公民・歴史教科書問題を中心に教育問題を考えていくブログ

恐るべき公民教育の問題を中心に扱っています。かなりの割合で小山常実氏のブログ(特に教科書資料)や著書を参考にしています。

【家族が消えていく】家族がどんどんなくなっていく公民教科書たち

2024-08-02 13:03:46 | 恐るべき公民教育

平成24年(2012年)度から使用される公民教科書以降、多数派教科書で家族が消えました。その後、令和3年度使用版からは、帝国書院からも家族が消えました。遅くなりましたが、現在採択中の令和7年度使用版について見ていきたいと思います。

ちなみに、今後記事にしたいと思っていますが、次回版の家庭科の教科書もかなり悲惨なことになっています。学習指導要領には「家族・家庭の基本的な機能」に触れよと書かれているので、全社が形だけは触れていますが、単元扱いするものはついに1社となりました。

残りの2社は「私たちと家族の関わり」のような単元の側注で簡単に「家族は、衣食住の提供、子どもを育てる、心の安らぎ、お金を稼ぐ、生活文化の継承の機能があります。」とするだけです。

単元扱いする1社にしても、各機能の説明は全く行わず、事実上、本文で記しているか、側注で記しているかという違いしかありません。令和3年度使用版でも、ガイダンス(導入編)で家族の機能をさらっと掲げるものがあったんですけどね...

それは良いとして、公民教科書の話に戻ります。

分析項目

①分量

②家族の定義

③「いこいの場」「人間形成の場」「家族の絆を深める場」などの家族の機能を書いているか

④親は子どもを養ったり教育したりする権利や義務があると書いているか

⑤親が子どもを「指導」(古い言い方では懲戒)する権利があると書いているか

⑥家族の形態の変化について記しているか

⑦家族が社会集団の中で唯一世代的な「縦のつながり」を有していることを書いているか

⑧家族にまつわる法制度について書いているか

●東京書籍...単語だけ(採択率1位なのに...)

記述内容「私たちは、さまざまな社会集団の中で生活しています。そのうち、生まれて最初に加わる、最も身近なものが家族です。さらに、私たちは地域社会や学校にも所属しています...こうしたことから人間は社会的存在といわれています。」

①分量...ないに等しい(1行未満)

②「最も身近なもの」程度...共同体どころか、基礎的な社会集団ともしない。

③④⑤⑥⑦⑧一切なし

●教育出版...単語だけ

記述内容「私たちは、家族、地域社会、学校、国家などさまざまな社会集団の中で暮らしています。そのうち、生まれて最初に出会うのは、家族です。地域社会や学校などは...」

①分量....ないに等しい(1行未満)

②「最初に出会う」?

③④⑤⑥⑦⑧一切なし

●育鵬社...採択率はない等しい

記述内容「家族は、社会的存在としての人間が協力して生きる上で最も身近で基礎的な社会集団です。私たちは、まず家族の中で育てられ、人格をはぐくみ、慣習や文化を受け継ぎ、社会で生きるためのルールやマナーを身につけます。」

①分量...一応、1単元2ページ。しかし、実質説明部分は4・5行程度。

②「最も身近で基礎的な社会集団」

③簡単に、人間形成の場、文化継承の場が書かれるだけ。「家族の中で育てられ、人格をはぐくみ、慣習や文化を受け継ぎ、社会で生きるためのルールやマナーを身につける」程度。しかしこれでもかなり優秀な方

④⑤一切なし

⑥妙に熱心...こんなことよりも、もっと本質的な説明をするべき

⑦⑧一切なし

●帝国書院...日本文教出版と同じくらい

記述内容「私たちにとって家族とは、最も基礎的な社会集団です。家族という集団は、個人が社会の一員として成長していくために大きな役割を果たしています。地域社会は、防災...などで住民の暮らしを支えています。」※この前に社会集団の一例で家族出てくる。そこで先に社会的存在を書くという稀有な構成。

①分量...多く見て3行程度

②「最も基礎的な社会集団」

③「個人が社会の一員として成長していくために大きな役割」...抽象的すぎて、これでは全く説明になっていない。

④⑤...一切ないが、強いて言うなら欄外の「国民生活に関する世論調査」の所で「子どもを生み、育てる場(27.1%)」と「子どもをしつける場(15.1%)」が出てくる。ただし、複数回答なので「家族団らんの場(64.2%)」などに比べ、説得力に欠ける。

⑤⑥⑦⑧一切なし

●自由社...現行教科書では最も充実。しかし採択率は驚異の0.001%(最下位)

記述内容「家族は、社会集団のなかで最も小さな単位の共同社会であり、家族の一人ひとりはまず何よりも、たがいに信じ合い、愛し合い、助け合い、教え合い、研鑽し合い、励まし合うことにより、家族の絆を強くしていきます。また家族は休息や心のやすらぎを得る場であり、家族のだんらんは大切です。親は、子供に言葉を身につけさせ、人格をはぐくんでいきます。

