★☆第81回「自信回復7つの習慣~うつ解消・ヘルスマネジメント(心とからだ)技術(その2)」★☆
自信回復7つの習慣の2回目は、「第2の習慣●変えることができなければ、自分が変わりなさい」です。
わたしたちは、人生の中で、ストレスや失望、失敗などさまざまな辛い時期があります。そのような困難にどのように立ち向かったらいいのでしょう。これはわたしたちのウェルビーング(Well-Being「幸せ・健康」)に大きな課題となっています。自分に起こることをわたしたちには選ぶことができないのが普通ですが、起こることにどう対処するかは、選ぶことができます。
現実では、その対処の仕方はなかなかやさしいものではありませんが、最近のすぐれた研究知見の一つとして、レジリエンスを学ぶことができます。
レジリエンスとは、逆境をはね返す力、回復力とかの意味ですが、イメージとしては、強風にも折れることなくしなやかに耐える樹木の姿や、落ちても弾んで戻ってくるボールのイメージを思いえがくと分かりやすいかもしれません。
「第2の習慣●変えることができなければ、自分が変わりなさい」の言葉は、米のマヤ・アンジェロウ*から引用したものです。
『それが好きでないときにすべきことは、それを変えることです。もし、変えることができなければ、あなたの考え方を変えることです。不満を言ってはいけません』
また、精神科医のヴィクトール・E・フランクル**は、「生きる意味」を求めて悩み苦しむ人々を援助し続けてきました。彼は、こう言っています。
『人間からすべてのものを奪うことはできる。ただ一つのことをのぞいて。それは、人間の自由の最後のもの―与えられたどのような環境においても自分の態度を選ぶ自由、自分自身の道を選ぶ自由だ。』(夜と霧<(Man's Search for Meaning>)
いずれも、ものごとはいろんな困難があるけれども、主体的に自分を変えていくことで、それを実現するということです。
さて、逆境をはね返す力(レジリエンス)をもつ、しなやかで強い自分に変えるにはどうしたらいいのでしょう。
代表的なレジリエンストレーニングに、ポジティブ心理学のマーティン・セリグマン博士のペン・レジリエンシー・プログラム(PRP)がありますが、その情報は本や研修に譲ることとして、ここでは、レジリエンスをどう育むかについて、オーストラリアの子ども向けのプログラム***を紹介します。もともと、レジリエンスは、発達心理学を中心に発展してきたものですが、子ども向けも大人向けも基本は同じだと思います。支援する側のやり方を、大人の自分に置き換えて、どうすれば自分のレジリエンスを高めていけばいいかを、自ら考え、工夫して、セルフケアを実行することも一つの方法でしょう。
レジリエンスを考える場合、まず、苦難や逆境を避けたり、失くすことが大事だという議論があります。現実の世界を考えると、そう考えるより、苦難や逆境を経験したときに、それをどうやって克服するか、つまりレジリエンスをいかに育むか、がより重要だと考えます。
レジリエンスを育む要因として考えられるのは、本人とそれを取り巻く環境とに分けられます。本人では、本人自身の苦難や逆境に対応する力や健康的な考え方の習慣をつけること。環境面では、家庭や一定のコミュニティなど社会的要因があります。つまり、両親の効果的な育児法や兄弟姉妹などの家庭内関係や愛着を高めること。学校・隣人・友達・同僚などの一定のコミュニティ内でのポジティブな関係促進。そして、マスメディアや政治経済環境、立法、社会文化的価値などの社会的要因です。
そこで、レジリエンスの育み方の枠組みを、図に示しました。5つの鍵があります。
1.レジリエンス教育、2.支援関係を作り、強化し、促進する、3.自主性と責任感にフォーカスする、4. 感情をうまく処理させる、5.個人でチャレンジする機会を作る、の5つです。
以下、一つずつ分かりやすく説明します。
1.レジリエンス教育
まず、あなたがパイロットだと想定します。飛行中に、当初の予想に反して、かなり天候が悪くなりました。目的地まで安全に到着するために、どのように飛行機を操縦するかをイメージしましょう。
どのくらい悪い天候が続くのか、どのくらい長く過酷な状況が続くのか、これらの判断は、パイロットの自分だけではどうにもならないでしょう。この悪天候で、副操縦士や客室乗務員、地上クルーの支援なしでは、目的地まで安全に到着することはできません。副操縦士、客室乗務員、地上クルーは、両親や兄弟姉妹、おじおば、近隣の人・友人・同僚、親戚、学校の先生や健康支援の専門家などに当たります。
