バスの数ヶ所のドアから乗り降りが同時にできれば、乗降時間が大幅に短縮できるとの発想から、乗車前に料金を払うバス亭が考案された。各国の地下鉄や路面電車と同様の乗降システムであるが、無賃乗車対策に奮闘する欧州各国と異なるのは、停留所やターミナルに改札口を設けたことだ。



80年代には、統合交通ネットワークシステム(RIT)を策定。バスのネットワーク内運賃を一律にした。バス路線が集中する場所に総合ターミナルを設置し、最初のバス乗車の際に運賃を払えば、目的地まで何度でもバスを乗り換えることができるようにした。
実際、私は、クリチバ市の北東のサンジョゼ・ドス・ビニャイス市の日本人宿に滞在していたが、宿の前のバス停からクリチバ都心まで30分、市内と一律料金の1.9リアル(約120円)で移動していた。ターミナルでバスを数回乗り換え、複雑なルートでクリチバ市役所へ到着しても同一料金。運行本数も頻繁にあり、バスは一日中、多くの乗客で混雑していた。



クリチバ市の交通公社が、各バス会社と走行距離数単位で契約し、この低運賃で経営が成り立つのだろうか。率直に広報課のパウロさんにぶつけると、「走行ルートによって差はありますが、通勤や買い物等のバス利用客数が順調なので、運営は、利用運賃だけで成り立っています」と胸を張った。
服部圭郎著『人間都市クリチバ』(2004/学芸出版社)のデータをお借りすると、クリチバ市民の年間トリップ数は350(95年)で、ブラジル都市の中で最多。通勤手段として公共交通を利用する市民の割合は75%で、地下鉄が走るサンパウロの45%、リオの57%を遥かに上回っているという。

ちなみに、議会で先週承認されたばかりの2008年の公共交通システム運営費は4億US$。来年度もその全てを運賃で賄う予定だとパウロさんは言った。



都心部では、交通渋滞を防ぐために、バス専用道路と高速走行車道を完全に分離した交通システムをとっている。(↑写真)中央に見えるバス専用道の両脇は、周辺施設へのアクセス道路であり、低速走行用に狭い一般車道路となっている。この道路から1ブロック外の両側(建物の外側)に、高速走行用の一方通行車線が敷設されている。この3種の道路(バス専用道、低速アクセス道路、高速走行車線)の組み合わせ「トライナリー・システム」が、世界に注目されているクリチバの交通政策のひとつだ。


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