家族の生活の基本は、家計の維持や育児・家事です。家族の一人ひとりは、それぞれの役割を果たし、個人と社会とを結びつけることによって、家族を安定した社会や国家を築くための基礎とします。」

①分量...4ページ。しかし自由社にしても、本質的な説明部分は2ページほどしかないし、そもそも絶対量が足りない。

②「最も小さな単位の共同社会

③簡単に、休息や安らぎを得る場、人格形成の場、家事・育児など生活の場、文化継承の場、家族の絆を深める場などが出てくる。特に人格形成の場と家族の絆を深める場に重点を置いている。一応、家族の機能は全て紹介している。

④「民法は、親が未成年の子どもを監護し、教育する権限(親権)をもち、その義務を負うことを定めています(民法第 820 条)。監護とは子どもの身体を監督・保護することであり、教育とは子どもの人格の完成をはかることです。」

⑤明言していたものが、検定で「親権者は、社会的に許容される正当なしつけを監護及び教育として行うことができます」に変えさせられる。しかも、しつけの例として叱ることすら書けなかった。

⑥簡単に、戦前から現代にかけて書かれている。

⑦「現在の自分と友人や隣人との関係は『横のつながり』ととらえられます。これに対して、家族は、祖父母から父母、そして自分へとつながり、未来の自分の子供へと続く『縦のつながり』ととらえられます。」として、縦のつながり出てくる。

⑧親が子どもを監護し教育する権利や義務とその具体例が少し出てくる程度。しかし家族の相互援助義務などは平成28年版の帝国書院ですら書いていたものである。あとは、最近の教科書、それも保守系にしてはめずらしく日本国憲法を引用し、家族生活の基本に「個人の尊厳と両性の本質的平等」があることを書いている。

自由社は、家族に関する説明が最も充実していることを売りにしているし、現行教科書の中での比較ならたしかにそうだが、昭和20~40年代、いや家族に関する記述が急減し始めた昭和50年代初頭の教科書と比較しても明らかに少ない。

家族の基本的機能に最低でも4ページは当てて、その後、民法や家族制度の説明・家族の変化などを記した上で、昭和50年度版清水書院のような「明るい家庭をめざして」的な単元を設けるべき。

●日本文教出版...帝国書院と同じくらい

記述内容「人間はだれも、一人では生きていくことはできません。家族や地域社会、そして国家の一員であるとともに、学校や職場などに属し、その生活の場を広げていきます。人間が最初に所属する社会集団である家族は、本来いつくしみと思いやりにみちた最小の社会集団です。地域社会は...」

①分量...多く見て3行程度

②「人間が最初に所属する社会集団」

③「いつくしみと思いやりにみちた」?...機能といえるか微妙。しかし東京書籍や教育出版は、この程度の説明すらない。細かく見れば「生活の場」か?

④⑤一切なし

⑥単元は違うが、「核家族が増え」と少し出てくる。

⑦⑧一切なし

なお、この記述量で既にお気づきの方もおられると思うが、家族を単元見出しどころか小見出しにしている会社すら自由社と育鵬社以外では一社も存在しない。育鵬社は家族の単元にも関わらず、なぜか単元見出しに家族を入れず、「社会の変化」に逃げている。

東書・教出・日文・帝国→小見出しすらなし。

育鵬社→単元はあるのに、単元見出しに「家族」が出てこない。小見出しにはあるが小さい扱い。

自由社→節見出し、単元見出し、小見出しで家族出てくる。しかし節見出しで出てくるのに、どうして家族に主題を当てた単元が2つしかないのか。

家族に関する記述の推移

昭和20~40年代 全社が30~40ページ程度かけて説明

昭和50年代初頭 家族に関する説明が急減、平均10~15ページ

昭和50年代中盤~平成13年度 平均7ページ

平成14年度~平成23年度 家族を「基礎的な社会集団」とすらしない教科書が登場 平均4ページ

平成24年度~令和二年度 自由社・帝国書院・育鵬社を除く全ての教科書で家族に主題を当てた単元消される 平均1ページ

令和三年度以降 帝国書院からも家族単元消える 平均はついに1ページを割り込み、0.7ページ

次回版教科書ランク付け(家族に関する記述)

1位 自由社(家族の機能・親権・家族の形態の変化について必要最低限度の記述はしている。親族関係が足りない。とは現状は最も充実。しかし親族関係以外の面でも不十分だとは指摘しておく。)

2位 育鵬社(家族の機能があんまり説明できていないのと、力点がおかしいとだけ指摘しておく。親権も親族関係も当たり前のように無視。)

3位 帝国書院・日本文教出版(家族の機能に触れているといえるかもしれない群、家族の機能に触れる気はある群、こんなのが3位とか終わってる。もはや当然だが、親権も親族関係も無視。)

4位 東京書籍・教育出版(絶対に採択してはいけない教科書たち。論外。家族の機能・親権・家族の形態の変化・親権・親族関係、どれも出てこない。雑な定義があるだけ。ほぼ単語だけ。)

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