レジリエンスとは、
・自分や環境(家庭内の関係性など)とそれらの相互作用が絡んだダイナミックなプロセスを通して発展されるもの。
・時が経つにつれて変わるもの。
・現在の苦難や逆境経験を扱う、あるいは将来の苦難や逆境経験に準備できる、誰もが学ぶことができるもの。
・家族や文化的背景、幅広いコミュニティを含むさまざまな場所で、違ったように見えるもの、です。
個人がもっていたり、もたなかったりするものではありませんし、個人のスキルや能力だけに限ったものでもありません。もちろん、生まれつきのものでもありませんし、遺伝的なものでもありません。ネガティブな感情から解き放されたものでもありません。
このことを肝に銘じましょう。
さて、レジリエンスを育む日常的な方法として、4つの具体策があります。
2.支援関係を作り、強化し、促進する
・レジリエンスを育む基礎になるのは、子どもとの質の高い関係性づくりです。読書したり、映画などを見て、困難な時を経験した主人公について、「あなたならどう感じるの」、というように、エンパシー(共感)を経験する機会を与えましょう。
・ソーシャルスキルを改善するため、まだ会ってない友人・知人に会う機会をつくったり、子どもの友達と一緒にゲームをしたり、なにか一緒の課題を解決するようにセッティングしましょう。
・「これはちょっと難しいかも知れないけど、チャレンジすることはいいことよ」と、子どもがなにかにチャレンジするように、促します。
3.自主性と責任感にフォーカスする
・当人が困難に直面しているときに、「どう対処するの、どんなやり方をするの」、と話しかけます。
・たとえば、部屋の整理をどうするかや誰かのお祝いをどうするかなど計画を立てさせ、当人自身に決めさせるようにします。
・「何か心配はないの」など積極的に子どもにたずねる。なにか課題を考え、課題を解決する機会を作って、複数の友達といろんなアイデアを出し合うようにさせます。
4. 感情をうまく処理させる
レジリエントな人になるということは、いつも気持ちがよいことでも感情を表に出さないことでもありません。健康的でポジティブな方法で、感情をうまく処理させることができる人です。
・悩んでたり苦しんでいたりしているときに、「悲しんでいることが分かるよ、泣いてもいいよ」と、当人が抱くその時の感情を認めるようにします。
・たとえば、プレゼンテーションのことを心配しているときは、家族で、静かな所で、一緒に練習し自信をつけさせます。
・ときどき、「今日起きた最もいいことは?」「今日かなりしんどかったことは何だっけ?」と話しかけます。これは、当人の感情を認めさせたり、感情をはっきりと表現させる学びとなるだけでなく、課題解決のスキルや対処法を発展させる良い機会になります。
・マインドフルネス、呼吸法などのリラックス法を日々の生活に取り入れます。
5.個人でチャレンジする機会を作る
・「日常の」苦難、たとえば、雨の日にぬかるみを歩かせたり、やったことのない料理を作らせたり、野外でのゲーム感覚での迷路体験などがあります。
・「健全なリスク」体験を推奨します。健全なリスク体験とは、たとえば、やりたいなあと興味があるけれでもやったことのないことで、スポーツの体験、ダンス、演劇クラブへの参加やオリエンテーリング、キャンプなどへの参加があります。
これまでの自分の生活習慣を変えることはなかなか難しいですが、困難を乗り越えられる、しなやかな自分になりたいと思うなら、もう一つ踏み込んで、日常的に小さな決心を積み重ねて、新しいことにひとつずつチャレンジすれば、気分も変わって自信も取り戻し、なにか違う別の日常がみえてくるはずです。
次回は、第3の習慣「気分をよくする食事をとる」です。食事は、とても大事ですよ。
【注】
*マヤ・アンジェロウMaya Angelou (1928~2014)アメリカを代表する黒人女性詩人、作家、公民権運動家。
**ヴィクトール・エミール・フランクル (1905~1997)、オーストリアの精神科医、心理学者
***オーストラリアの子ども向けのプログラムは、Beyond Blueの Building resilience in children aged 0–12: A practice guide (英語)より採用した。Beyond Blue(有限責任保証会社)は豪州の代表的なメンタルヘルス支援機関で、300万人のオーストラリア人の不安・うつ・自殺への情報や学習機会の提供を行っている。
Mental Health First Aider (メンタルヘルス=こころの健康実践援助家)より