ターン

2005-05-01 08:23:11 | 読書徒然
「ターン」北村薫著
「スキップ」を読む前、この方名前からして女性かと思っていた。
文章も柔和な色彩なので。優しくて生真面目さの漂う文面。

またしても時間のいたずらをテーマにしたお話。
ここでは何度も同じ日の同じ時間に「くるりん」と戻ってしまうという設定。
しかも自分だけが現実の世界から取り残されて。
序盤主人公がとてつもない緊急事態だというのに、妙に冷静なのでどうしたもんかな・・?
と思ったけど。それも内なる「声」が助けてくれたから、ということなのね。
そしてその「声」にはもうひとつの意味があって。

人が帰ってくる場所。
それは生まれる前から知っていた人のもとに帰るということ。
すなわち、生まれる前はもともとひとつだった失った「片割れ」のもとへ帰るということ。

この物語はその半身を探す旅とも言える。



その説からいくと、自分の「片割れ」はもっともながら生まれる前から
決まっているということになる。つまり片割れとの「出会い」は避けることの
出来ない絶対的要素の塊にによって構成されることになる。
人はそれを「運命」と呼ぶのかもしれない。
これを自分に置き換えてみるとおもしろい。
つまり後々から振り返って
「あの時ここで出会ったから」「こういう言葉を交わしたから」「そんなことがあったから」
ということが全て実は偶然ではなくて、自分の人生にとってなくてはならない「必然性」を帯びてくるからだ。
だから、今生きているなかでも実は無意識にもその「必然性」を踏んでいるかもしれない、
と思うとなんだかワクワクするではありませんか。
「起こるべくして起こってしまったこと」とでも言えるかしら。
いつの間にか自分がその渦中にいるかもしれない。いやまさにど真ん中にいるのかも。
ただ、それが必然だったかどうか分かるのはだいぶ先、ということになるけど。

ターン前に主人公が「時」という作品を作ったのも必然。
孤独な主人公のもとにかかってきた電話も必然。
心の声と彼の声がだぶったのも必然。
そしてもとの世界に無事帰れたのも必然。

一見なんの関係も無い要素が一本の糸のように繋がって見えたその先。
そこに自分の帰るべき場所がある。

そして私は、どこに帰るのだろう?


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5 コメント

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最近この小説読みました (木図樫 初美)
2005-05-03 19:44:09
はじめまして。



『この物語はその半身を探す旅とも言える』



なるほど読みが深いですね。とっても興味深いです。



『運命』て決められてるものなのでしょうか?個人的には、何かのきっかけを与えてくれるような起点となる、もっとさり気ないものと思います。というか思いたい
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こんばんわ。 (こはる)
2005-05-03 21:15:37
ふたつの考え方があると思います。



ひとつは、人生とは「今していること」の積み重ねで未来の道のりが開けていくという考え。



もう一つは、大きな川の流れのようにある程度道のりは決まっていて、ただ私たちはそれを泳いでいるだけいう考え。



『運命』という言葉を使うなら後者のほうが近いかな。結局はどっちもあると思いますが、個人的には

ある程度「通過点」というのは決まっていると思いたい運命信者です。その方が、今少々行き詰っても「何とかなるさ」と気楽でいられそうだから。今躍起になって頑張っても空回ることってありますよね?

なので大きな川の流れに身を任せ・・の精神で。

きっとなるようになるし、「未来はもう決まっているのだから」と考えると、なんだか安心するんです。



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3部作 (太一)
2005-05-09 01:23:23
北村さんの作品の中で3部作の2番目ですね。

「スキップ」が結構分かりやすい作品に対して

「ターン」はチョッとひねった感じでした。

「リセット」はまた壮大な物語になっており

時3部作はそれぞれ舞台は違えど面白かったですよ。
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2人の薫さん (里花)
2005-05-19 01:08:29
はじめまして。



「ターン」は3部作の中で一番好きです。



北村薫と似た名前の作家で高村薫(こっちは女性)っていますよね。

最初に両方の作品を読んだとき、北村さんが女性で高村さんが男性だと思ってました(汗
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高村薫さん (こはる)
2005-05-19 21:00:17
はじめまして里花さん。



高村薫さんは読んだこと無いですね。

ミステリーですか??

今から最後となるリセットを読もうと思っています。

北村さんの文章はトゲトゲした心を

丸くしてくれるようなそんな文体ですね。

ある意味女性的かも・・・。



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