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九重自然史研究所便り

昆虫採集と観察のすすめ

ワカバグモの空中交尾

2016-05-10 22:36:09 | 日記
ワカバグモの空中交尾
2007年6月20日、大分県九重町地蔵原の一周道路を散歩中、緑色の小さな2匹の蜘蛛が糸でぶら下がり、まるで恋人たちが空中ブランコを楽しんでいるように見えた。これはカニグモ科のワカバグモの雌雄である。私は八木沼健夫:原色クモ類図鑑(保育社、1986)を見てツユグモだと思ったが、大学の後輩でクモの研究者である関根幹夫氏に写真を送って見てもらうとワカバグモOxytates triatipesの雌雄だと判明した。
写真はクモの配偶行動、つまりこれは交接という交尾に相当する生殖行動で、雄グモは自分の触肢の先端に精子を貯めておいて雌の腹面書肺(あるいは肺書)の下方にある生殖器の開口部に注入する。その部分は雌生殖器の単なる開口部であって、結合装置として特に発達していないので昆虫のように雌雄がつながることはなく、雄の触肢を通じて精子を授受するようだ。雄は雌の開口部を触肢の先端で何度も触れる、あるいは叩くようにも見える。このような精子の受け渡しをするため接触することを、雌雄の生殖器が結合する交尾と区別して交接という。第一図版の写真2は雄の触肢(チョコレート色の房状のもの)が雌の開口部に触れている。ゆらゆらと揺れながら雌は落下しないように自分の体を支える糸をしっかり保持し、他の脚は雄が腹面を合わせるように迫って来る妨げにならないように開かれている。雄は腹部から胸部にかけてチョコレート色を帯びるが、雌は緑色である。
同じく地蔵原で2010年5月中旬撮影したワカバグモの雌雄の写真もある。その写真は葉の表面で雄が仰向けになって雌の腹面に潜り込もうとしているのか、それともジョロウグモのように交接が済んだあと、不要になった雄を骨までしゃぶろうとしている夫殺しの凶行直前の緊迫した一瞬を撮影したスクープ写真だったのか今はわからない。蜘蛛の仲間にも交接後、夫を食べる妻がいるとは何かで読んだことがあるが、私はまだその現場を見たことはない。
他の写真もみなワカバグモ雌雄らしく、ツユグモの写真は1枚もなかった。このクモは花の上や葉の上で長い2対の脚を広げて他の虫が止まるのを待ち伏せしている。ツトガ科の小さなガを捕食した瞬間の写真もあり糸で獲物をぐるぐる巻きしてから殺す型のクモと違って、カニグモ類は頭部と胸部の間を牙で突き刺し頭部神経球を刺す。クモは体が柔らかいから、一瞬で獲物を殺さないと獲物次第で自分の方が殺される。とうとう出版されなかった九重昆虫記10巻には神経球に牙が食い込んでいる写真を示した。糸でぐるぐる巻きするクモなら獲物の神経球を狙う必要はないが、カニグモなどは必ず頭部神経球を刺す。
ムシヒキアブのことはファーブルにも出ていないが、私の観察ではカニグモと同じく頭部神経球を鋭い口吻で突き刺し毒を注入するらしい。彼らは前脚が発達し獲物を捕らえた瞬間、もう刺し終わっているので口吻が突き刺さった瞬間の写真は撮っていない。しかしムシヒキアブの狩りを観察すると狩った直後の獲物の頭部が必ず口吻近く位置している。クモやムシヒキアブの毒は獲物のどこを刺しても獲物は必ず死ぬが、一瞬で殺さなければ狩人自身に危険が及ぶから必ず頭部の神経球を刺すように進化したのだろう。シオヤアブがミツバチを狩った瞬間を撮影したことがあるが、それこそシャッター音とミツバチの羽音が止まるのとは同時だった。

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