感動は命の肥し

曇りなき眼で、物事を見つめるなら必ずや真実を見極めることができる。覚醒の時を生きた記録として。

花のあと

2011-02-19 | 人物、映画、本、漫画、ドラマ
私が、特に好んで読む短編集のひとつがこの本だ。
とりわけ、表題作「花のあと」が大変おもしろい。
…「いかにも江口孫四郎でござる。」風貌も身なりも、どことなく朴訥な感じがする若者はそう名乗って眼にかすかな笑いをうかべた。…
この二人の出会いと別れが何とも良い。この主人公の女性が剣の使い手で、一度心を寄せた男の為に後、敵を取る話が気持ちよい。脇に出てくる夫たる人物がまた味がある。
…はやい話が、顔はお盆に目鼻という丸顔、中背なのに若いころから太っておったゆえ、姿がよいというわけでもない…
文章のすみずみまで先生の暖かい眼差しが感じられ、思わず声をだして笑ってしまう。
身分の差、叶わぬ思い、胸がしめつけられます。先生の円熟期の秀作。

「鬼ごっこ」は、昔、盗賊だったが足を洗い、小間物屋の隠居で暮らす男が、
自分のかこった19歳の娘を殺され、可哀相な娘の敵を討つ話。

…しかし暗い夜の道を歩いている時は、気持ちがべつのようになるようだった。
吉兵衛は見えない自分の背に、どう隠しようもなく盗っ人の気持ちがぺたりと張り付いているように思う事があった。…   この表現にうなりました。

「雪間草」は、昔、殿の寵愛を欲しいままにしながら、今は尼寺で暮らす女が
城に側妾として上がる前、嫁ぐ予定だった男の為に、一肌脱ぐ話。

「寒い灯」きつい義母とおりがあわず家を出た嫁が、寝込んだ義母を看病してくれと夫に泣きつかれ、女衒から逃げて行く先が夫と義母のもとしかないと心を決める女の話。


「冬の日」は子供の頃、母親の勤め先の娘だった女と再会、不幸な人生を歩んだ事を知り
共に生きてゆこうとする話。…白い冬の日がおいしの背をてらし、その背が小さく震えている。…

他、「疑惑」「旅の誘い」「悪癖」の全7編。


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